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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その191~裏切り者と渇く者⑯~

 ラインが皮肉めいた表情で、ふっと笑う。


「俺がアレクサンドリアを脱出する時、失意の俺を焚きつけて、偽名を使った身分証まで用意してもらった。おかげで今の俺がある。そのお返しさ。これで貸し借りなしだ」

「そうか、すまんな」


 バーゼルはぽん、とラインの肩を叩くと体型の割に身のこなしは軽やかに、かつてのままの態度でバーゼルは去っていった。

 その背中を見送ると、コーウェンがすっとラインの背後に立つ。


「監視もつけずに行かせてよろしいので~?」

「とりあえずはな。奴の考えることは、ある程度わかっているつもりだ」

「かなりの人望と実力、それに策略家だと思いましたが~?」

「たしかにそうだ。だが奴は腹黒かろうが型破りな考え方をしようが、根が貴族で優等生なんだよ。平民上がりの、貴族の慣習なんぞ知ったこっちゃない俺からしたら、甘ちゃんもいいところだ」

「大きくでましたね~。では最後の確認ですが~、彼らと歩調を『合わせない』方向で本当によろしいのですね~?」

「ああ」


 ラインは躊躇なく頷いた。旧友で悪友だからこそわかる。バーゼルもまた、ラインたちを信用しているわけではあるまい。


「バーゼルは懐にある手駒以外は信用しない男だ。慎重な性格で、手持ちの戦力以外が全てないと想定して、戦略を立てる。そんな奴が祖国への明確な反乱を起こしたんだ。俺が来たのは来たのとは関係なく、もう準備は終わっていたはずさ」

「つまり~私たちはただのきっかけに過ぎないと~?」

「それどころか、上手くいかなければ俺たちに責任をなすりつける可能性すらある。単独で西側からアレクサンドリアを落とす準備はもうしてあるはずだし、俺のところに来たのもこちらの準備を直に確認に来たんだろうよ。もう西側の侵攻は始まっているはずだ」

「ははぁ~たしかに似た者どうしですね~。『もう始めている』だなんて、副長そっくり~」

「だろ? で、首尾はどうだ?」

「さて、そろそろのはずですが~」


 コーウェンが砦の外を見ると、太陽の反射でチカチカと光る合図が見えた。コーウェンも同じく合図を返し、報告を受け取った。


「一つ目の砦、落ちました~。副長の言った通りです~」

「ふん、貧民街のガキどもが汚水を流す下水側の通路に外に出る道をこっそり作っているなんて、思いもしないだろうよ。砦ってのは、思いもしないところから落ちるもんだ」

「副長はどうしてその通路をご存じで~?」

「かつてあの町の中に住んでいたことがある、それだけさ。なんたって、クソガキだったからな。子どもの遊び場なんざ、大人は知らないだろうな。穴があることを大人は知らず、子どもはそれを大事なことだと思わない。見解の相違ってやつだが、その言葉をガキは知らんだろ」

「おみそれしました~」

「一両日中に2つ目の砦を落とせ。それなら無防備な首都に迫ることができる。なんとしても俺たちが先にアレクサンドリアを落とす!」

「それは私怨ですか~?」


 間延びしているコーウェンの口調だが、詰問には鋭さがあった。だがラインは言い澱むことなく、肯定した。


「ああ、私怨だ。だがはっきりさせたくもある」

「何を~?」

「この国がどこまで腐っているのかということさ。それ次第で俺のやることは変わる」

「全て腐っていたなら~?」

「俺がこの手で終わらせる。そうでなければ・・・」

「そうでなければ~?」

「誰かが勝手に再建させるさ。まだこの国という象徴は必要だ、この大陸にとってもな。ああ、気になるならルナティカで俺を見張っておけよ。ラキアを使ってアルフィリースとローマンズランド遠征軍を見張らせているんだろ? むしろルナティカがいた方がやりやすい。俺も確証がないことをやろうしているからな」

「これはまた~」


 コーウェンは考えを見透かされたようで、実にやりにくいと思うと同時に、だからこそラインが副長でよかったとも思う。自分にないものを補う、直感型の上司。これがイェーガーの不敗と好調を支える、何よりの鍵だと。 

 その夜、オルルゥ率いるワヌ=ヨッダの戦士団とロゼッタの特殊兵が協力して、闇に紛れて砦の門を開け放った。二つ目の砦を苦もなく落とすと、イェーガーはその次を休息に充て、3日目には首都へと迫った。

 だがそこで彼らが見たのは、既にそこかしこから戦いの火が上がる首都アレクサンドリアだったのだ。



続く

次回投稿は、4/12(水)11:00です。

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