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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2422/2685

開戦、その96~迷宮攻略、???戦③~

***


「まったく、鬱陶しいったら!」


 ドロシーがダンディの部屋で手に入れた曲刀を振るう。随分な業物のおかげか、迷宮に出現する魔王を斬り裂いても刃こぼれ一つしないが、何せ数が多い。一体一体はできそこないのゾンビのようにのろく、一つ目の人間にしか過ぎないのだが、狭い通路を塞ぐように後から後から押し寄せて来る。


「どけぃ! 焼き払ってくれるわ!」


 べルノーが炎の魔術で一斉に焼き払うと、奥にいた魔王にまで魔術が届いた。悲鳴を頼りに、ダンダが手斧を投げ、魔王を仕留める。どうやら群体を操る種類の魔王がいたようだ。

 灰に還る魔王だが、炎に包まれていたせいで通路が煙で塞がれた。視界がきかない通路を強引に進むほど危険なことはない。しばし炎が収まるまで彼らは小休止を取ることにした。


「すまぬ、焼き払うのは失策じゃったわ」

「あの数を斬り伏せる方が手間だ。悪くない判断だ」

「どっちでもいいけど、ダンディの奴は無事かね?」


 ドロシーが水を口に含みながら汗を拭う。ダンダは背後を見ながら、緊張感のある表情を崩さず、誰も一言も発さなかった。彼らはわかっている、ダンディでもドラグレオの体を乗っ取ったアノーマリーを倒せないことを。

 しばし沈黙が3番隊を包んだが、べルノーが一番に違和感に気付いた。小休止とはいえ最低限の結界を張るべきかと考え準備をしていたところ、作りかけの結界に何かが引っかかった。

 べルノーはその感覚を確かめることもなく、ダンダに向けて叫んだ。


「ダンダァ!」

「!?」


 べルノーの指さすままにダンダが弾けたように飛び出した。指差されたドロシーは一瞬呆けたような表情をして、その背後に殺気を感じた瞬間、振り返ることなくダンダの方に飛んだ。

 その直後、気を失うほど背中を殴りつけられ、ダンダがドロシーを受け止めていなければ確実に無残に叩き潰されて致命傷を負っていただろう。やったのは、転移魔術で出現したアノーマリー。

 腕をぷらぷらとさせながら、ドロシーを殴りつけた感触を確かめている。


「ちっ、勘がイイね。飛んで衝撃を和らげたか。まだ死んでないなんて、さすがブラックホーク」

「貴様、ダンディはどうした?」

「ああ、あの筋肉ダルマ。筋肉筋肉って五月蠅いし、どんだけ殴っても立ち上がろうとするから魔術で粉微塵にしてきた。魔王がさぁ、満足そうな顔で死ぬなっての。最後まで腹の立つ鬱陶しい奴だったよ。ただ上手く時間稼ぎをしたつもりだろうけど、残念ながらその前の触手君パンゲロスを取り込んだ影響で、この迷宮中に転移の拠点と監視網をそっくりいただくことに成功しているんだよね。そのおかげですぐにこうして追いつくことができたってわけさ。はい、無駄な努力、ご苦労様でした~」


 アノーマリーが心底嫌味たらしく小馬鹿にしたようにお辞儀をしたので、思わずダンダは脳天が沸騰してドロシーを放り投げて襲い掛かりそうになった。

 そのアノーマリーは、ドラグレオの体をぱんぱんと叩きながら、さも誇らしそうに説明する。


「ってゆーか、凄いねドラグレオは。賢者ドラグレオってのは本当なんだな、こいつの頭に中には既に失われた魔術や魔法が山のように詰まっているよ。遺跡の叡智を一部吸収したボクでさえ、そんな発想や魔術は知らないってのが満載だ。オーランゼブルが洗脳して封印したのもわかるさ。この体の強さに膨大な生命力、無尽蔵の魔力と知識、それに加えて相手の能力や生命力を吸収する特性、極めつけは白銀公のなんでも無に帰す白銀のブレス。魔人ブラディマリアなんか目じゃないくらい危険だよ、こいつは。正しく使えば、世界を支配することもできるんじゃないのか」

「お、お前は支配者になりたいだか?」

「え、いや全然?」


 意外な返事に、ダンダもべルノーも面喰った。こういう手合いが考えるのは支配だとばかり思っていたからだ。

 アノーマリーは唸りながら続ける。


「実はボクって、支配なるものに興味がないんだよねぇ。優秀な生命を作り出すことこそがボクの至上命題で、その結果として人間やその他の生物種族のためになればと思っているんだよ。だから支配じゃなく、正確には支配するだけの器に足る者の補佐をしたいわけさ。愚者の支配なんて、時間の無駄無駄。

 いや、適性のある人がいなければボクがやってもいいよ? でも正直、為政者は別にいた方が研究に没頭できるんだよねぇ・・・オーランゼブルでもいいし、それよりもあの黒髪のアルフィリースあたりが支配者になってくれれば、楽しくボクは研究できそうなんだけどねぇ。あ、ダンディの口癖がうつっちゃった」

「貴様、ふざけているのか?」

「いやいや、大真面目さ。じゃなきゃあ、サイレンスみたいなイカレ野郎と組むもんかぁ。そもそもさ――」

「も、もういいだ」


 ヒュン、とダンディの形見となった漆黒のハルバードを振るいながらダンダが前に出た。


「じ、時間稼ぎをしているだな? 退路を結界で塞ごうとしているだ」

「でへへ、ばれたか。本当に優秀だね、君。ブラックホークを裏切ってボクの方につかない?」

「お断りだ。何があっても家族と仲間は裏切らねぇだ。それに、愛する人をなくしてまで生きる気もないだ」


 ドロシーをゼルヴァーに託すと、しばし愛おしそうにその頬を撫でる。


「ドロシー、愛しています。ぜひ、オデ――俺と結婚してください。よし、どもらず言えたべ」

「う・・・あ、ダン――」

「ゼルヴァー、ドロシーを任せただ。安全な所へ運んでくれ。オデはこいつを倒す」


 ダンダの筋肉が見る間に隆起する。その体表は赤く、さらに体が一回り大きくなったようにさえみられる。いや、実際に彼は大きくなりつつあった。ダンダの覚悟と決意が彼を進化させる。 思わずアノーマリーも口笛を吹いて称賛するほどに、ダンダの容貌は変わりつつあった。



続く

次回投稿は、10/4(火)23:00です。

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