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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その97~迷宮攻略、???戦④~

「ヒュウ~そういう風に進化するんだ? 追い詰められた土壇場で進化するなんて、魔王でもないのにやるねぇ。いや、もはや風格は魔王と同じかな?」

「オデは――いや、俺は魔王にはならない」


 ダンダの口調が変わった。訛りやどもりが消え、流暢な人語を扱うようになった。体躯は二回りも大きく、一度肥大した筋肉はさらに引き締まり、一切の無駄をなくす。体色は赤黒く、髪が生え、その容貌はまるで人間のそれへと変化したのだ。

 もはやオークらしさを残すのは、尖った耳と牙のみとなった。アノーマリーはただただ称賛するために、手をゆっくりと叩いてみせた。


「お世辞や嫌味抜きで素晴らしい! 人間は多様性に優れる一方、魔物のは個体差が乏しい代わりに進歩が早く、その進化先は一定していない。オークの進化種は何十と見たことがあるけど、君のような変化は初めてだ! まさか人間に近しい姿に変わるとは」

「俺、人間なのか?」


 ダンダがベルノーの方に振り向くと、べルノーは力強く頷いた。


「ああ、いっとう男前じゃわい。鏡があればみせてやりたいの」

「そっか・・・これならドロシーの隣にいても恥ずかしくないか?」

「元より恥ずかしいことなどありゃせんわ」


 べルノーの肯定に、アノーマリーも頷く。


「同意だね。魔物と人間が番っちゃいけないなんて法はない、むしろどんどんやってくれと言いたいよ。異類婚姻譚は大歓迎さ」

「ほ、貴様フェミニストか」

「難しい言葉を使うね? ボクはいつだって平等――」

「騙されるな、べルノー。こいつがそんな殊勝なタマのわけがない。こいつは面白がっているだけだ、俺たちや人間の顛末を見てな。ここまで散々異形の魔物を見ただろう? それに今まで戦った魔王も。元をただせば全部こいつのせいだ。あんなことがまともな神経でできるものか!」


 ダンダがハルバードをアノーマリーに向けて突きつけたが、アノーマリーは降参のポーズをしながら、おどけてみせた。


「嫌だなぁ、ボクは本当に平等主義さ。老若男女も、貴賤も魔物の別なく、常に死は平等じゃないか。あ、不死者は別ね? でも考えるべきは、次にどのような時代と後継者を残すか、だろ? そういう意味では不死者なんてのは進化を諦めたどん詰まりの絶滅種だよ。不死を目指すなんて、ちゃんちゃらおかしいね」

「・・・昔、魔術協会にそんな研究をしていた男がいたらしいの。本人は道徳家気取りだったようじゃが、とんだ狂気の実験じゃわ。お前はそれによく似ている、考え方だけが立派な点はな」

「それ、ひょっとしたらボクを作った魔術士かもしれないねぇ。だけど彼とボクは違う。彼はただの力ない夢想家だったけど、ボクはそれを叶える力と知識を得た。ボクの力はこの世界に必ず必要とされる時が来る。その時が来て何の準備もできていませんでした、なんて慌てても遅いんだよ」

「ぬかせ! そうやってどのくらいの命を弄んだ? 人の倫理観や理から離れてこその魔術士とはいえ、やって良いことと悪いことがあるわ!」

「ま、凡百の輩に説明する気なんてないさ。わかってくれるのは五賢者とアルフィリース、それに浄儀白楽くらいだろうから。君ら道化にはそろそろ退場いただこうか?」


 アノーマリーが左手に魔術を、右手に空気が変わるほどの握り拳を作り始めた。

 それを見てダンダは構え、仲間に促した。


「行け、ここは俺が食い止める」

「しかし!」

「すまないが、ドロシーを庇いながらじゃあ足手まといだ。ゼルヴァー、頼むぞ」


 ゼルヴァーは返事に詰まった。もう戦士としてはダンダに遠く及ばないだろう。自分ではアノーマリーの足止めすらできまい。そのダンダとて、どのくらい食い止められるか。ヴァルサスのところにドロシーを連れて行かなければ、反撃の芽すらないのは明らかだ。

 それに、今のダンダならあるいは――そう期待させるだけの空気を纏っている。


「任された。必ず追いついてこい」

「当然だ、まだドロシーの返事を聞いていないからな」

「ワシも残るぞ」


 べルノーがダンダの隣に立った。一瞬ダンダもゼルヴァーも目を見開きかけ、止めた。べルノーの瞳に宿る覚悟を見たからだ。


「・・・頼む」

「おう、見せ場じゃの」

「べルノー、あれをやるか?」

「あれもやるが、お前さんにも見せておらんとっておきがある。接近戦よりも、ある程度距離を取りながら戦えるか?」

「やってみよう」

「隙ができれば、渾身の一撃を叩きこめ。躊躇はするなよ?」

「おう!」


 ダンダがアノーマリーに踊りかかり、アノーマリーは反撃ではなくするりとその攻撃を避けた。その隙を利用して、ゼルヴァーは駆けていく。

 アノーマリーも狙いはわかっていたが、どのみちこの迷宮内で起きている全てを把握して転移で追いかけられるのだ。距離を稼ぐことは無理だとわかっていた。それより配慮すべきは、どのようにこの迷宮を破壊せずにこの決死の2人を仕留めるかということだけだった。

 そして自らを父と呼んだクベレーが、どのように君臨してどのような成長を遂げたのか。加えて気になるのは、さらに別の事。ダンダに入れ知恵をした存在と、この迷宮の外の状況のこと――さらには戦争の外側で今まさに進行しているであろう事態のことだった。



続く

次回投稿は、10/6(木)23:00です。

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