開戦、その161~真冬の戦場㉝~
「そこの若い神殿騎士団さん、大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
ベッツの問いかけに、汗だくになりながら力強く答えるジェイク。
ジェイクも魔晶石を使った行動は練習しているが、これほどの長時間となると初めてだった。魔晶石は自らの意思一つで魔術を通すか通さないかと選択できるが、それ次第で攻撃力、防御力だけではなく、機動力まで変わるのが問題だ。
魔力量がさほど多くないジェイクは1日中鎧の力を全開にしておくわけにもいかないため、そのスイッチを入れたり切ったりしなくてはならない。同行する神殿騎士団はアリストはじめとした、大隊長格の上級騎士ばかり。当然、ジェイクが一番格下となる。
魔晶石を使っている状態でもついていくのは厳しいのに、魔晶石を使わない状態では彼らと足並みをそろえるのが精一杯だった。それでも、選ばれた以上弱音を吐くわけにはいかない。
その様子を見て、ベッツはからかうように笑う。当然、その額には汗一つない。
「無理はするなよ、長丁場かもしれん。どうせついてからも外を探るはずだ。足が速い連中だけ先に行かせる手もある。かく言う俺も腰がだな――」
「駄目、休ませない」
「昨日はたった3回戦でへこたれた、許せない」
隣のチャスカとヴァイカが間髪入れずに不満を漏らす。チャスカは動くのが面倒なのか、さすがに身体能力的についてこれないのか、ヴァイカが背負って走っている。それだけでもジェイクには信じられないのだが、ヴァイカはこの程度ものともしない。
「勘弁しろよ、お前ら! あれ以上やってたら、今日動けねーぞ!」
「それがどうした」
「そうなれば他の人が行けばいい」
「傭兵なんだからよ、おまんまの種が喰い上げになるだろ」
「それは困る。でも手は抜かせない」
「そうだそうだ。あんたの種は私たちが喰い上げるんだ」
「勘弁してくれ」
チャスカがヴァイカの背中から手を挙げて抗議する。それを緊張感がないとブラックホークの仲間は苦笑し、他の者は呆れた。
ジェイクもまた、同情した。
「大変だな、ブラックホークの副団長も」
「お前も気を付けろよ。女は怖いぞ~」
「物心ついた時から実感している」
ジェイクの力強い頷きに、ジェイクの苦労を考えてその肩を叩くベッツ。だがジェイクは首をかしげていた。
ベッツの言葉が昼ではなく、夜の鍛錬を意味することをジェイクはまだわかっていない。
***
3刻駆けて、1刻休憩する。それを繰り返し、丁度12刻。1日で彼らは第3層の出口に到着した。
途中、垂直登攀や岩で隠した道を開けながらの行動に、さすがに案内がなければこれはわからないと誰しもが唸った。かつてこれを掘った時にはドワーフの協力もあったそうだが、初代建国の王の側近がほとんどを作り上げたそうだ。
その時から、どのような戦と国の滅亡の方法を予見していたのだろうか。この通路が戦において進軍経路になるとは思わないが、鍛練無き者にも使用は不可能だろう。ローマンズランドの王族や高位貴族には軍属であることが例外なく求められるというが、この道を使用することを想定してのことだとしか思えなかった。
「ここで小休止だな。カナート、レクサス。休息が済んだら第3層の様子を探るぞ」
「了解っす」
「広そうだな、半日はかかるか」
この第3層は3の門を抜けた直後にも、防衛拠点や軍事拠点は存在しない。何段かの棚地になってはいるが、基本的に貴族が暮らす場所で、あとは飛竜の営巣地である。
奥に行くほど身分の高い貴族が生活する場となり、門に近いほど身分が低くなる。今は3の門が陥落することを想定して、門の内側に防護柵のようなものを幾重にか敷いているが、それだけだ。それ以外の建物は迎賓館として使われているはずだが、それらが傭兵たちの宿舎になっているのではないかと、ルイはあたりをつける。
「(ならば、陸軍はどこだ――)」
飛竜の営巣地があるので、ある程度竜騎士団が駐留する場所はあるが、せいぜい1個師団程度だ。おおよその竜騎士団は第二層以下で活動するし、陸軍に至っては貴族の警護と第3層の治安維持という名目で、小さな宿舎がいくつかあるにすぎない。
だから万以上の陸軍が駐留するには、必ず上位貴族の屋敷を接収する必要がある。それがどこなのかということだが、一つは内務大臣となったヴォッフの屋敷だとは検討をつけている。他の場所がどこかということだが、公爵や侯爵家の屋敷が妥当だろう。
それでも、全ての陸軍を収容できるとは到底思えない。
続く
次回投稿は、2/11(土)14:00です。