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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その167~真冬の戦場㊴~

「・・・いますね」

「そうだな。しかも多数」


 2人はいち早くホールを取り巻く殺気に気付いた。

 カナートが既に上に行ったせいなのか、あるいは一階や外の様子が気取られたのか。それとも、そもそも罠なのか。カラミティの能力を考えれば、人間の気配に配慮するだけでは足りないのかもしれない。

 最悪、カナートが既にやられた可能性も考慮しないといけない。カナートが本気で気配を消せば、レクサスとて十歩も離れれば気取ることはできない。カナートが戦えば別だが、まだ階上ではそれほどの喧騒はなさそうだ。

 カナートの生存を信じるとなれば、やるべきことは一つ。


「ここで派手に戦う必要がありますが、いけますか?」

「カナート殿のために戦うとなれば、派手な方がいいでしょうね。よし、私がやります」


 それだけ小さく告げると、アリストは無防備にもすたすたと歩いて前に出た。その無造作に、思わずレクサスも反応し損ねるほど。

 思わず引き留めるべきかと考えたレクサスだが、せっかくのアリストの覚悟を無駄にするわけにはいかない。レクサスは今まで以上に気配を消し、周囲の様子を探ることに集中した。

 アリストは魔晶石の鎧を全て装備していない。視界を遮る兜、重たい胴鎧は外し、小手と脛当てだけを装備している。それだけの軽装で、四方八方から攻撃されうるホールに突撃するのは無謀としか言いようがない。

 アリストはホールの階段下に到達すると、わざとらしくくるりと周囲を見渡した。その途端、止まったアリストに向けて無警告で矢や投擲武器が無数に放たれた。アリストは身を低くかがめると、地面を転がってホールの階段下に隠れてやり過ごす。


「ふむ、警告なしとは軍人の規律を彼らは既に忘れたようですね。ならば遠慮なく処分できます」


 アリストは小手と具足に魔力を通すと、ひゅん、と剣を軽く振るった。その速度を確かめると、思い切りよく階段下を飛び出した。一歩で階段に到達し、二歩で階段の手すりを蹴り、三歩目で二階に到達する。相手兵士とレクサスが同時にぎょっとする頃には、3人の敵の首が胴から離れていた。


「この侵入者、普通じゃないぞ!」

「うわぁああ!」


 アリストが剣をさらに2回ほど振るうと、さらに4つの首が宙を舞う。そこで敵の対応が分かれた。武器を捨てて逃げ出す者、武器を抜こうとしてあたふたする者、そして体の一部を変形させる者。

 玄関ホールを三方向から囲むように二階廊下の一つを全滅させたところで、アリストの目に入ったのは、半分ほどの敵が半魔王となっていたこと。アリストの集中力が急激に高まり、目つきがすっと細まる。


「なるほど、既に魔窟ですか。私向きの戦場ですね」


 アリストは視線を投げることなく、レクサスが出てこないことに気付いていた。アリストは予測していなかったが、既にレクサスはここが魔王の巣窟と化していることを予測していたか。

 だが逆に好都合でもある。小手と脛当てだけの魔晶石装備で、誰かに合わせて戦ったことはない。アリスト自身もどのくらいの戦闘力がわからないので、単独で戦う方が都合がよいと感じていた。


「あるいは、彼の勘の良さならそこまで想定してくれたかな?」


 アリストの、レクサスへの評価は非常に高い。神殿騎士団にも彼に伍する可能性のある剣士はいるだろうが、彼の本領は乱戦、激戦、特に戦争だと思っている。面と向かっての戦いで彼と戦うことができても、戦場で彼と出会えば戦うのではなく、狩られてしまう可能性が高い。

 自分によく似ている、とアリストは考えていた。ならば、次の彼の行動もおおよそ想像がつく。


「さて、面入るだけでおおよそ20体の成りかけの魔王。時間をかけたくありません」


 アリストは壁を蹴って、一気に反対側の魔王の群れへと飛びかかっていった。


***


「――騒々しいな、下の連中」

「何か催しものでも始めたか?」

「ちょっと見に行ってみるか」


 3階にいた騎士たちが、抱いていた女を放りだして、のろのろと動き出した。その動きは緩慢で、敵襲だとは微塵も考えていないようだ。最低限の肌着だけをつけ、剣もつけずに部屋を出ようとする。

 この屋敷が燃費や節約などを一切考えずに浪費しているから廊下も暖かいが、普通なら30も数えないうちに凍えている。男たちがあくびをしたところで、カナートは彼らの首を一斉に掻き斬った。


「けっ・・・」

「ひゅっ・・・」

「きさ――ま?」


 最後の一人が反応しかけたが、彼はないはずの剣を抜こうとして間抜けな表情のまま倒れた。カナートは倒れた騎士たちに向けて、侮蔑の眼差しを向けた。


「騎士、戦士の風上にもおけんな。それでも軍人か、お前ら」


 中で何をしていたかはわかっている。カナートは音をさせないように部屋の中に入ると、それぞれ行為に夢中だったり、仮眠を取っている騎士たち40数人を片端から始末して回った。女にはカナートの侵入に気付く者もいたが、気付いても反応するだけの気力や体力も残っていないか、あるいは本当にこと切れていた。



続く

次回投稿は、2/23(木)13:00です。

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