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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その90~迷宮攻略、ダンディ戦①~

 そのダンディはというと――


「つ、強い」


 ドロシーから声が漏れたのもやむなし。元来オーク、さらにはオーガや巨人種にはえてして筋肉が異常発達した個体が多いのは対峙してしっている。だが、彼らは瞬発力や膂力には優れていても、それ持久力や柔軟性に欠けることが多い。

 ダンダはそういった種の特性や、戦いに本当に必要な筋肉の鍛え方、柔軟性の上げ方に気を使っていた。なんなら栄養や睡眠といった、回復にまで配慮する。ちょっとした栄養学や薬草学の知識もあるし、戦士に必要だと考えられるおおよその知識を実践、書物問わず貪欲に吸収する。オークではあるが、彼ほど勤勉な戦士をドロシーは見たことがない。ブラックホークにすら、彼ほど学ぶ戦士は誰もいない。

 だからダンダはその実力を飛躍的に上げていた。実力だけなら、既にAの上級。依頼の内容と実績が伴い、オークであることで差別されないならS級の認定をやがて受けるだろうと思っている。一度冗談でそのことをほのめかしてやると、ダンダは口の端を少しだけ綻ばせ、


「もしそうなったら、光栄なことだべ。人間とオークが共存することができるだかなぁ」


 と嬉しそうに告げていた。ダンダは精神的にも成長を遂げていた。そのダンダが、押されている。相手はベースこそオークだが、おそらくは複数種が混じった魔王。もちろん鍛練を重ねていることは間違いがないだろうが、それにしても体格も筋力も、持久力もオークのそれとは随分と違う。

 これでは対等な勝負も何もあったものではないと、ドロシーは歯ぎしりしたい思いに駆られ、武器が汗で滑りそうになるほど力を込めて握り込んでいた。正々堂々を謳いながら、仲間の、ダンダの誠実さを足蹴にするような真似をしやがってと、声を大にして言いたかった。

 だがその言葉を決して口にすることはない。ダンディの戦闘力は尋常ではない。この場でドロシー、ゼルヴァー、べルノーが一斉に襲い掛かったとて、逆にダンダの足手まといになりかねない。ダンダがなんとか拮抗させているから、勝負の形になっているのだ。そのくらい、ダンディの戦闘力は圧倒的だった。


「ほらほら、どうしたね。もう息が上がっているようだが?」

「なんの、まだまだっぺ!」

「根性だけは本当に一級だがね」


 ダンディの膂力に対抗するために持ち替えていた両手戦槌を、ダンダが全力で振り回す。その全力の戦槌を、ダンディは片手であっさりと受け止めてしまう。


「オデの、全力の攻撃を」

「オークにしては大したものだが、グリブルの変身後ほどではないんだね? これ以上出すものがなければ殺してしまうが、いいかね?」

「これならどうだぁ!」


 ダンダが背中に装備しておいた戦斧を投げつけた。それをひょいとよけるダンディは、呆れたようにため息をついた。


「こんなのが奥の手かね?」

「油断はよくないだ」


ダンディの背後で、突然ぴたりと戦斧が動きを止める。ダンディが異変を感じて振り返ると同時に、その頭部に戦斧が突き刺さった。戦斧の柄には、うっすらと糸がついていたのだ。


「なん・・・と」

「辺境の蜘蛛型魔獣からとれる糸だ。オデの体重を支えることもできるほどにはきょ、強靭、なんだな!」


 跳躍したダンダが、ダンディの頭に刺さった斧めがけて全力で戦槌を振り下ろした。戦斧は深々と刺さってダンディの頭をカチ割り、ダンダが力をこめ過ぎたせいで戦槌の柄が曲がってしまうほどだった

 ダンディの巨体が崩れ落ちると同時に、力を使い果たしたダンダがへたり込む。


「や、やったんだな」

「ダンダ、やるじゃないか! 愛してるよ!」


 思わずドロシーがダンダの頭にキスをしたが、そのせいでダンダが頭の先から爪先まで真っ赤になっていた。


「な、な、なにすんだべー!」

「何よ、ちょっとした愛情表現じゃないか」

「そ、そ、そういうのは恋文の交換から始めるものだっぺ!」

「嫌だよ、面倒くさい。生きて帰ったら一発ヤりたいくらいの気持ちなんだけどさ」

「い、一発・・・」


 頭に血が上ったダンダが、気絶した。それを見たべルノーが頭を抱える。


「ドロシーよ、あんまりからかってやるな」

「からかってないさ。オークでも良い男じゃないか。別に酒の勢いでも悪くないけどね。仲間内じゃやらないことにしてたけど、そのくらいには感謝しているのは本当さ」

「だとしても、ダンダはオークとしての欲求を鍛練への意欲に変換してそこまで鍛え上げたんじゃよ。ダンダは純情そのものだ、ちゃんと段階を踏んでやれ。本当に大切にしたいのならば」

初心うぶだねぇ。ま、恋文は面倒だけどデートくらいなら付き合ってやるかね。おっと、ダンディの口調がうつっちまった」


 ドロシーが冗談めかしてダンダの頭を撫でようとした時、ダンダの目がぱちりと開きドロシーを抱えるようにして飛びずさった。その反応たるや、まさに守護騎士のように堅実で上忍のような俊敏さ。ドロシーが驚きながらも、どんな事態かを察知した。


「ダンダ、まさか」

「そうだべ。ダンディお前、死んでないだな?」

「ふむ、驚かせるつもりはなかったんだがね」


 ダンディがゆっくりと戦斧を抜きながら起き上がってきた。その体がみるみるうちにより一層肥大化し、さらに頑強に変化していく。もはや戦斧はダンディにとって投げナイフほどの大きさしかなく、ダンディは片手でそれを握りつぶすと、ぽいと投げ捨てた。さらに大きくなった体は天井に届きそうになりながら、ダンダたちをゆっくりと見下ろした。



続く

次回投稿は、9/22(木)24:00です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「そ、そ、そういうのは恋文の交換から始めるものだっぺ!」 欲求をどうこうを別にしても初心い…… ところで、どうしてお付き合いのはじまりは交換日記からなんでしょうね?
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