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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その184~裏切り者と渇く者⑨~

***


「まさか~本当に7日でこれだけの軍団を集めるとは~」

「バーゼルは優秀なんだよ、本当にな」


 コーウェンとラインは、バーゼルの集めた軍隊を見て素直な感想を述べあっていた。中心となる軍人は既に中央に召集されているはずなのに、どうやったらこれほど規律が良く統率が執れた軍隊を編成できるのかと不思議だったのだ。

 顔ぶれを見れば、ラインが知っている者もちらほらといた。その多くが辺境帰りで、辺境で負傷して軍隊を除隊したか、あるいは中央に嫌気がさして除隊した平民出身の者だった。


「なるほど、召集の義務は現役の軍人と、貴族が中心か。さすがに除隊した元兵士のことまで管理はしていなかったようだな」

「またまた~そこまで副長は想像していたでしょう~?」

「もちろん、想像はしていたさ。ただ、こいつはら須らく現行の体制に不満がある連中だ。一つ間違えれば、こいつらが反乱軍になっただろう。そしてアレクサンドリアの法律は厳しい。反逆は基本的に情状酌量なく、連座制で処刑だ。バーゼルの奴も相当の覚悟だろうさ。ここまでやって中央を潰せなければ、連座で何万人もの首が飛びかねん」

「それがわかっていて~、よく説得できましたね~?」

「元を辿れば、奴が言い出したことだ」


 バーゼルは辺境に居た頃から、ちょくちょく中央への不満を口にしていた。それ自体はアレクサンドリアの若者であればよくあることだったが、多少愚痴っぽい程度で、珍しい事ではない。それがわかっているから、中央もそこまで厳しく取り締まっていなかった。

 だが、バーゼルの場合は口が達者なのと、彼自身に人望があったのがまずかった。ラインが千人長に出世した時、なぜバーゼルではないのかと正直にディオーレに問いただしたことがある。


「戦い方が私に似ている。防御が専門の騎士は、私の麾下には必要ない」

「それは方便でしょう? 戦績じゃ、俺の方が分が悪い。実力主義の辺境で、俺が先に出世する意味は?」

「嫌なことを聞く」


 ディオーレがふっと笑って、怪訝そうな表情のままのラインに答えた。


「少々影響力があり過ぎるのだ、奴は」

「口は上手いし、部下にも同僚にも慕われる奴ですしね。上司にもウケがいい。その点、俺は小生意気だ」

「それくらいが丁度よいのさ。平民に気さくな貴族など、力を持つ立場には不要だ。この国で人気があるということはどういうことになるのか。特に、中央にいる連中よりも人気がある貴族は」


 ディオーレが言わんとしたことは、ラインにもわかった。


「――潰されかねませんね」

「そうだ、奴はまだ若い。いや、わかっていても熱している周囲を止められていない。このままでは有能な若手が、周囲に担がれる形で潰されてしまう。そうなる前に、一度奴はお前という他人が望む英雄の陰に隠れることが大切だ」

「英雄って柄じゃありませんが」


 実感が伴っていないのか、頭を掻きむしるラインを見てディオーレが苦笑した。


「群衆は皆、英雄譚を求めている。私がかつてそうだったように、新たな物語を求めるのだ。そろそろ、群衆は新しい話に飢えていることだろう。その物語には貴族よりも、お前のような平民が良い」

「・・・情報操作をするんですか」

「ある程度はな。だがあまり必要ないだろうさ」

「そうですかね」

「そうだとも」


 その言葉に、どれほどの真実と嘘と、そして真摯な期待が込められていたのか。当時のラインは知る由もなかったが、今なら少しはわかる。


「――ああ、俺は周囲の期待を裏切ったんだな」

「何か言いましたぁ~?」

「いや、こちらのセリフだ。それより、本当にこの戦力で落とせると思うか? 俺たちを合わせて、2万対、30万だぞ?」

「確率は大幅に上がりましたよ~。まず勝てます~」


 コーウェンは指先をくるくる回しながら、先日まで行っていた軍議の様子を簡単に再現した。

 30万の軍はやや誇張。そしてバーゼルが考えるよりは多かった。実質20から25万程度と考えられ、そのほとんどが東に側に布陣している。ディオーレ率いる反乱軍が回り込んだ事態に備えて、北に3万、南にも5万ほどは布陣しているが、それらの練度は高くない。西に至っては、1万もいないだろう。ここまではエアリアルと共に、コーウェンが直に下見をしていることだ。

 それに、気になることは他にもある。それは――


「ディオーレ様の軍の動きが鈍いな?」

「ええ~、ディオーレ率いる反乱軍のここまでの進軍に関する情勢はさすがに想像と結果報告でしかありませんが~、進撃の速度が急に下がりましたねぇ~」


 これに関してはコーウェンも解せないようだ。コーウェンはもちろん、どのように反乱軍が侵攻しても大丈夫なように策を練っていた。その中には当然、イェーガーの別働隊が首都に到着する前に反乱軍が陥落させているという展開も想定されている。

 だが、それはおそらくないだろうとラインは予想していたし、コーウェンも可能性は低いだろうと見積もっていた。



続く

次回投稿は、3/29(水)12:00です。

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