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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その158~真冬の戦場㉚~

 その言葉に、マサンドラスもトレヴィーも、手紙を運んだミルセラでさえ、衝撃で固まってしまった。

 しばしの沈黙の後、ドライアンが覚悟を決めたように、そして呆れたように呟いた。


「なんのことはない。この戦争に望んだ諸侯の中で、一番腹を括っていたのはアルフィリースだった」

「腹を括る、ですと?」

「そうだ。自分が捕えられることも想定し、そして自らの傭兵団を勝つためには犠牲として差し出す覚悟を決めている。おそらくは、イェーガーの幹部たちもその可能性を知っているだろう。それを知りながら、彼らはアルフィリースに同行している。それを覚悟と言わずして、何と言う?」

「ふむぅ。部下に死を含めた忠誠を誓わせるあたり、まごうことなく名将の器。しかし、我々は一度有利となった地理的要因を手放している。ここから先、それを取り戻すだけでもかなりの時間が必要ですぞ?」


 マサンドラスの言葉はもっともで、それにはドライアンも唸った。依然、厳しい冬が合従軍の進軍を阻んでいることには違いがない。敵の指揮官がアルフィリースでなくとも、今回のように容赦のない判断をする少将なる相手がいれば、苦戦することは目に見えていた。

 それに、東へと出征したローマンズランドの軍隊の動向も気になるところだ。彼らの元にはなんの情報もないが、もしこちらでかかずらっている内に大陸東部が陥落したら。合従軍は戦争どころではなくなるだろう。

 そこにはっとしたように、ミルセラがもう一つの書簡を小箱から取り出した。そしてそれは、自ら確認したのだ。


「あの・・・すみませんが、ブラックホークの2番隊隊長はいらっしゃいますか?」

「ブラックホークの? いや、彼らはここの戦場を離れて――」

「離れておらぬ」


 ドライアンの言葉に、ぎょっとするマサンドラスとトレヴィー。ドライアンは悪びれもせず、ふっと笑った。


「すまんな、実はずっと隠していたのだ」

「ですがしかし、合従軍と彼らの契約は切れたと――あ」


 トレヴィーは自分で言ってから気付いた。


「そう合従軍、つまりはアルネリアとは切れた。だからグルーザルドで雇い直したのだ。獣人の中に、人間の傭兵団がいるとは誰も思うまい」

「人が悪いですな、ドライアン王も。どうして黙っていらっしゃるのか」

「切り札になりうると思ったからだよ。それに、全員というわけではない。ヴァルサスなどは本当に離れたしな。だが2番隊の2人は残っているぞ。呼んでこよう」


 ドライアンが人をやると、しばらくしてルイとレクサスが姿を現した。人を隠すなら森、ならぬ獣人の中。しかもあえてブラックホークとしての装いをしていない彼らは、一目で黒い鷹の傭兵とは気付かれない。

 ヴァルサスも、単独で旅をしていて気づかれることはないと自ら言っていた。ブラックホークの黒衣はよき宣伝材料であると共に、一度黒衣を脱いでしまえばそれと気づかれぬ隠れ蓑でもあった。

 平服姿のルイは、ミルセラを見てうろんげな目をした。


「どうしてフリーデリンデ天馬騎士団がここにいる? ローマンズランド側ではなかったのか」

「言伝を預かってまいりました」

「誰から――いや、愚問だな。アルフィリースか」

「はい。これを」


 ミルセラが渡した書簡を受け取ってルイが読むと、その目がかっと見開かれた。そして書簡を持つ手がわなわなと震えている。


「これは・・・本気か?」

「私は詳細を知りません。ただ、そこに書いてある通りルイ殿に渡せばわかる、とだけ」

「レクサス!」

「はい?」


 ルイはとりあえずレクサスの方をくるりと向くと、その腹に全力で一撃を見舞った。いかにレクサスが鍛えていても、不意を突かれれば悶絶もする。

 レクサスは腹を押さえてうずくまりかけ、それが諸侯の前だったので何とか堪え切った。


「姐さん・・・理不尽」

「とりあえず一発殴らせろ!」

「もう、殴ってるっす」


 それで少し落ち着いたのか、深呼吸をして諸侯に向き直るルイ。ルイが無愛想でいつも鋭い視線を他者に投げることをドライアンもマサンドラスも知っていたが、今のルイは何か覚悟を決めたような、それでいて悲しみを隠そうともしない目つきを彼らは初めて見た。


「諸侯に進言したい。第3層までの抜け道を案内いたす」

「何と!? そのようなものがあるのか?」

「ワタシの本名はルイ=ナイトルー=ハイランダー。ローマンズランドに長らく仕える武門の家系にして、古くは初代国王の近習を務めたる戦士の末裔。その我らしか知らぬ出入り口がある。第3層に奇襲をかけるくらいの人員は通れる道があることを、先に確認済みだ」


 ルイは先の迷宮攻略で、王宮への出入り口が塞がれていることは確認していたが、別の経路――つまり、第3層や第2層への経路は無事であることを確認していた。

 つまり、狭き坂道を通らずとも、第3層への奇襲をかけることは可能なのだ。だがなぜ今更。ドライアンはルイに問うた。



続く

次回投稿は、2/5(日)14:00です。

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