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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第二章~手を取り合う者達~
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魔剣士、その4~脱出への道~

「知ったことかよ、お綺麗な軍隊じゃないんだアタシ達は。だいたいが軍隊だって敵地での略奪行為は容認されている所が多いんだ。アタシ達傭兵に、あいつら以上の良識を持てって言うのか? はっ」

「それでも貴女も女でしょう? 乱暴される女性を見て何も感じないわけ?」

「別に。アタイだって金が無い時は男達に体を売ることはあるし、事実傭兵を始めたばかりのころはそりゃ悲惨なものだったさ。負けてどれくらいひどい目にあわされたかわかりゃしない。軍人なら捕虜交換って制度があるが、傭兵にゃそんな御大層なものはないからね。相手に捕えられた時は悲惨なものさ。まあ女な分、男の様にすぐ殺されることは無いけど。どこの土地でも女を見て男の考える事は同じだからね。この時ばかりは混血の自分の体に感謝したよ。極端に子どもができにくい体だから、アタイは」


 そういってニヤリとするロゼッタに、アルフィリースはぞくりとした。彼女はアルフィリースには想像もできない様な経験をしてきているのだ。その時、ベッドで寝ているはずのリサが口を開く。


「赤い目・・・貴女が赤目のロゼッタですか」

「おお、お嬢ちゃん。アタイの事を知ってるのかい?」

「噂だけは」


 リサが苦しそうにロゼッタの方を向いている。


「戦場での依頼を中心として受ける、東部地域では有名な女傭兵。その容姿も有名ですが、それ以上に腕前が超一流。大隊指揮もできる経験を持ち、もう40年以上活動しているとか」

「よく知ってるね。人によっては見た目から『魔剣士』とも呼ぶけどね。アタイは色んな種族が混じってるからね。巨人、シーカー、人間、ミウリス・・・人型の魔物も混じってんのかな。そのせいで寿命が長いのさ。多分年齢は60を越えてるよ。見た目は25くらいだけどね」


 ロゼッタが快活に笑う。こうしていれば、ただの明るいお姉さんに見えなくもない。


「ちなみにギルドの評価はAさ。魔王討伐の経験もある」

「すごっ・・・」

「アタイの凄さがわかったかい?」


 得意げにロゼッタがアルフィリースを見るが、アルフィリースは素直に感心していた。そしてアルフィリースに突っかかるロゼッタ。


「でもさっきアンタはアタイになんだか大層な事を言ってたねぇ。アンタ、ギルドでのランクは?」

「・・・Eよ」

「なんだそりゃ? お話にならないよ」

「申請してないからね、この子は」


 ミランダがアルフィリースの肩を抱き寄せるように話す。そしてアルフィリースはさらにロゼッタを挑発するのだった。


「それでもアタシの方がロゼッタより強いかも」

「ああん!? まだ言うか、このガキ!」

「まあその話はさておいて。そんなことを言うためにここに来たんじゃないでしょう?」


 アルフィリースが指を立てて立ちあがったロゼッタを制し、ロゼッタはアルフィリースに向けて湧きあがりかけた怒りに無理矢理蓋をされた格好になった。感情の行き場をなくして目を白黒させるゼッタの表情は、少し見物だったかもしれない。


「・・・くそ、この話はきっちりつけるぞ?」

「どうぞご自由に。で、話があるからこの部屋に来たんでしょう?」

「・・・まあいいや。それよりアンタ達、アタイと手を組まないか?」


 ロゼッタが切りだした話に一同がびっくりするが、反論しかけるミランダを制してアルフィリースは彼女の話を促す。


「続きを」

「アタイ達は最初は300人いた。だが度重なる襲撃で徐々に人数は減らされ、また脱走者も出ている。これ以上は全員の精神力が限界だ。村の女を抱いて気を紛らわせるにも限度があるだろう。ここいらが潮時だ。無理にでも脱走したいが、今まではめどが立たなかった。だがアンタらがいれば・・・」

