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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その182~裏切り者と渇く者⑦~

「わあっ!?」

「チッ!」


 先輩騎士にも同じ何かが絡みつこうとしたが、それを身を翻して躱す。そして続けて伸びてきた熊手のような捕縛槍を受け流すと、そのうちの一つを素早く掴んで引っ張り込んだ。


「おおっ?」


 暗闇からたたらを踏んで出現した男の鳩尾に一発。続いて出現した大柄の剣士相手に、見えないほどの速度で剣戟の応酬を繰り広げた。


「すっげぇ」


 若い騎士は、先輩騎士の本気を初めて見た。相手の剣士も相当なものだと思うが、それを技術で凌駕する先輩騎士。少なくとも、若い騎士がみた騎士の中では間違いなく一番の実力者。膂力で遥かに勝る敵の攻撃を左手の小さな丸盾一つで受け流し、周囲から攻撃されないように剣士の陰に隠れるように立ち回りながら、相手を翻弄する正統派のアレクサンドリア騎士剣だった。


「こいつぅ!」

「いやぁ、年は取りたくねぇもんだな。もう息が上がりやがる」


 先輩騎士に疲労の色が濃いと見ると、若い剣士は勝負に出た。大上段に構えて斬りかかり、それを両腕を交差するようにして丸盾で受け流しながら、滑るように相手の懐に潜り込んだ。


「かかったぁ!」


 相手が膝を出すところに、くるりを回るようにそれを避け、丸盾に仕込んだ短刀を抜いて相手の背中に突き立てようとする。


「隊長!」


 周囲の者が叫ぶと同時に、先輩騎士の短刀が落ちた。そしてその背中から、羽交い締めにするようにして鋭い声の剣士がいつの間にか割って入っていた。


「油断したな、ゲイル」

「・・・っ、すみません副長」


 何が起きたかわかっていた大柄な若い騎士は、一礼してそこから一歩飛び退いた。その表情には悔しさと、至らなかった恥が浮かんでいた。


「ま、仕方がない。こいつはこの領内で一番の騎士だ。これに引けを取っても、なんら恥にはならんよ」

「へっ、買いかぶられたもんだ。俺が一番の騎士だってぇ? どこにそんな証拠があるってんだよ」

「さっきの会話を聞いていてな。辺境に配備されてから最前線に配置されるまで、最低一年かかるはずだ。それに辺境配属でも、最前線に配備されるのは4割にも満たない。そのうち生還者となると、さらにその半数。そしてディオーレ様の中央軍以外で最前線となると、本当の最前線経験者だ。そこで三か月戦い生き延びれるのは、ナイツオブナイツへの入団資格を満たすほどの腕前だ。いかに負傷兵といえど、こんな平和な都市に配備されるわけがない。あんたが本当の騎士隊長で、領主の陰の護衛だ。違うか?」

「・・・いやに詳しいな、お前。さては賊じゃないのか」

「ご同輩さ。元だがね」

「信じられんな」

「慎重なのは良いことだな。一人遅れれば、鬼のような精霊騎士にケツを蹴り飛ばされるぞ。あんたの時代の訓練時にも歌があったろ?」

「その掛け声・・・間違いなく同輩だな」


 先輩騎士の警戒が少しだけ緩んだ。だが先輩騎士の背後にいたラインは、押さえられている若い騎士の方を、油断なく見据えていた。

 と思うと、くいと顎で後輩騎士を押さえつけていたルナティカに合図を出した。同時に、ルナティカは押さえていた騎士の喉をかき切った。


「な、あ・・・せん、ぱ、い・・・」

「な・・・お前ら、何しやがる!」

「まぁ、見てろ」


 しばらくして、若い騎士は砂のように崩れ落ちて塵に還った。その有様を見て、今度こそ先輩騎士の全身から力が抜けていた。


「こ、これは・・・」

「最初からこいつは人形だ。軍に提出した経歴は嘘八百だろう。あんたの隠語が通じなかったのが、何よりの証拠さ。剣を研いでいるか、と聞かれた、剣を抜けるように構えていろ、はアレクサンドリア騎士の基本だ」

「それは、若いから・・・」

「あんた、顔に似合わず甘ちゃんだな。それができない奴は、どのみち戦場じゃ死ぬんだよ。辺境の最前線を経験したなら、知ってるだろ?」


 ラインは掃き捨てるようにして、寝ていたもう2人の警備兵を引っ立ててきた。やったのはゲイル率いるロゼッタの特殊兵。訳も分からず連れてこられた兵士2人を見て、ルナティカが片方の首を刎ねた。すると、こちらも塵へと還っていったのだ。

 生き残ったもう一人の兵士は、茫然とそれを眺めていた。


「おい、何が起きている?」

「この国は詰んでいるのさ、今それが証明された。腐った無能な中央政府は、全部人形の傀儡政権だ。少なくとも、まっとうな判断ができるだけの有能な人材はもう一人もいないと思った方がいい」

「いつから・・・いつからだ?」


 答えを求める先輩騎士の力ない問いかけを、ラインは怒声で遮った。


「知るか! きっと、十年や二十年の話じゃないんだろうよ! こんな国で騎士になろうとしたことが、心底馬鹿らしく思えてきやがる!」

「お前・・・見たことがあるような気がするな」

「他人の空似さ。それより」


 ラインの顔をまじまじと見つめる先輩騎士に、逆にずいと近づいてラインが睨み据えた。


「ここの領主はダーナ公だな?」

「あ、ああ」

「息子のバーゼルはいるか?」

「いるはずだ。あのボンクラ息子なら、仮病を使って出陣を拒否したからな」

「よし、いいぞ」


 その答えに、ぱしんとラインが拳と掌を合わせた。ラインの反応を見て、ゲイルが怪訝そうな表情になる。


「副長、そのバーゼルなんとかが探していた人物ですか?」

「ああ。というより、この作戦に必須の可能性すらある」

「そこまで?」

「俺の辺境時代の同期で、出世を争った男と言えばわかるか? 『怠惰な盾のバーゼル』。それが奴の二つ名だ」


 ラインはさも楽しそうに、ゲイルに説明してみせたのだった。



続く

次回投稿は、3/25(土)12:00です。

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