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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2541/2685

開戦、その215~裏切り者と渇く者㊵~

「腕だけ、脚だけ、胴体だけ・・・」

「なんておぞましい」


 傭兵たちが思わず声を出すのも無理からぬ。そこには腕、脚、体といった体の各部がそれぞれまとめて積み上げられ、無造作に地面に放り出してあった。その間を手足と首が異様に長い、人間の姿を模した何かが徘徊している。彼らは体の各部位を一つずつ寄り合わせ、組み合わせを模索しながらしっくりくると中央の台の上に置いた。

 頭以外の各部位がそこに置かれると、頭を盆の上に並べた仮面の小人たちがたくさんそこに入ってきた。そして互いの持っている頭に関してキィキィと論議を交わすと、何体かの小人は下がり、残った小人たちは互いの胸倉を掴みあって殴り合い、勝ったらしき一人の小人が高々と頭を掲げて、その頭を安置して小人は去っていった。

 そして次に入ってきた四足歩行の針金のような虫が、尻についた突起から針金のようなものを出して各部位をつなぎ合わせ、その体の卵を産み付けるように核を刺し込むと、その場で崩れ落ちて動かなくなった。それと入れ替わるように人形になった何者かが動き始め、のろのろと先ほどの列の方に歩き出していったのだ。

 その一連の作業を一同は茫然と眺めていたが、またしばらくすると同じ作業が繰り返され始めた。さすがのイェーガーの精鋭たちはこの奇妙な光景を見ても声を上げはしないが、同時に言葉を発することもできなかった。ルナティカは判断に迷った。この悪夢のような循環を止めることはおそらくできるが、そのせいで発見されたりすればそれは本末転倒だ。だが同時に、これを止めなくてもよいのだろうかとも思う。ここに来てルナティカは肝心な判断力がないことに気づいて戸惑っていた。いつもアルフィリースやラインに言われるがままに動き、そしてレイヤーの直観に引っ張られるように動いていた。自分ひとりなら迷いなく潰しに行くだろうが、仲間が多い状況でどうしたものか、そこまで想定していなかったのだ。

だが、そこでもエルシアが声を上げた。


「眺めていてもしょうがない、次に行きましょう」

「これを潰さなくてもいいの?」


 エルシアの言葉にユーティが反論する。


「やる意味がないんじゃない? だって、他の場所にもあるかもしれないし。そもそも、あの体の各部位はどこで生産されているの? 頭は? それ全部を把握していると、日が暮れるわ」

「だからってさぁ」

「最悪、この王宮に火をかければいい。どうせまともな人間なんて、いやしないでしょ」


 エルシアの過激な言葉に仲間の傭兵たちは唖然としながらも、ぷっと噴き出した。小さく沸き起こる笑いがエルシアには以外だったのか、エルシアの方が困惑顔になる。


「何よ。私、変なこと言った?」

「人間最古の王国の王宮に火をかけようなんて過激な発言は、普通誰もしませんよ」

「悪かったわね、普通じゃなくて」


 レヌールの解説にエルシアはふくれっ面となったが、逆にルナティカはエルシアの言葉でやるべきことを見出していた。


「そうだな、跡形もなくやればいい」

「ちょっと。ルナティカが言うと、洒落にならないんだけど?」

「冗談ではないからな。それよりレヌール、ここから先に人間の反応はあるか?」

「待ってください、この王宮の防御は実に穴だらけですが、すべてにセンサーが通るわけでもないので・・・」

「それでいい。センサーが通らない場所も教えてくれ」


 レヌールの言葉を待たずして、ルナティカにはなんとなく結論わかっていた。ここまで誰にも見つからず侵入でき、またレヌールが優秀であるにせよ、この王宮の警備はあまりに穴だらけすぎる。

 やがてレヌールが、想像どおりの返事をした。


「あの・・・いません」

「一人もか?」

「は、はい」

「センサーが通らない場所は?」

「王宮の、隣の塔の上層部に一つだけ」

「では、そこに向かう」

「罠じゃないの?」


 エルシアの意見はもっともだったが、ルナティカは否定せざるをえなかった。


「どのみち王宮の見取り図はない。怪しい場所から潰すしかない」

「適当だなぁ」

「あとは勘。各自、気になった場所があったら言って。時間はあまりないけど、やれるところはしらみ潰しにする」

「「「了解!」」」


 ルナティカの言葉に小さく唱和すると、彼らはレヌールのセンサーで気配を消しながら、音もなく滑るように走り出した。



続く

次回投稿は、5/30(火)7:00です。元の投稿ペースに戻します。

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