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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その179~裏切り者と渇く者④~

「私とお前が会話をしていると、よからぬ企みをしていると勘繰る連中もいよう。ここがいい」

「私は一人でも、そう思われているでしょうけどね。事実悪だくみをしているわけですし」

「そして、私は何を考えているかわからないと噂されるわけか」

「それもまた、事実でしょう」


 悪びれずに堂々と告げるクラウゼルに、ゼムスは苦笑した。


「私もそこまで堂々と言えるのは、お前くらいのものだな」

「とうに死は覚悟した身でしてね。貴方の気分を害して殺されるのは、さほど悪くない死に方の一つというだけですよ」

「なるほど? 病状が悪化して苦しければ、とどめくらいはくれてやってもいい」


 表情を一切変えずに言い放つゼムスに、やはりこの男は壊れているとクラウゼルは思う。彼にとって、自分の命も相手の命も、等しく価値がないのだ。だからどれだけでも残酷になれるし、残酷なことをして自らの感情が揺れるかどうかを常に試している。

 この男に勇者認定を受けさせるためにかつてシェバと共に奔走したとはいえ、よくもこんな男が勇者として認められたものだと呆れた。もう少し、各国の認定に難航するものと踏んでいたのだが、揃いも揃って認定した国は無能揃いだった。

 ゼムスは基本、他人とほとんどしゃべらない。仲間とすら、最低限の会話しかしないのだ。この男の本音を口からきいているのは自分と、シェバとくらいだろうクラウゼルは確信している。情婦のように扱っていたエネーマすら、ゼムスは信頼していなかっただろう。

 もちろん本音を知っているからこそ、クラウゼルもゼムスを信用していない。彼らはいつも互いに利用し合うだけの間柄で、だからこそ互いに最も信頼できた。


「嫌ですよ。いざその時になったら、絶対嬲り殺すに決まっているんだから。そうされるくらいなら、自分で服毒自殺しますよ」

「それも一興か」

「私が死んでも、誰の興も乗りはしませんよ。さて、そろそろ本題に入ってくださいな。寒いんですよ、ここ」

「王弟殿下はどうだ?」


 ゼムスの刺すような視線に、クラウゼルはふむ、とわざと間を空けた。


「個人的には及第点です。乱世の奸雄とまではいきませんが、もどきくらいにはなれるでしょうね」

「つまり?」

「自分が利権を握るために、血族の情を断ち切るくらいのことはやってのけるかと。そしてそれなりに信頼があって、目立たないのがいい」

「もう少しわかりやすく話せ」

「実権を握った後、裏切られて早々に退場しそうということですよ。戦乱を呼び込む程度には有能で、統一王国を崩壊させる程度には無能ということです」

「よくわかった」


 そう答えたゼムスの表情を見て、クラウゼルは「おや?」と思った。ゼムスは石像のように表情を変えないことが多く、形として相手に有効であると知っているから微笑むくらいはするのだが、その表情の変化が全くなかったのだ。大抵、残酷な行動をするときには、ゼムスの表情はわからぬ程度に歪むはずだ。


「面白くありませんか? あなたの望む展開のはずですが」

「・・・そうだな」

「アルフィリースですか?」


 そう言ってから、クラウゼルは余計なことを口にしたと悔やんだ。アルフィリースという存在が、ゼムスにとっても特別になっている可能性をクラウゼルは知っていた。だが触れる必要もなかったはずだ。今アルフィリースはここにいないし、何ならローマンズランドで死ぬだろうとクラウゼルは読んでいる。

 どのみち、カラミティが覚醒すればこの大地の生命はほとんど死に絶えるはずなのだ。あの化け物を一体誰が止められるというのか。その可能性があるのがアルネリア、もしくはオーランゼブルだと思うからこそ、クラウゼルは合従軍を興させ、ローマンズランドに集めた。カラミティが覚醒した時、アルネリアやその他の国の戦力がカラミティの近くにいれば、そちらはなんとかすると期待して。

 カラミティの覚醒は春。それまでに大陸の覇権をどれだけ握れるのか、我が夢を野望はどのくらい現実味を帯びるのか。それを確認することこそが、残り時間の限られたクラウゼルの欲望に過ぎないのだ。その後のことは、どうだっていい。

 だが、ゼムスがアルフィリースの傍にいるようなら、少し事情は違ってくる。ディオーレに対する切り札として、ゼムスはこちらに連れてきた。ゼムスがいなければ、ローマンズランドの軍団は遠征の最初で頓挫することすらあり得るのだ。それまでは、なんとしてもゼムスの機嫌を損ねるわけにはいかなったかったはずなのに。

 自分ですら面白いと興味を惹かれた女傭兵。ゼムスもまた同様であることを、確認する羽目になってしまった。だがゼムスはゆっくりと、そして可笑しそうに口の端を歪ませたのだ。長い付き合いにして、クラウゼルが初めて見るゼムスの表情だった。



続く

次回投稿は、3/21(火)12:00です。不足分補います。

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