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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その173~真冬の戦場㊺~

「要は、立場の弱い者に付け込んだだけの話。人間を辞めてまで付き従う相手には思えませんが?」

「おめぇに何がわかる!」


 くわっ、とリゲラがアリストを威嚇した瞬間、レクサスが物陰から飛び出して、ダリアを確保した。そしてカナートはダリアの安全が確保されたことを知ると、目の前の虫に集中して、三手で斬って捨てた。相手が人間型の虫ゆえに少しその動きを把握するのに時間がかかっていたが、一度わかりさえすれば、カナートにとって技術のない相手を先読みするのはわけないことだった。

 その早業にも、ダリアを確保されたことにもリゲラはまるで意に介さない。孤立すらも問題にしていないように、そのまま立ちつくしていた。

 レクサスの方をアリストはちらりと見て、先ほどの全身鎧の虫は始末したことをレクサスが伝えた。アリスト、レクサス、カナートが三方からダリアを取り囲むように立つと、アリストはゆっくりと説明してやった。


「私もね、かつて生きていた村の人間を盗賊に殺されたクチでしてね。ええ、あなたほど悲惨ではありません、村人の何割かは生きていますとも。その時の盗賊団は50人からを皆殺しにしましたが、個人の武力では限界があることも知りました。集団で戦えば、守れた人もあったというのに。だから私はアルネリアの勧誘に従って、騎士となりました。個人で守れないものも、集団なら守れる。今でもそう強く信じています。そして人間を守るのは、常に人間ですよ。虫でもなければ、まして人間を辞めた者でもない」

「立派な騎士様だなぁ。オラにはもう復讐しかねぇと言うのに」

「で、その復讐は果たされましたか?」

「ああ、たったさっきなぁ」


 その言葉に、ダリアが顔を上げた。


「どういうことだ・・・?」

「わかんねぇか? オラを助けた若い騎士は、サウザン侯爵家の旦那様だ。旦那様は竜騎士だども、当時は経験を積むために陸軍に所属していただ。そのことを知ったのは、オルロワージュ殿下に教えられてからだったとも。オラは最初から、復讐するためだけにここに来ただ」

「なぜだ? 侯爵様はあなたを助けたんだろう!?」

「オラの姉を犯し殺したのが、旦那様でもか!?」


 ダリアは絶句した。竜騎士団から除籍されて陸軍所属となり、不名誉な立場ながらも自分を取り立て、娘の護衛に回してくれたサウザン家当主。その立ち振る舞いは穏やかで、ローマンズランドらしからぬ気品と優しさに溢れていたのは、勘違いだったのか。

 リゲラは既に人間の面影を残さぬ姿で、ダリアを責めた。


「陸軍式の歓迎ってやつだ。新米に、あえて率先して残酷なことをさせる。そうして罪を共有することでようやく仲間になったなとうそぶき、裏切れないようにする。だけどな、旦那様はさらに一枚上手だっただ。陸軍の連中でもやらないような残酷なことを率先してやって、逗留が終わる頃には既に奴らに一目置かれるまでになっていただ。だから旦那様はスウェンドル王と不仲でも、軍で一定の発言権があるだ。それだけ畏れられているんだ。

 オラの家族は、旦那様が一目置かれるためだけに、弄ばれて殺されたことになる。当然オラもそうされただ。わかるだか? だけどな、オラだけは知っている。旦那様はそれすらも楽しめるだけの気質をお持ちだ。決して必要だからやっただけではねぇんだ。

 わかるだか。それだけのことをやってのける相手が、いかにも優しそうな顔をして平和な家庭を築いているのを見せ続けられた時のオラの気持ちが! おうさ、毎日のように使用人の部屋で奴らの死を願っていたとも! オラの人生はそれだけだ、だからこそお嬢様にはもっとも残酷な方法で死んでもらっただ。

 お嬢様は立派な方だっただ。気品があり、決断は聡明で、慈悲に溢れていただ。だけどな、どれほど優しかろうと構うもんか。あれだけ優しくても、一皮剥けばこいつらは虫以下のクズだ! だから、だから――」

「じゃあなんであんた、泣いてるんすか」


 レクサスが指摘したことに、リゲラは黙った。感情が爆発したせいか、はたまた自分の言っていることも矛盾を感じたのか。はたと言葉を止めたリゲラは、手の一部を変形させて名乗りを上げた。


「・・・みっともないところを見せただな。オラのやりたいことは終わっただ。旦那様はまだ生きているかもしれねぇが、東の部隊はおそらくどこかで全滅するだ。そう信じてここから先、オラはオルロワージュ殿下の兵士として責務を果たすだ。こう見えてもオラの階級は騎士級。そこの雑魚と一緒にしてくれるな」

「それだけ人間を、騎士を嫌っておいて、騎士級とは皮肉だな」

「言うな・・・来いやぁ!」


 リゲラの右手は槍状に、左手は突起のついた盾へと変形した。体躯は巨人並み。4足歩行で、さらに4本の手を同時に扱う。予備の2本の手があるが、それがさらに変形する可能性もあり、さしもの3人も、すぐには踏み込めず間合いを取った。

 誰が初手を取るか。張り詰めた空気を破ったのは意外にも、ダリアから発せられた言葉だった。



続く

次回投稿は、3/8(水)12:00です。

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