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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その199~裏切り者と渇く者㉔~

 先頭を行く傭兵が手で合図し、その動きに従いながら全員が動く。そして扉を押し開けると同時に、彼らは仕掛けた。音も声もなく、一斉に何も見えない宙に剣を突き出す。いくつかの金属音が響くが、ある者の手には肉を裂く感触が伝わり、宙から血が滲むと、ぐらりと血の塊が倒れて音がした。

 それが合図となり、戦士の後ろから弓兵が複数飛び出すと何もない宙に向かって同じく矢を射かけた。3本のうち2本が弾かれ、1本が宙に刺さる。それを目印に、4人1組となって大盾で廊下を塞ぐようにして傭兵が突進した。

 相手の剣が盾を貫通して、一人の腕を斬り裂いた。だが傭兵たちは気合の声とともにそのまま強引に相手を壁に叩きつけると、盾の裏から剣を突き刺して相手を仕留めた。傭兵たちが2人の敵を仕留める間に、ルナティカが静かにもう2人を仕留めていた。


「・・・出る幕がない」


 エルシアはぼそりと呟いたが、どこかで安堵してもいた。相手はレイドリンド家の剣士で、一対一ならA級の傭兵でも苦戦は免れない相手だと説明されている。先手を打って、なおかつ集団戦で追い込んだからことあっさりと倒したように見えるだけで、むしろエルシアよりも経験が豊富な剣士たちで苦戦するようなら、この建物の制圧は失敗する可能性すらある。

 ここまで準備して、それでも一人が深手を負った。特殊兵が担当する1回と、ワヌ=ヨッダの戦士団が担当する3階ではまだ剣戟の音が聞こえている。このまま制圧できればと思うが、センサーが通らぬ部屋に近づこうとして、思わず全員がびくりと身を竦めた。そこには、姿を隠すことなく一人の女剣士が立っていたからだ。

 ラインは襲撃前に予測していた。レイドリンド家は隠密で動くことが多いから姿を隠すことが多いが、隠していない奴らころ要注意だと。つまりそれは、隠す意味がないほどに腕利きで有名であることがほとんどだから、だと。

 その情報がなかったとしても、統一武術大会で、先の戦いでシャルロッテという強敵と戦ったエルシアだからわかる。彼らと同じ、あるいはそれ以上の威圧感を纏う相手が目の前にいると。

 目的の部屋の扉にもたれかかるようにして立っていた剣士が、ゆっくりと動いてため息をついた。


「嫌だねぇ、ドーナとコルヴァ以外はあっさり全滅するなんて。レイドリンドの精鋭も地に落ちたもんだ。死ぬ前には、目の前の連中くらい道連れにしなと、あれほど口酸っぱく言ってきたのに。死に損じゃないかい」


 声は驚いたことに、女のものだった。ウェーブのかかった短めの髪をかき上げると、そこには初老の女剣士の顔があった。ばりばりと情けなさそうに髪をかく仕草にすら、隙がない。先頭の傭兵たちも、剣を構えて距離を測るだけで、抜剣していない相手にすら襲い掛かりはしなかった。


「ま、あんたらがそれなりにやれるのは認めるさ。だけどねぇ、いかに腕がたとうが傭兵ごときに舐められるようじゃ、あたしらの存在意義はねぇのさ。わかるよな?」

「・・・名のある剣士とお見受けするが、覚悟されよ!」


 最前列にいた傭兵が気合と共に襲い掛かった。上段から変化をつけ、袈裟掛けに斬り降ろされる剣筋。狭い廊下では躱しにくいはずのその一撃に目にも止まらぬ速度で女剣士は飛び込むと、一瞬でその傭兵は喉を裂かれて崩れ落ちた。

 まだ女剣士は、「抜いて」いない。


「はっ! あたしのことを知らねぇってか!? テメェら、モグリもいいところだな!」

「うおおっ!」


 仲間がやられたのを見て、さらに次の傭兵が女剣士に斬りかかる。だが剣はまたしても女剣士に届くことなく、傭兵はその場で回ると背中を相手に晒し、そのまま崩れ落ちるようにして倒れた。

 エルシアは見た。その女剣士が何をしているのか。その女剣士は指の背で挟むようにしてこちらの剣を受け流し、剣先を変えていた。そして指で喉を突き破り、皮鎧の上から背骨を粉砕したのだ。尋常ではない鍛え方をしている指。あの指の前では、半端な剣は霞んで見える。

 女剣士が噴き上がる殺気と共に、名乗りを上げた。


「あたしはイメル! イメル=クワーク=レイドリンド! レイドリンド家の、近接戦闘指導教官だ、覚えとけ!」

「先輩たち、どいて!」


 イメルが突撃してくるのを迎撃に出たのが2人。後の面子はエルシアの掛け声にはっとして思わず後退した。迎撃に出た2人はイメルの突撃に交錯した瞬間に崩れ落ち、足止めにもなりはしない。だが残りが後退したことで少しだけ空間ができたのを利用して、エルシアがその間合いに躍り出た。そしてレイピアを抜くと、渾身の突きを放つ。

 その突きを、イメルは初めて剣を抜いて受けた。



続く

次回投稿は、4/28(金)10:00です。

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