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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その151~真冬の戦場㉓~

「カンパネラ隊長、いかがしました?」

「敵の陣が、遠い」


 カンパネラはとても無口で、おおよその指示はハンドシグナルだけで済ますことが多い。速度重視の隊でもあり、空では会話が聞き取れないこともあるため早い伝令が必要なこともあるが、カンパネラは地上に降りても滅多なことでは口をきくことはない。副隊長のミルセラですら、月に数回口をきけばよい方だ。

 フェイスヴェールに覆われた表情、その無口さが相まって、新入団員にはミルセラが隊長だと勘違いしている者も多く、おおよその熟練ベテラン団員も、ミルセラの意見を参考にする。カンパネラもおおよその意思決定をミルセラに行わせているが、肝心な時には必ず指示を飛ばし、しかも間違えることがない。ミルセラの指示通りであれば壊滅的な打撃を被ったかもしれない場面を何度も経験してきているから、ミルセラはカンパネラをとても信頼していた。

 そのカンパネラが、敵陣を指差した。たしかに地上部隊が進行している場所から、かなり遠いところに合従軍は陣取っている。その少し前に投石器が設置しているが、まだ届く距離ではあるまい。

 吹雪は連日の吹き荒び方から考えればマシな方とはいえ、敵陣の全容はまだ見えない。カンパネラは自ら指先を動かし、敵陣の位置をミルセラに教えた。


「敵陣が散開している。飛竜の炎を対策していると思う。つまり、広場は最初から明け渡すつもりということ」

「何のために? まさか使者を斬り殺されてなお、我々と和解の道を探っていると?」

「ローマンズランド軍が正気を失くしていると向こうが判断しているなら、できる限り双方被害を少なくする戦い方をするかもしれない。だけど、使者を殺された分はお返しをしないと対等にならないはず。こういう時は、敵の立場になって考えること。ミルセラも覚えておくと良い」

「それはそうですが・・・どうしたんです、急に」

「この戦いが終わった後、私が無事とは限らない」


 カンパネラの発言が聞こえた天馬騎士は、全員がぎょっとした。カンパネラはフェイスヴェールを上げると、顔の傷を全員に見せた。

 カンパネラは当初、一番隊の隊長候補としてカトライアと一、二を争うほどの美貌の持ち主だったとの評判だった。だがカンパネラは任務で失敗して仲間を庇ったことで、捕虜となって酷い辱めと拷問を受けた。その結果顔には酷い傷が残り、フェイスヴェールをつけるようになったとミルセラは聞いている。

 視力も落ちたが、それでもなお天馬騎士随一の視力を誇る彼女は、4番隊の隊長としてその能力をいかんなく発揮した。ただ滅多に話さず、表情すら見えないカンパネラがどんなことを考えているのか、副隊長であるミルセラすら滅多に知らない。ただたまに、カトライアと物悲し気に会話する様子だけが、団内で時々見られていた。

 カンパネラが、自分の周囲にいる団員に近くに寄るように指示した。4番隊の最精鋭でもある5人がカンパネラの近くに寄る。


「ここでしか話せないけど、団内に裏切り者がいるかもしれない」

「「「え!?」」」


 カンパネラの唐突な申し出に驚愕する団員。だがカンパネラは表情を変えずに続けた。いや、傷のせいで表情が動かないと聞いたこともあるが、それでもなおカンパネラは美しいとミルセラは思う。


「今、第三層でアフロディーテは酷い目に遭ってる。イェーガーが予め備えていてくれたから我々にはさほど被害が出ていないけど、実は既に何名も行方不明者が出ている」

「初耳ですよ!?」

「当然、隊長格以外には知らせていない。知らせれば暴動でしょう?」


 カンパネラの言うことはもっともだった。普段冷静なミルセラとて、知らず握りこぶしを作っていたのだ。


「当初から指摘されていた。言い出したのはアルフィリース」

「彼女が?」

「別に我々だけではなく、どの傭兵団にも言えることだと彼女は説明していた。最初に話を持ち掛けたのは、総隊長のミストナ様。ミストナ様は最も信頼できる配下としてカトライア、ヴェルフラ、私を挙げた。それでもなお、与えられた情報には差がある。そしてどうやってかは知らないけど、アルフィリースは私をシロと判断した。もちろん潔白なわけだけど、アフロディーテの団員が段階的にいなくなって、行方がわからない。そしてミュラーの鉄鋼兵の団長ドードーの奥方たちが攫われたのは、間違いなく我々の誰かが内通しているせい」


 ミルセラははっとした。ミュラーの鉄鋼兵とフリーデリンデ天馬騎士団の付き合いは深い。ドードーの奥方を逃がす際に、いくつかの部隊が駆り出されたことは聞いている。それが誰で、どこに行っているかは知らされないままだが。

 そしてミルセラは指摘した。


「・・・我々が疑われたのですね?」

「そう。移動速度に優れ、偵察任務に詳しい我々が真っ先に疑われるのは当然」

「馬鹿な! いつも危険な哨戒任務をかってでる我々が、そんなことなど――」


 団員の一人が声を荒げたが、カンパネラがそっとの彼女を宥めた。


「落ち着いて。疑いを晴らすのは言葉ではなく、行動。我々は行動をもって常に潔白を示さなければならない」

「どうやって?」

「誰よりも激しく戦うこと、それが私たちの身の潔白を証明するでしょう。それ以外にもう一つ」

「もう一つ?」

「これだ」


 カンパネラが懐から出した小箱をぽいとミルセラに放り投げると、ミルセラは反射的にそれを受け取る。それを懐にしまうように指示すると、ミルセラが視線を外した途端にカンパネラがミルセラに斬りかかったのだ。



続く

次回投稿は、1/22(日)15:00です。

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