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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2519/2685

開戦、その193~裏切り者と渇く者⑱~

***


「これは――」

「――理解不能」


 首都アレクサンドリアが始まると、火砲の一斉砲撃で門を粉砕してイェーガーがあっという間に突入した。前時代的な城壁はいかに強固であろうと、物理攻撃に弱い。魔術対策が施してあっても、爆裂魔術の如き強力な火砲の雨の前には無力だった。

 最初の砲撃のうち2つ3つが当たると門が歪み、射角を調整した二撃目が一斉に命中すると北門が破れ、抵抗らしい抵抗もないまま、イェーガーはアレクサンドリアに突入することになった。あまりの呆気なさに、一同が拍子抜けするほどに。

 だがそこで彼らが見た光景は、想像もしていなかった。首都に「住民」は、誰もいなかった。そこにいたのは、老人も、主婦も、露店の店主も、遊び回っているはずの子どもでさえ、等しく全員が武器を手にしてイェーガーの部隊に向けていたのだ。

 確かに町は燃えている。だが、その火を誰も消そうとしていない。一瞬唖然として、そして理解の追いついたラインが歯ぎしりしながら叫んだ。


「・・・やられた! とっくに人形の都か!」

「どういうこと?」

「反乱軍がアレクサンドリアに侵入したんじゃない、他の連中が火をつけたんだ。おびき寄せられた、バーゼルの奴は知っていやがった! これじゃあ、先に攻め込んだ俺たちが侵略者になっちまう!」


 ラインの腹積もりでは、先にバーゼルたちのような正規の反乱軍が首都に攻め寄せ、あくまでイェーガーは要請に従って補助をしたという形にするつもりだった。バーゼルに先に攻め寄せてもらい、囮になってもらってそのうちに手薄のアレクサンドリアに侵入。そうして実利を取るつもりだった。

 そのために準備をしてきたつもりだった。アレクサンドリアの情勢は常に調べていたし、コーウェンの策にも抜かりはなかった。アレクサンドリアという国の体制に不満を抱えている者は多く、バーゼルがどこに左遷されているかも事前に調べて上げていたのだ。ラインは少なくとも最初から、バーゼルを焚きつけて反乱を起こさせるつもりだった。その戦略を聞いたうえで、細かい戦術を練ったのはコーウェンではあるが。

 ただ、実利を取りたいのはバーゼルたちとて同じ。そしてバーゼルは、長く、長くこのアレクサンドリアをどうするかを考えてきたはずだ。当然、ラインたちよりも用意周到だとしてもなんら不思議はない。

 だがイェーガーの行動は、ここまで伏せられているはずだった。幹部にさえ、どこをどう攻めてここまで来るかは、知らせていない。コーウェンでさえ、バーゼルとラインの関係は知らなかった。

 バーゼルはどうやってイェーガーを利用しようと思ったのか。咄嗟の機転と思いつきだとしても、ここまではまるものなのか。ラインはバーゼルに対する考え方を改めることにした。


「あいつ、思ったよりも狸だったかもな。出たのは腹だけじゃなかったかよ」

「さて、どうしますか~? 本当にこのアレクサンドリアを殲滅するのであれば~、市街地にも雨あられと火砲を降らすことは可能ですが~」

「よせ、それじゃあ本当に国際的に言い訳ができなくなる。こちらの被害が出ようと、少しずつ制圧するべきだ」

「承知しました~。ではそういった形の指揮にしますが~、私はあくまで外から指揮をします~。陣頭指揮はお任せしますよ~」

「当然だ。エアリアル!」

「ああ」


 シルフィードに乗ったエアリアルが進み出た。市街地でもその機動性を失わない部族の騎馬隊が進み出る。そして同時に、ゲイルが指揮する特殊兵たちも進み出た。

 ラインが抜剣して、士気を高める。


「相手は人間じゃないぞ、容赦するな! 一体も残らず討ち取れ!」

「「「おおっ!」」」


 ラインの切込みと同時に市街地での激しい戦闘が開始されたが、その途中でラインとルナティカはいつの間にか姿を消していた。

 人形の群れは尽きることがないように押し寄せたが、それでも訓練されたイェーガーの兵士はそれらを押し返す。死を恐れることがない人形兵でも攻撃が散発では、一糸乱れぬ統率を見せるほど訓練されたイェーガーの兵士たちに押し勝てるものではなかった。


「フン、ゾウサもナイ」


 オルルゥの棒術が一薙ぎで人形兵5体の頭を粉砕する。その隣では、エアリアルの矢が屋根の上の人形兵をまとめて3体射貫いていた。


「オルルゥ、気づいているか?」

「アア。コイツラが、ヒをツカウヒツヨウガナい」

「となると、火事を起こした連中は別物だな。他の勢力がいるぞ」

「ニンゲンが、ダレもイナイノもヘンだ。マダナニカアる」

「こういう時にリサがいればな」


 リサがいればエアリアルやオルルゥが何か言う前に、リサが指示を飛ばしている。彼女が育てたセンサーたちも十分に優秀なのだが、その少しの時間差をもどかしく思う仲間たちだった。



続く

次回投稿は、4/19(水)10:00です。不足分連続投稿します。

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