「ふーん、アタシ達を囮にしようって?」


 アルフィリースが意地悪く言ったので、ロゼッタは顔を歪めた。


「まあそうだね。だがそれはお互いさまさ。多分途中で襲撃されて混戦状態になるだろう。誰が犠牲になるかは運次第さ」

「果たしてそうかしら?」


 アルフィリースの疑問に、ロゼッタは笑っただけだった。


「でも断る権利がアンタ達にあるかな?」

「どう言うこと?」

「断るならこの部屋を出て行ってもらおうか。この部屋はアタイの命令で無理矢理部下をどかしてるんだからね」

「さっきその部下さんを助けたのは私だと思うけど?」


 アルフィリースが負けじと言い返すのを、ロゼッタは簡単に笑い飛ばした。


「あんな奴らが何人死のうが知ったことか。だからアタイはあんたに恩なんて感じちゃいないよ」

「とんだ人ね」

「褒め言葉にしか聞こえないね。それに褒められついでに言うと、囮は別にいるのさ」

「・・・村人ね」

「その通り」


 ロゼッタがニヤリとする。


「村人も連れて脱出する。あいつらは状況がわかってないだろうから、糧食や荷物を持って逃げるだろうねぇ。足も遅いし、トカゲはあいつらから襲うだろうよ」

「なんて提案をするんだ」


 ミランダがロゼッタを軽蔑するような眼差しで見て、吐き捨てるように言った。だがアルフィリースは冷静にその案を検討していた。


「・・・なるほど、いい考えかもしれないわ」

「ちょっと、アルフィ!?」

「ははっ、ただの甘ちゃんかと思ったが、中々どうして良い判断できるじゃないか。気に入ったぜ!」


 ロゼッタがアルフィリースの肩をバンバンと叩く。アルフィリースは少し煩わしそうにその手をのけると、冷たく言い放った。


「その前に一つ聞いておきたいのだけど」

「ん? 何だ? アタイの経験人数でも聞くか?」


 ロゼッタが気を多少許したのか、下品な冗談を言い始める。だがアルフィリースは相手にしない。


「斥候を出す程度の知能があるなら、敵にボスのような個体はいないの?」

「ボスかどうかはわからないけど、一頭だけ大きい奴は見たことがある」

「なるほど。それで、決起は?」

「準備もあるから明日夜が明けるころに。トカゲは夜目が利くから、夜の方がヤバい」

「分かったわ」


 それだけ言うと、ロゼッタはさらに下品な冗談をいくつか飛ばして部屋を出て行った。そしてアルフィリースはリサに向き直る。


「ごめんね、リサ。まだそんな体なのに、もう出発になりそうだわ」

「いえ、体調は戻りつつあります。ミランダが先ほど飲ませてくれた薬が効いてきたのでしょう。後は寝れば治るかと」

「そう。無理はしないでね」

「それは良いとして、アルフィ。先ほどの言葉はどういう意味ですか?」


 リサが問い詰めるような目線をする。


「先ほどって?」

「村人を犠牲にする話です」

「ああ、あれね」


 アルフィリースが頷く。


「まあ私を信じなさい。悪い様にはしないから」

「・・・ならいいのですが」

「その前に、インパルスにも働いてもらわないとだめかも」

「ボクかい?」


 インパルスが剣の形から人型になる。


「敵が群れならインパルスの力が必要かも」

「それはいいけど、エメラルドはボクを何度も振るえないよ?」

「どういうこと?」


 インパルスの真意をつかめず、不思議そうな顔をするアルフィリース。そんな彼女にインパルスは説明を始める。


「いいかい? ボクのような精霊剣は、言ってしまえば膨大な力の塊だ。もちろんその影響は使い手自身にも及ぶ。だから持ってるだけならまだしも、ボクを剣として振るう時、所有者は無意識に自身の魔力で自らをガードする。そうなるとエメラルドも疲労するし、彼女がボクを振るうとして、せいぜい3撃が限界かな」

「えー、何それめんどくさい」

「何言ってんのさ。人間が使う魔術の中で、雷撃系かつ最強級の攻撃を、3発も詠唱なしに使えるんだよ? こんな便利な事がどこにあるのさ」


 インパルスが呆れたように腰に手をやる。どこか威張っているようにも聞こえるのは、気のせいではないかもしれない。


「それにもう一つ」

「まだあるの?」

「もうじき雨が降る」


 インパルスが空を指さす。見れば空は明らかな曇天になってきている。黒い雲に光は遮られ、もう数刻で雨が降るだろう。


「雨の中でボクを振るえば・・・」

「全員感電するって?」

「その可能性もある」


 インパルスが得意げに言ったので、アルフィリースは呆れてしまった。


「使えないのね、インパルスって」

「ほっといてくれ! 精霊剣になんて言い草だよ!」

「じゃあインパルスは計算できないとして」


 抗議するインパルスの頭をアルフィリースは押さえながら、エメラルドの方を向き直る。


「雨が降る前にエメラルドに調べて欲しいことがあるの」

「?」

「ユーティ、通訳して」

「はいはーい」


 そうしてアルフィリースは何かこそこそと話し合うと、エメラルドは一目散に窓から空に出て行った。


「さて、後はエメラルド次第ね。脱出に向けて、私達も食事を取ったら早く寝ましょう」

「我は馬の様子を見てくる」

「アタシはとラーナは水を確保しておくよ」

「さて、私は楓に頼んでこの村の村長さんでも探すかな。グウェン、ダロン、リサをよろしくね?」

「いいだろう」


 そうして各自が脱出に向けて行動を開始するのだった。



続く


次回投稿は7/2(土)19:00です。

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