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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その87~迷宮攻略、サックモンド戦②~

 一合と斬り合うことなく、すれ違いざまに撫で切っていく。一撃で致命傷を負わせ、漆黒のゴブリンたちを恐怖に陥れるレクサスだったが、その手ごたえに違和感を覚える。


「(気に入らないっす)」


 ゴブリンは亜種だろうが、臆病なものだ。どんなに進化しても種としての特徴は、その醜悪さに尽きると認識されているし、レクサスもそう思っている。たとえばロードと呼ばれる統括種すら、他人のために動くような献身性を示すことは絶対なく、それは恐怖と暴力による支配にすぎない。

 だがこの漆黒のゴブリンたちは、最初からレクサスを仕留めるというよりは、なんとかその動きを止めようと行動しているように見える。事実、壁を掘り進んで奇襲をしてきた個体は、レクサスの裏をかいて攻撃するのではなく、最初からその身にレクサスの剣をめり込ませ、その行動を制限すべく飛びかかってきた。

 そうして、漆黒のゴブリンは笑った。彼らにはありえない、自己犠牲の精神を示して。


「ギェア!」


 その途端、ゴブリンが叫んだ。そして今まで一つの穴に対して一体ずつしか出てこなかったはずの穴から、もう一体音もなくゴブリンが飛びおりてきた。

 光すら吸い込みそうな漆黒のダガーを携え飛び降りてきたその個体は、気配も音もなくレクサスの背後に迫る。

 レクサスの背中から心臓を貫くべく差し出されたその刃に、レクサスが気付いたわけではない。ただ「なんとなく」、レクサスはゴブリンの刃を奪うと、見ることすらなく背中に斬撃を繰り出した。その動きに意表を突かれ、さすがの漆黒のゴブリンのリーダー、サックモンドも身をよじって首への致命傷を交わすのが精一杯だった。


「あっぶねぇ」


 何かあるだろうとは思っていた。そして、自分ならそうするかもしれないと思っていた。だから、自分の剣の自由がきかなくなった瞬間、反射的に背後を攻撃した。敵にそれなりのダメージを負わせたのは、偶然に過ぎない。

 レクサスは首から噴き出す血の量を冷静に確認する漆黒のゴブリンの様子を見て、嫌な奴だと感じた。ヴァルナを生かして利用する悪知恵、部下をここまで統率するカリスマ、そして完全に気配を断って奇襲する技量、その鋭い動きと何より冷静にこちらを観察するその目つき。その強さよりも、精神性が厄介な奴だと感じたのだ。


「大物っすね・・・暗殺者アサシン種とでも呼ぶっすか? いや、それにしても」


 ここで絶対に仕留めなければならない、と感じた。強くとも、馬鹿正直な今回の面子では隙を突かれかねないと思う。特にルイやヴァルサスは、「卑怯」を込みで戦えない。ヴァルサスは卑怯を叩き潰すだけの強さがあるが、ルイと自分が組まされているのはそういう理由だとレクサスは理解している。ベッツやヴァルナがいない今の面子では、この敵に対応できるのは自分だけだとレクサスは直感する。

 そして奇襲が失敗したことでサックモンドもレクサスの脅威を感じたのか、少しだけ目を意外そうに見開き、次の瞬間には首を自らかき切っていた。


「・・・は?」


 その意外な行動にレクサスが目を丸くしたが、今度は見る間にサックモンドの体が変形を始め、縮んでいく。そしてより殺気と魔力が充実したかと思うと、体に巻き付けていたナイフの鞘を固定する紐を一瞬で搾り上げ、今度は2本構えに変更した。

 レクサスはその意図することに気付くと、盛大に舌打ちした。


「まさか、その姿になるために自ら命を一度絶ったんすか? おまえ、嫌な奴だよ。本当にさぁ!」


 たまに一度倒した後、変形したりする魔物は存在する。辺境では心臓を2つ以上持つ魔物とも戦ったことはあるし、今まで討伐した魔王にもそういった個体はいた。ただ、たいていが大きく強く変身する。この漆黒のゴブリンのように、一度死んだ後で小さく変身する相手は見たことがない。もしやるとしたら相手の油断を誘うためか、接近戦を想定して的を小さくするためか。いずれにせよ、最初から人間の相手を想定していることになる。

 精神性がゴブリンと違う。ひょっとしたらゴブリンの姿をしているのもわざとかもしれないと考えると、本当に嫌な敵だとレクサスは舌打ちしたのだ。

 サックモンドが前のめりになったのを見て、レクサスは周囲の状況を再度確認する。出てきたゴブリンは確実に全員殺したが、自分の剣はゴブリンが抱えたまま絶命した。それが有効な一手だと信じていたのかもしれないが、レクサスはそもそも得物にこだわらない。だからさして業物でもない自分の剣を引き抜くのではなく、取りやすそうなゴブリンの短い剣を足でけり上げ、瞬間的に二刀とする。

 対するサックモンドはさらに前傾姿勢となり、地を這うように突撃してきた。


「そりゃ!」


 そのサックモンドにめがけ、転がっていた鎌を蹴飛ばすレクサス。だがサックモンドはそれを気にすることなく、一直線に踏み込んだ。その体にぶつかった鎌が金属音と共に弾けると、レクサスは一瞬でサックモンドの変化を感じ取る。



続く

次回投稿は、9/16(金)6:00です。

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