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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その195~裏切り者と渇く者⑳~

 アルフィリースのその表情を見て、ラインは考えを巡らせた。今ならわかる。どうして当時はそのことを考えなかったのか。


「――人間の中に、本当に反乱を企てている奴がいるってのか」

「・・・あなたって、本当に察しが良いわね。その察しの良さを出会った頃から発揮していたら、少しは印象も違ったのに」

「悪かったな。当時はからかいでのある小娘だと思っていたものでよ」

「今は?」

「悪だくみが一緒にできるくらいの相手だとは思っているさ。で、根拠はあるのか?」

「アルマスがレイドリンド家の一部隊を保護しているわ」


 その言葉に、ラインの眉がぴくりと動いた。アルフィリースの一言で、その意味を察したようだ。


「――それは、いつぞやイェーガーにディオーレ様が来た時に、襲撃してきた連中か?」

「そこまでは聞けなかった。ただ、ミューゼ殿下がアルマスを雇い入れた時に転がり込んできた連中よ。そう考えれば、彼らが何を考えているかもわかるはず」

「なるほど。最初はアレクサンドリア中央の誰かがディオーレ様の存在を疎んじたのかと思っていたが、そうじゃない可能性もあるな。外部の人間のところにレイドリンド家が転がり込むのなら、そもそもアレクサンドリアの転覆を考えていたのか」

「あるいは、そう思わせたいのかもしれない。あんなところでディオーレをあんな少人数でやれるだなんて、彼らも本気で考えていたとは思えない。ならばアルマスに転がり込んで見せることで、別の可能性を示唆したかったのかもしれない」

「つまりは、レイドリンド家には3つ以上の勢力があるってことか」


 レイドリンド家は元来、アレクサンドリア王家が保持する最強の剣だ。対を成すのは、最強の盾であるディオーレ。ディオーレが台頭してからはレイドリンド家はめっきり表舞台からは姿を消したが、彼らは対人専門の武家として剣を磨くことを忘れたことはない。

 その最大の目的は王家の存続であると同時に、アレクサンドリアの存続にふさわしくない人物の抹殺でもある。ならば、王家そのものにアレクサンドリアの存続にふさわしくない者が出現した場合はどうなるのか。最強の矛は行き先を失うのかもしれない。

 ラインは、自らが切り捨てた王太子の顔を思い出した。あれだけのことをしておきながら、みっともなく味方を盾に命乞いをしたあの情けない顔。あんな者にレイドリンド家も剣を捧げたくはないと考える者が出て来てもおかしくはない。

 ラインの想像がアルフィリースにわかるわけではない。だが、その表情からアルフィリースも察することはできる。


「これは想像だけど、アレクサンドリアの世継ぎが相当の愚者だった場合、レイドリンド家は割れるでしょうね。どんなことであれ王家の命令に殉じる者、王家の命令に背いてでも国を存続させる者、そしてどちらでもない中立の者」

「ただ、中立を保つ者が大人しくしているとは限らない」

「そういうことね。中立ではなく、どちらでもない――つまりはアレクサンドリアのためになる、新たな王を擁立する動きを見せる者がいてもおかしくはない」

「迷惑な話だ」


 呆れたようにため息をついたラインを見て、アルフィリースが目を丸くした。


「あら、その王の候補にあなたが入っているとは考えないの?」

「はぁ!? それこそありえないだろ。なんで俺が!」

「ディオーレの配下のイブラン、だっけ? 彼はその可能性も全く考えていないわけではないと思ったけど」


 イブランは執拗にラインに絡んできたが、思い返せばあれは期待をしていたともとれる。ラインはまさかと思ったが、そのくらい考えないではないとも思った。彼自身が行動に移すわけではなくても、彼自身がアレクサンドリア内のさらなる過激派を警戒したのは、ひょっとして本当に自分を擁立する動きがあったからなのかと、ラインは今更ながらに思い至った。


「馬鹿な、さすがに王家の誰かから選ぶさ。でなけりゃ貴族共が納得するものか。周辺諸国だってそうだ」

「王家直系の血筋は途絶えたのに? 少し調べたけど、傍系の血筋はどれもが立場が同じくらいで、誰を擁立しても揉めることは必須だわ。家柄も能力もさほど差がないなら、いっそディオーレが――いえ、それが無理なら、ふさわしい能力を持つ誰がなったっていいじゃないの?」

「アルフィリース、お前は貴族をなんだと」

「貴族だって、最初は平民だわ。ただ、大戦期の初期やそれぞれの国の成立時に功が大きかっただけのことよ。特に実力主義、尚武の風土が色濃いアレクサンドリアでは、強さこそが騎士の責務だったはず。だから皆、厳しい訓練を経て立派な騎士になるのではなくて? それに、アレクサンドリアが内乱を起して国力を削がれるなら、周辺の国は喜びこそすれ、誰も不満は言わないわ。それが外交でしょう?」


 アルフィリースの言うことはいちいちもっともだった。そんな簡単なことすら思い至らなかったのは、ラインに中に出世意欲が欠如してしまったからかもしれない。

 だが、ラインを王にしようと考えるとしたら、一つの可能性が思いつく。これから誰が、どう出るのかも想像がつき始めた。おそらくはこれが光明だ。アレクサンドリアを正常な国家に戻し、大乱に歯止めをかける。ローマンズランドにも好き勝手させないことすら可能になるかもしれない。そして、そのための鍵を自分が握っている。こんなことがありえるのかと、ラインは拳を握りしめていた。けっして高揚からではない。自らの呪われたような運命に、そこに至るまで気付きもしなかった自分に怒りを覚えたのだ。

 その様子に気付いたアルフィリースの眉が動いた。



続く

次回投稿は、4/21(金)10:00です。

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