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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その218~裏切り者と渇く者㊸~

「ねぇ、王様の私室にあんな軍議用のテーブルって持ち込むものなの?」


 その問いかけに誰も答えられはしない。それはそうだ、誰も王族の私生活やしきたりなど、傭兵にわかるはずもないからだ。元貴族の者もいるが、王族に連なりでもしなければ本当のところは理解できないだろう。まして、他国ともなれば風習も違うのは当然。


「王様が軍議の様子を知りたかったからじゃないか?」

「軍議って、結構荒れるよね? そんな隣で病人が安静にできるの?」

「俺に聞くなよ・・・」

「ヘンテコなデザインのテーブルだねぇ。いつの時代のものだろ?」


 ユーティの何気ない一言に、ルナティカがはっとした。質実剛健を旨とするアレクサンドリアなのに、テーブルの意匠は豪華だった。それが不釣り合いで違和感を抱いたことに気付いたのだ。

それに、歴代の王を部屋の中で描いた絵も多くあるが、その中にあのテーブルはない。あのサイズの大きさのものを、どうやってこの部屋に入れたのか。

まだある。この蛆まみれの部屋で、あのテーブルが綺麗すぎるのだ。ルナティカが警戒していると、レヌールがユーティの質問に答えていた。


「あの材質・・・ロックハイヤー大雪原に近い、白楊樹林帯で取れる珍しい材質の木ですね」

「レヌール、わかるんだ?」

「私の本分は、センサー能力を使った鑑定士ですから。でも、白楊ドロノキを使った家具を扱うのは凄く珍しくて、一部民族でかつて使っていたとしか聞いたことがありませんね」

「なんで?」

「材木が今ではとても珍しくて、それでいて耐久性に優れていないからですね。湿気を含むから加工も難しいですし、その割に美術品としての価値も高くありませんし。まさかアレクサンドリアの軍議用のテーブルに、こんなものがあるとはとても驚きです。せいぜい山岳民の一部しか使わないのでは」

「なるほど」


 ユーティがもっともらしく納得したところで、ルナティカが突然手を上げて拳を握り込んだ。その意味がわかると、俄かに表情が一同引き締まる。

 そしてユーティが何事かと思っている間に、ルナティカは短剣をそのテーブルめがけて思い切り投げつけた。


「ギィヤアアア!」


 短剣が当たったテーブルの脚からどろりと真っ赤な樹液のような液体が滲みだしたかと思うと、テーブルが人間のように悲鳴を上げた。静寂を突き破る悲鳴の大きさにユーティが耳を塞ぐと同時に、ルナティカをはじめとした傭兵たちが一斉に武器を構えた。


「レヌール!」

「生命体じゃありません! こいつは――こいつは、人形と同じです!」


 レヌールが叫ぶと同時に、テーブルがぐにゃりと体を曲げて躍りかかってきた。まるで生き物のようにぐにゃりとその体を曲げる天井に届くかのように反り返ると、足を振り下ろしてルナティカたちを踏みつぶさんとする。

そのような大ぶりの攻撃を食らう戦士はここにはいないが、王の死体はその脚に潰されて、折れた寝台と共に潰されて見えなくなった。


「なんだこいつは!?」

「おそらくは、サイレンスの一部! いえ、本体かも!」


 ルナティカの言葉に全員の緊張感がみなぎる。まさか黒の魔術師の一人が、こんなところにいるとは。

 ルナティカも失念していた。相手が人形を分体として扱うほどの技術があるのなら、当然それ以外の何かを使うことなど容易なはずなのだ。人間の姿で長く潜伏するならば、姿形が変わらないことを訝しまれる。だが物なら、さらに言うならば代えのきかない家具なら。いつまでも素知らぬ顔をしてそこにいることが可能だ。まして軍議を行うテーブルともなると、国家機密など知り放題だっただろう。

 そんな可能性について、今まで誰も追及してこなかった。あのアルフィリースでさえも、その可能性を考えていただろうか。驚愕する一同の前で、さらに敵は体を変形させていた。脚がさらに生え、多脚多節の生き物のような姿に変形していた。その脚が、王の部屋に飾ってあった武器を取り始めていた。



続く

次回投稿は、6/5(月)7:00です。

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