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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その107~迷宮攻略、脱出路の戦い③~

「今でなければいけないのか」

「今しかなかろう。おそらく、アルフィリースは最初からそのつもりだったんだ」

「脱出路の確保がか?」

「いや――」


 ヴァルサスは言葉を濁した。なぜアルフィリースはイェーガーの部隊を分けるのではなく、我々に依頼したか。その意図を完全には掴んでいなかったが、その輪郭がヴァルサスにも見えたような気がした。

 だがその考えをヴァルサスが口にすることはなく、自らのやるべきことを見つめ直した。


「ともあれ、今しかなかろう。俺は依頼を果たす。お前たちは自分の役目を全うしろ」

「役目、か」

「ヴァルサス、俺は――」


 ゼルヴァーがいまだ目を覚まさぬドロシーを抱え、狼狽していた。いつもの自信に溢れた巨体は今や一回り以上も小さく見える。長年パーティーを組んだダンダとべルノーを失ったのだ、無理もない。

 ヴァルサスが何かを言う前に、ドラグレオがゼルヴァーの肩に手を置いた。そこには確かに知性と慈しみの光があった。


「奴らは強かった。ヴァルサスが来る前には、べルノーとダンダの攻撃で俺は覚醒寸前だった。奴らがいなけりゃお前とそこの嬢ちゃんは死んで、アノーマリーは逃げ出していた。こういうのはほら、立派だった、って言うんじゃねぇのか?」

「それはわかる。だが――」

「落ち込んでいるところを悪いが、お前にしか頼めないことがある。ドロシーが目覚めたら確認してくれ」


 ヴァルサスはそっとゼルヴァーに耳打ちした。その内容に、再度目を見開いてゼルヴァーが確認をする。


「俺に、それをやれと?」

「お前しかいない。この時、この間合いでしか機会があるまい。最初から俺はそのつもりだった。ベッツとゼルドス、それともう一人には伝えてある」

「もう一人とは――奴だな?」

「そうだ、最初からそういう役目だった。そもそも、始めたのは俺たち4人だ、お前たちは誰も知らないことだがな。俺たちで始めた、だから俺たちで終わらせたい。戦場を穢す不埒者には制裁を。それに、かつての仲間の仇でもある」

「そうか――それは俺に死ねと言っていると受け取っていいか?」

「そうだ」


 ヴァルサスは躊躇なく言い切った。その言葉に、むしろゼルヴァーは安堵したように微笑んだ。


「ありがたい。その言葉をずっと待っていて――騎士の時はもらえなかった。ここで死ねと言われなければどうしようかと思ったぞ?」

「別に死ぬのはいつでもできる。生き延びたら、その時できることを考えたらいい。俺はいつもそうだ」

「楽天家め」

「お前は悲観屋にすぎる」


 互いに笑って胸を小突くと、2人は別れた。ヴァルサスは未だに不満をありありと表情に出したままのレクサスを伴い、奥へと進んだ。


「ルイにだいたいの道を聞いてはいるな?」

「ええ、一応は。でも俺自身は初めて通るんで、自信はないっすよ?」

「構わん。おおよそ合っていれば俺とお前の勘でなんとかなるだろう。まずければ、グロースフェルドを使って撤退する」

「先程から私の扱いが荒くないかな?」

「そうでもない。俺は、無理は言わん。無茶は言うがな」

「その違いがわからないよ」


 グロースフェルドは不満を口にしたが、ヴァルサスはそれをあっさり却下した。ドラグレオがそれを「仲が良いな、お前ら」と評したが、3人とも同時に嫌そうな表情をしたことが何より正確にドラグレオの意見の肯定になった。

 そうして虫との何度かの接敵を退け、半刻も進んだ頃、彼らは行き止まりに当たった。


「あれ、おかしいな・・・ここで合っているはずなんですけど」

「間違いないか?」

「ええ、この辺は一本道なんですよね。迷宮になっているのはクベレーやカラミティが勝手に改造したからで、本来この洞穴って長さはあってもほぼ一本道なんだそうです。脇道は身を隠す程度のものでしかなく、すぐに引き返せるものだと聞きました。そうしないと、ローマンズランドの王族が脱出したけど、途中で迷子になって飢え死に、なんてことも考えられるわけで」

「それもそうか。ではこれはなんだ?」

「これがカラミティの本体だ」


 コンコン、とドラグレオが叩きながら答えた。すると、ただの壁だと思っていたものが薄ぼんやりと光ったのだ。


「こいつはまだ休眠状態だが、俺のことは理解しているようだな。警戒心を出しているから、攻撃すれば反応すると思うぜ? ま、止めといた方がいいだろうがな」

「それが本体・・・? なんなんでしたっけ、カラミティって」

「神樹とそれを守る神蟲と呼ばれた生物の融合体、だそうだ。俺もまだ神樹と神蟲と呼ばれた頃のこいつらにしか会ったことはないが、当時で白銀公と良い勝負をする連中だった。元より人間の生贄を求める連中だったから白銀公がやめさせようとしたが、いつも引き分けだったとさ。カラミティと融合して、強くなったか弱くなったかは知らん。俺も直接戦ったことはないし、起きているのを見たこともないからな。ただ、気配だけは常に感じていたが、まぁ絶対にやりたくない相手だな。勝てる気がしねぇ」

「お前にそう言わせるとはな」


 ヴァルサスの皮肉ともとれる表現に、ドラグレオもお手上げだった。


「そう言われてもな。食べるより早く増えられたら、流石の俺も倒し切れん」

「そういう理屈か」

「それはいいんすけど、ここに本体がいるってことは・・・脱出路は?」

「使えんだろうな」


 ヴァルサスはきっぱりと言い切った。


「アルフィリースはおそらく想像がついていた。カラミティの本体がいるなら、当然この巨大な生物もここにいるだろうと。脱出路が使えない可能性を想定して、俺たちに確認を依頼したのさ」

「え、じゃあ最初からアルフィリースは」

「逃げるつもりなどない、カラミティを仕留めるつもりだ――と思ったんだがな。あの女の考えるていることを、俺も完全に理解しているわけじゃない。どうなるか見物じゃないか、なぁ?」

「同感だぜ」


 互いに不敵に笑うヴァルサスとドラグレオを見て、レクサスはとてもそんな気分にはなれないと、はぁとため息をついていた。



続く

次回投稿は、10/25(水)22:00です。

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