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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その137~真冬の戦場⑩~

「まず、傭兵団の幹部以上にしか伝えていませんが、そろそろ糧食と燃料が厳しくなってきました」

「具体的には?」

「現状のままなら、一ヶ月。細く長くつないで二ヶ月」

「雪解けが間に合えば、なんとかというところかしら」

「そうですね。ただし一部凍死は待ったなしになるでしょうし、下手したら餓死者も出ます。その状況で、春が来て合従軍が攻め寄せてくることになれば、間違いなく戦うことは不可能です」

「その情報、ローマンズランド陸軍は知っていると思った方がいいわね」


 アルフィリースの言葉に、リサはしばし間を置いて、小さく頷いた。


「そうですね。彼らも糧食を取りに来ますし、計算する時には人手を使いますので、完全な情報封鎖は不可能でしょう」

「そのローマンズランド陸軍は?」

「相も変わらず、部隊アフロディーテや娼婦を呼んで、どんちゃん騒ぎ。いえ、前にもまして酷いですね。歯止めをかけるのが誰もいないのが、不思議ですよ糞野郎どもめ」


 リサの言葉には侮蔑の色があった。度々毒を吐く彼女だが、冗談ではなく嫌悪感をはっきり出すのは珍しい。当然のことだが、同じ女性を物のように扱われて良い気分がする者はいない。

 アフロディーテのカトライアは、アルフィリースが様子を聞くたびに笑顔で応えてはいる。だがその表情に少しずつ疲労の色が出ていることを、アルフィリースは見逃していない。冬の間中、彼女たちが持ちこたえるとは到底思えなかった。

 そしてリサの追加報告は、アルフィリースにとっても衝撃だった。


「ローマンズランド陸軍は、彼らの官舎に分散して駐留しているせいで、それぞれの場所に誰がいて何が起きているのか、掴むのがとても難しいのです。そして中にはまともな連中もいるので、より始末に悪い。アンネクローゼ殿下も力を尽くしてくれているのですが昨日、ついにアフロディーテの隊員に重傷者が出ました」

「え・・・まさか、死んだりしないわよね?」


 焦った反応を初めて見せたアルフィリースに向けて、リサはあえて一間置いてから否定した。


「たまたまラーナとプリムゼが第三層にいる時でしたから、幸い大事には至りませんでした。それでも10日は安静ですし、何より心に負った傷がどうなのかと」

「死んでいたら、部隊アテナが動いていたわね」

「それでもマルグリッテが抜く寸前だったようですけどね。しかし解せないのは、ローマンズランド陸軍の態度。マルグリッテが抜く直前ですら、何の緊張感もなくこちらをニタニタと嘲笑っていたそうです。むしろ挑発的であるとすら受け取れるわけですが、彼らのどこからそんな自信が?」

「エクスペリオン」


 アルフィリースの言葉に、リサがぴくりと反応した。


「ははぁ――既に正常な判断すら失くしている可能性があるということですか。どうりで無意味に強気なわけですね」

「それも、どこまで広まっているのか、誰がどうやって広めているのか不思議ですらあるわ」

「オルロワージュ妃殿下にでも聞いてみたらいかがですか?」

「もう聞いたわ。彼女にも心当たりがないそうよ」


 その言葉に、リサも怪訝な顔になる。アルフィリースも、眉をひそめていた。


「カラミティたるオルロワージュでも知らないですって? そんなことがあるのですか?」

「もちろん彼女が空とぼけている可能性もあるわ。だけど私が見る限り、そんな風でもなかった。彼女ですら意外に思っているような・・・」


 アルフィリースがオルロワージュと面会した時、彼女がお茶を飲む時に聞いたのだ。オルロワージュは飲む手を止め、意外そうにアルフィリースの方を見た。その時の驚いた目つきが演技なら、ほとんどの人間の反応が信じられなくなるだろう。

 アルフィリースは、頭の中にある推論に関してもう一度整理してみた。そして、一つの可能性にたどり着く。


「ねぇ。私たちって、そもそも前提が間違っているのかもしれないわ」

「前提とは?」

「オルロワージュのことだけど・・・」


 そこまで言って、リサの展開した防音の結界にルナティカが入ってきた。ルナティカは入ってきた瞬間にタイミングを間違えたと思ったが、伝えないわけにもいかないと思ったのか、要件を伝えた。


「アンネクローゼ殿下が呼んでいる。宮殿に来れる?」

「我々の雇い主よ、行かないわけにはいかないでしょう」

「私とミュスカデも同行しましょう。クローゼスは前線で、プリムゼとラーナは重傷者の処置で手が離せないでしょうし」

「私も行く?」


 ルナティカが護衛を自ら申し出たが、アルフィリースとリサは顔を見合わせて首を振った。


「予定外の登城だし、数刻で帰れるでしょう。必要ないわ、それよりローマンズランド陸軍を見張っていてくれる?」

「わかった。それとガイストから伝言」

「ああ、ハイランダー家のことね。彼はなんて?」

「アルフィリースの見立て通りだと言っていた」

「そう・・・なら、ますますアンネクローゼに会わないと」


 アルフィリースにはこの時点で一つの確信があったが、それはリサにすら告げていない考えだ。証拠を見つけるまでは、迂闊に口にすることは憚られた。



続く

次回投稿は、12/25(日)17:00です。

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