開戦、その102~迷宮攻略、???戦⑧~
そんなダンダの想いが伝わったかどうか。駆けつけたヴァルサスとグロースフェルドは塵と消える直前の満足したようなダンダの表情を見た。2人に気付いたアノーマリーは、残念そうな表情を彼らに向けた。
「少しだけ遅かったね。でもボクだって幸運じゃなきゃあ結果は逆で――」
アノーマリーがかぶりを振ろうとした瞬間、その口にヴァルサスの剣が突き立てられた。もう下半身は再生させたが、抵抗もさせないままそのまま壁に縫い付けるようにしてヴァルサスがアノーマリーを押し込んだ。
「ぼご!? ばぎゃらぎべぇ!(おい、話を聞けぇ!)」
「ドラグレオォォ! さっさと起きろぉ!」
ヴァルサスはこの一瞬で状況を理解し、最短の答えだけを剣と共に相手に叩きつけた。アノーマリーとは会話をしても真偽を知る術がない。そしてダンダが消え、べルノーの死骸がある時点で、これは倒すべき敵だと。
その体はドラグレオのものでありながら、アノーマリーの顔が話す。ドラグレオと戦ったことのあるヴァルサスは、剣を通してドラグレオのひととなりを知っている。あの男が、自分の体を好きにさせるわけがないと。ならば意識を乗っ取られていると考えるのが妥当と考え、剣を突き立てながら叫んだ。そうするのが、この男にとって一番だろうと信じて。
それは獣同士にしかできない呼びかけだったのか。ドラグレオの瞳がゆっくりと開くと、ヴァルサスの呼びかけに応えたのだ。今までどんなに攻撃されても、ぴくりともしなかったのに。
「・・・うるせぇな。さっきのオークといい、お前といい。鷹ってのはそんなに吠える鳥だったか?」
「貴様が寝ているせいで苦労をしているのだ、自覚しろ!」
「わかってるぜ、責任を感じてらぁ・・・ミコト、いけるか?」
「・・・うん、ちょっとだけなら」
頭を振って起きたドラグレオとともに、背中のミコトの目がうっすらと開く。
「とりあえず、俺の食あたりが原因みてぇだ。余計な異物だけ、殺せるか?」
「できるよ・・・でもそれが限界かなぁ」
「十分だ」
「ふご? ふごごご?」
アノーマリーが何をされるかを察して逃げようとしたが、それよりはミコトの力が作用する方が早かった。アノーマリーは苦悶の表情を浮かべたまま、ヴァルサスの剣とミコトの力から逃れるように、ドラグレオの体から無理矢理自分をひっぺがしていた。
「ぎゃあああ! いくらボクでも、この力はだめだ! 嗜虐性がない、感情がない、ただ殺すだけとか、面白くない!」
「貴様の面白さなど、知ったことか!」
ヴァルサスが襲い掛かり、アノーマリーは転移魔術で逃げようとするが、既にグロースフェルドが結界を張って妨害をしていることを悟ると、本心から憎々しい表情をグロースフェルドに向けた。
「クソ! せっかく生き返ったのに、こんなことでぇ!」
ヴァルサスの剣がアノーマリーの頭部を両断する。だが崩れそうになるアノーマリーに向けて、ドラグレオが衝撃的な一言を吐いた。
「よぅ、お前の本当の主は誰だ?」
アノーマリーはその質問を聞いて、今までの憎しみと無念が嘘だったかのように、怖気の立つ笑みを浮かべた。それを見たドラグレオが小規模の白銀のブレスを吐き、アノーマリーを痕跡なく消し飛ばした。
アノーマリーの消滅を確認すると、ヴァルサスがドラグレオに向き直る。
「最後の質問はどういうことだ?」
「そのままの意味だ、あいつは最初からオーランゼブルになんか仕えちゃいない。アイツは誰かの使い魔――あるいは、協力者がいる」
「なぜそう言い切れる?」
「オーランゼブルが資材を提供したといっても、行動に移すまでが早すぎる。あいつはオーランゼブルの資金調達や場所の提供のおかげで工房を展開したと言っていたが、総数が数十だぞ? それだけの規模をたかだか十年そこらでゼロから造りだすには限界がある。
それにあの見た目だ。どうあったって買い付けや、移動するだけで目立っちまう。資材の搬入や調達まで、全て魔物でできると思うか?」
「つまり、人間の協力者がいるということか」
「それも大陸規模で展開できるとなれば、協力者は限られる。わかるだろ?」
ドラグレオの言葉に、ヴァルサスは思い当ることがあった。それに、近しいことは自分も考えていた。このことはベッツ、グロースフェルド、ゼルドスとあと一人にしか話していない。
考え込むヴァルサスにの肩に、ドラグレオが手を置いた。
「アノーマリーの本体は、そもそも俺らは誰も知らないのかもしれない。あれは都合の良い使い魔――かつて理想の生物を求めて造られた合成生物だとしたなら、あの醜悪さはおかしいわなぁ?」
「それはたしかに」
「サイレンスもそうだ。本体はどこかにいて――奴はずっと俺ら黒の魔術士を観察していたのさ。俺たちの目的を見定め、手を貸すに値するかどうか。ティタニアもドゥームも言っていたが、サイレンスは危険な奴だ。俺らの誰も――ブラディマリアやドゥームですら人間を滅ぼし尽くそうとは思っていないが、サイレンスとカラミティは違う。奴らは人間を心底憎んでいる。生かしておけば必ず人間に立ちはだかる存在だ。生き延びたければ倒すしかない」
「カラミティは知らんが、サイレンスはそうだな。剣を合わせてみて、底なしの憎悪しか感じなかった。だが俺の目的は――」
「剣の風とか呼ばれる奴か?」
ドラグレオの言葉に、ヴァルサスが珍しく驚きに目を見開いた。ドラグレオはやはり、とばかりに頷いた。
続く
不足分連日投稿します。10/17(月)22:00投稿予定です。