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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その155~真冬の戦場㉗~

「予定より早いな!」

「だが予想通りの数だ。10騎ほどしかいないぞ!」

「それでも被害なしとはいかないだろう。一度撤退だ」


 チェリオとリュンカは合図を出して、合従軍の兵士たちを撤退させる。上空を舞い始めた竜騎士を見て、気合の乗らない声を出すのはトレヴィー。


「あー・・・射角は適当で。それなりに撃て~」

「ちょっと、団長代行。もっと真面目にやってくださいよ!」


 城攻め屋が投石器を使い、竜騎士たちに攻撃を仕掛ける。飛竜の皮膚は分厚く、並みの弓矢では余程当たり所が良くない限り有効な一撃にならず、アルネリアが後方支援に徹する以上は、有効な攻撃方法は城攻め屋の投石器に限られる。

 なので合従軍は城攻め屋を頼りにしていたのだが、当のトレヴィーにそんな頼られるつもりは毛頭なかった。


「投石器の速度じゃあ、見てからでも竜騎士は避けるっての。相手が向かってくるところを迎撃できるような大型弩級バリスタでもない限り、狙って撃ち落とすのなんか無理無理。ま、大型弩級じゃ射角が取れないから、どのみち撃ち落とせませんがね」


 トレヴィーが鼻をほじりながら適当に石などを撃っていると、竜騎士の一体が投石器に狙いをつけて下降してきた。


「おっほ! 来た来た、これこそが俺の狙いどおりってね! ほらほら、総員撤退だ!」


 竜騎士が狙いをつけて下降してくると、ぎりぎり弓矢の届かない高さから投げ槍を投擲した。その槍が投石器に命中すると、見事に投石器は使い物にならなくなった。

 竜騎士は煩わしい物を壊して得意気に上空に戻る途中に、丁度合従軍の本陣が目に入る。上空でその竜騎士が合図をすると、空を旋回していた竜騎士たちが一斉にそちらに向けて動き始めた。

 それを見たトレヴィーは、逃げながらほくそ笑んでいた。


「そうだよなぁ。煩わしい投石器を潰しに来たら、本陣が丁度見えるよなぁ。そうなったら、潰しに行きたくなるよなぁ? ひょっとしたらたった10騎でもいち早く本陣を奇襲すれば、戦いが終わる。そう考えるよなぁ?」


 竜騎士たちは10騎でも隊列を組むと、整然と合従軍の本陣と思しき天幕に襲いかかった。ぎりぎりまで下降しての一斉火炎放射。ただ先ほどと違うのは、飛竜の火炎を放つためには、地表ぎりぎりまで下降する必要があること。

 そしてそこは、弓矢の射程範囲に入る高さだった。


「撃てぇい!」


 マサンドラスの号令と共に、雪の中に伏せていた兵士たちが出現し、一斉に弓矢が放たれた。竜騎士たちはハリネズミのようになって倒れ、飛竜たちは落下した自らの戦友を庇おうと地面に下りて、兵士たちの槍の餌食になった。

 飛竜は一度炎を吐くと、短時間で何度も吐けるものではない。その事実を知っている将兵は、他国にもいる。


「100騎いるならいざしらず、10騎程度で本陣への特攻とはさすがに我々を舐め過ぎじゃて。無論誘導した甲斐があったが、さてこれで諦めてくれるものか」


 本陣らしき天幕は囮。一度の襲撃はこれでしのげるが、これを見たローマンズランドがどうするのか。広場の占拠は継続したとしても10騎分しか竜騎士の助走場所を確保できず、この寒空と天候では二の門前の台地から飛翔して、合従軍の本陣付近を襲撃するのは困難。できたとしても元の高度まで戻れない可能性が高く、片道だけの玉砕攻撃になりかねない。そんな一か八かで、貴重な飛竜を使い潰すことはないだろうというのが、トレヴィーの読みだった。


「もちろん、今よりも進退窮まれば何でもやるじゃろうが・・・」


 それまでには再度交渉の席につかせ、和平交渉を再開するつもりだった。合従軍の諸侯には当然反対する者も多数いたが、これ以上両軍の被害が出るのは不毛で利益のないことだと、冷静な者は理解している。喜ぶのはローマンズランド軍を動かしている策士クラウゼルや、あるいはカラミティだと知っているからだ。

 マサンドラスも当然、その考えに同意していた。


「ただこれで諦めるようなら最初から・・・来ぬよなぁ」


 さらに上空には旋回する竜騎士たちの姿が見えた。どうやら第二波も来るらしい。迎撃するにしても、同じような作戦がはまるとは考えにくい。

 吹雪が今より緩めば、散開している本当の合従軍の天幕も位置が割れるだろう。そうなれば、今度こそ狙い撃ちになる可能性がある。迎撃する方法と準備が間に合わない乏しいと考えたマサンドラスは、予定通り諸侯に撤退を命じた。


「よし、これ以上の戦闘継続は困難だな。総員、撤退の準備を!」

「え、もう退かれるのですか?」

「阿保ぬかせ、二度同じ罠が通じるものかよ。空から蹂躙されたくなければ、さっさと退いた退いた!」


 退いても被害は出るだろうが、予定通りの行動でもある。市街地に展開している将兵は留まって今しばらく粘らせる予定だが、限界が来る前に夜の闇に紛れて撤退するだろう。数日で第一層は放棄することになるが、占拠したその土地にもはや食料や物資はなく、占拠するだけ無意味となる。

 安全を確保して、竜騎士たちが十分な場所を確保して出撃できるようになる前に、合従軍は北部商業連合の土地まで退く。それで再度の膠着状態まで持ち込めるはずだというのが、合従軍の策だった。

 その策が、歓迎しない誤算で覆されるとは誰が考えただろうか。



続く

次回投稿は、1/30(月)15:00です。

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