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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その149~真冬の戦場㉑~

 ローマンズランドに隊長格の母親を人質に取られたことで、怒り心頭の鉄鋼兵の精鋭たちの足を止めたものは、二の門前の台地を下ったところにある、少しだけ開けた広場だった。たしかに第三層に上る前、ここには広場が多少あった。だがこれほど広くはなかったはずだし、周辺の家屋も倒壊し、瓦礫の山になっているのが気になる。その瓦礫も、奥に行くほど高く、まるですり鉢の底のような地形になっているのも。そして、これみよがしに、いくつか通れる通路があることも、ただ不気味さを駆り立てる要因だった。

 呼び出されてこの光景を見たゼホは、見たままの感想を率直に述べた。


「どう考えても罠だろう、レイフ兄者」

「んなことは馬鹿でもわかる。だが兵士の姿がろくに見えねぇ。罠にしたって、俺たちを止めるならここに兵士を配置すべきなんじゃねぇのか」


 レイフの言い分はもっともだ。二の門だって崩壊したとはいえ、あそこの瓦礫を利用して食い止めれば、数日の足止めにはなったはずだ。軍は展開しやすく、数では合従軍が勝るのだ。そして合従軍には、使者を斬り殺された大義名分がある。ローマンズランドは今後どれだけ不利な状況に陥ろうと、投降を許されないだろう。アルネリアがとりなしたとしてそれは同じだと、先鋒を務めるミュラーの鉄鋼兵は暗澹たる気持ちになっていた。

 だから二の門前の台地で、死闘になると予想していた。それが一兵も見当たらず、ならば下りた場所かと思ってもそこにも誰もいない。そして目の前には、天幕にこれみよがしに積まれた食料と物資。これで疑心暗鬼に陥らない方が無理だというものだ。

 レイフの戦場での経験をして、判断に迷った。ミュラーの鉄鋼兵の隊長格は、すぐに集合し、本来なら話し合いに参加しないゼホの意見までも求めたのだ。


「罠なのは、もちろんそうだ。だがどう見る、お前ら」


 レイフの考えに、口々に兄弟たちが続く。


「食料も物資も必要だ。それらはいただくとしよう」

「だがセンサーが稼働しない。アルネリアの妨害魔術だな、先がさっぱりわからん」

「つまり、いくつかある隘路みたいになった通路を、細く長く2列程度で進軍しなきゃいけないってことか? 挟撃されたら一発で終わるぞ」

「これの先頭を進めってか? 俺は御免だ」

「死にに行くのと同義ではある。だがそれでも撤退という選択肢は俺たちにはない。お前はどう思う、ゼホ」


 兄弟には珍しく、ゼホは紛争地帯だけではなく他の地域での依頼も受けていた。既に主たる依頼は兄者たちに奪われているということもあったが、ゼホは割と旅が好きで、隊を放任して気ままな旅をしていることもあった。それがそのまま傭兵としての活動に繋がっていることも多い。

 ゆえにゼホは統一武術大会にも出場したし、その目で多くの諸侯や騎士を見たことが、今回の戦争に活かされているとドードーが評価した。戦場で徐々にその頭角を現し、少しずつ信頼を獲得しているのだ。

 ゼホは兄者たちに意見を求められ、緊張しつつも堂々と言ってのけた。


「行くべきだ。ただし、陸軍とは別の経路で」

「その心は?」

「残る敵軍の司令官はアルネリアの上層部、ドライアン王、それにモントール公国のマサンドラス将軍くらいだろう。そのうち、アルネリアとドライアン王はアルフィリースとつながりがある。マサンドラス将軍も、守備を得意とする非常に良識ある名将だとか」

「それが?」

「ある程度、こちらの事情を把握している可能性があるということだ。ここまで戦いを仕掛けてこないのは、アルフィリースからの連絡が途絶えているせいで、何が起きているか把握できてないからだろう。まともな指揮官なら、使者を殺して不利なこちらが戦いを仕掛けるなどと考えはすまい。おそらく三路全てに罠があり、普通に進めば死ぬが、陸軍以外は殺されない可能性もある。つまり――」

「陸軍、我々、イェーガーで分けて進軍しろということか」


 レイフはゼホの言わんとすることをいち早く察した。意見がまとまると鉄鋼兵の動きは速い。すぐに彼らはイェーガーの部隊長と、陸軍の指揮官のところに走った。だがそこに、軍団の少将がいたのだ。



続く

次回投稿は、1/18(水)16:00です。

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