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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その125~静かに怒れる者②~

「ド、ドゥーム? どうしたの?」

「・・・なんでもない」

「で、でもその顔――」

「なんでもないと言っているだろう!」


 そう言ってオシリアを追い散らすように魔力を放出したドゥーム。いつもおどけこそすれ、目的もなくそんな乱暴な態度を取るドゥームは初めてだったので、オシリアは思わず一歩下がってしまう。

 そのオシリアを見て、ドゥームははっとして首を横に振った。


「すまない、影響を受けたようだ」

「それは、何の?」

「サイレンスの根底にある怒りの。でもこの怒りは違う。この怒りは――」


 ドゥームはそれ以上の言葉を発することなくしばし悩んだあと、ふぅとため息をつき魔法陣を起動した。


「転移魔術を使う」

「どこへ?」

「決まっている、サイレンス本体の所さ。デザイアは留守番だ」

「どうして?」

「サイレンス本体は相当にヤバい奴だ、本当はオシリアだって連れて行きたくない。だけど僕はオシリアと一心同体だと思っている。僕が庇えないなら、全てそれまでって覚悟で行くよ。それでもいいかい?」

「あなたにそこまで言わせるのね――いいわ、行くわ」

「よし」


 ドゥームが言葉少なだったので、それだけで危険度と本気なのは良く伝わってきた。言われるがままにオシリアはドゥームに付き従い転移魔法陣の中に入ると、次の瞬間は真の暗闇の中にいた。


「ここがそうなの?」

「そのようだね。見えるかい?」

「闇を友とできない悪霊がいて?」

「それもそうだ」


 ドゥームとオシリアが歩き始めてしばらくすると、うすぼんやりと緑に光る空間に出た。そこは天井の隙間からわずかに光が差し込んでいるようでもあったが、あまりに僅か過ぎて人間では光源として用いることはできないだろう。

 ドゥームとオシリアくらいならわずかにわかる程度の光源で、ドゥームは何かをとらえたのか歩みをぴたりと止めた。そして闇に向けてはっきりと呼びかけたのだ。


「君がサイレンスの本体か」

「・・・」

「いや、失礼。その状態じゃあ言葉は話せないか。さて、どうしたものか」


 ドゥーム程視界が確保できていないオシリアはまだ何が起きているのか把握できていなかったが、そうするうちにコォン、と高い音がなった。どうやら鍾乳石か氷柱から滴った水が鉱石を叩き、高い音として反響したようだ。

 洞穴なのか――オシリアがそうするうちにも、コォン、コォーン、と高く美しい音が響く。それらがリズムを取るように鳴り続けると、ドゥームは頷いたように空気の魔術を圧縮し、それらを反響させた。

 洞穴内に高い音が鳴り響き、水滴の音がさらに響き渡った。そうして、ドゥームは再度サイレンスに向かって声をかけた。


「伝わるかな? 君のやり方は理解したつもりだ」


 すると、水滴がリズムよく返す。そうしてオシリアは理解した。


「ドゥーム、まさかサイレンスは水滴のリズムで会話を?」

「その通りさ。サイレンスという名は体を表す。沈黙はかく語りき、ってのは誰が言った言葉だったかな」

「しかし、なぜその必要が――うっ」


 オシリアの目が慣れてくると、サイレンスの本体がようやく見えてきた。その奇怪な姿に、思わずオシリアはドゥームの背後に隠れてしまうほどだった。


「あ、あれがサイレンス? あんなものが?」

「それは失礼だよ、オシリア。彼か彼女かはもうわかりもしないが、彼は生き続ける選択をした結果、ああなったんだ。普通ならとっくに死んでいるし、死んだ方が楽だったのに違いないね。それでも彼は生きることを選んだ――僕はその執念に敬意を表するね。たとえ僕が悪霊であっても、彼ほど執着する生者には敬意を表する」

「だ、だけどあんな姿は――」


 ありえない、と言おうとして、ありえないとは何だろうとオシリアは考えた。自分たち、遺跡、ウッコのような古き者、ティタニアのように執念で生きる者、精霊、そして御子や管理者、アルフィリース。

 どこからどこまでが正気で、どこからが狂っているだなんて、誰が決めたのか。それとも、遺跡は答えを繰れるのか。オシリアの言葉が喉から出かけて飲み込まれる中、ドゥームが提案をした。


「さて、サイレンス。君の執念と怒りに敬意を表して提案、いや、契約だ。君の人形はおそらくはほとんど全てが処分されただろう。アレクサンドリアにまだ残っているだろうが、おそらくはクイエットなどとは比較にならないほどの粗悪品、あるいは劣化品のはずだ。君は手足を文字通り失い、それでもなお尽きない怒りがある。間違いないかな?」


 コォン、と水滴が一つ滴った。ドゥームはそれを肯定と受け取った。


「遺跡攻略者、あるいは遺跡の一部を継承した君を見込んで頼みがある。僕は君が知りうる遺跡の知識が欲しい。代わりに君の手足を一部代行しよう。成果は、当座オーランゼブルの計画を完遂すること。その後あらゆる生命を痛めつけ、苦しむ姿を君に見せ、煉獄をこの世に顕現しよう。いかがかな?」

「ドゥーム?」


 ドゥームの突然の提案に、オシリアは戸惑った。だがドゥームは全く躊躇する様子すら見せず、堂々としてしたままだ。

 しばしの沈黙のあと、一つ水滴が滴る。提案が受け入れられたことの証左だが、オシリアがほっとする暇もなく、そこでドゥームはさらに踏み込んだ問いかけをサイレンスに投げかけた。


「さて、君を見込んでに一つ聞いておきたい。怒りの根源は、どこから来ると思う?」


 オシリアには理解できないその質問。だが動揺にもとれる沈黙の後空間を激しい怒りを含んだ魔力が支配し――契約は成った。



続く

次回投稿は、12/1(木)19:00です。

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