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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その84~迷宮攻略、グリブル戦②~

一直線に向かってくるメルクリードに向けて、グリブルは最後の力を振り絞って大上段に構えた。筋肉を最大限に隆起させ、骨を斬らせて両断する。その覚悟で、致命傷を受けようともここでメルクリードを相打ち覚悟で仕留める戦法に出たのだ。

 メルクリードはさらにディオダインを加速させる。その速度に合わせてグリブルがハルバードを振り下ろそうとした瞬間、さらにディオダインが加速したかと思うと、カッとメルクリードの槍が光ったように見えた。


「ハッ!?」


 その直後、グリブルは両手の力が抜けていくのを感じた。メルクリードの槍は正確にグリブルの心臓を貫き、致命傷を与えていた。

 槍が光ったようにしか見えなかったメルクリードの一撃は、限界まで隆起させた筋肉の鎧を貫き、相打ちすら許さなかったのだ。


閃光槍ブリューナク、と周囲は呼んでいた一撃だ。まるで槍が光ったようにしか見えないとさ。槍の間合いを勘違いさせたり、馬を直前で何段階か加速させるなどのコツはあるが、完全な再現は俺もできん。本来のオーダインの一撃はこれより速く、食らえば上半身が丸ごと残らんほどの威力があった。すまぬな、紛い物で」

「・・・いや、見事な一撃。俺の、負けだ」


 潔く膝をついて敗北を認めるグリブルだが、メルクリードの槍を右手で掴むと、息も粗く体が上気し始める。メルクリードは異変を感じて槍を引き抜こうとしたが、槍がぴくりとも動かない。元々、膂力には大幅な差があるのだ。

 グリブルが胸を貫かれたまま、一歩立ち上がった。


「ここから先は、工房を預かる魔王の一体として、お相手いたそう。こちらも必死なのでな」

「謝るようなことは何もない。元よりここは戦場。いかなる手段を用いても、生き残った者が勝者だ」

「矜持がある。正々堂々戦いたいという、戦士としての矜持が。だが父クベレーの命令は、それに勝る!」


 グリブルのからだがさらに巨大化し始めた。体躯は倍ほどに、足は逞しく、太く、そして毛皮は分厚く。体はさらに黒光りするように逞しくなり、体からは武器が生えてきた。

 そして同時に骨が体から突き出たと思えば、全身鎧へと変形した。その様相は、まさに重騎兵。急所を全て守るように、骨は変形してグリブルの体を覆っていた。


「ほう、金属製の魔術か」

「ここまでするのは、我が兄弟との全力戦い以来だ。尊敬するぞ、赤騎士メルクリード!」

「そうか。俺は別に何とも思わん」

「ならば、我が名を記憶に刻んでから死ぬが良い!」


 メルクリードが槍を回転させて無理矢理引き抜くと、グリブルが骨を変形させて戦斧に変形させ、それを同時に振り回す前に、7度。その体を突いた反動でディオダインごと飛びずさる。

 あえて骨の鎧の上からも突いてみたメルクリードだが、先ほどの手ごたえとはまるで違っていた。


「ち、硬いな」

「歯や骨は、下手をすると鋼鉄よりもよほど硬いそうだ。人間でそうなら、魔王ならいかほどだろうな? 俺はダンディーのことは好きではないが、奴の言う通り骨の鍛錬も怠ってはいないぞ!」

「知らんよ、そんなことは!」


 メルクリードが槍を振るい続ける。技量の差は歴然。メルクリードの槍は面白いようにグリブルを圧倒し、グリブルの攻撃はかすりもしない。

 だがグリブルはそれでもかまわぬとばかりに、全力で両手の戦斧を振るい続けた。巨体で振るわれる手斧は、人間なら軽く両断するだろう。それが常に全力で振るわれ続けるのだ。ディオダインの体が流れるほどの風圧が、部屋中に吹き荒れる。

 メルクリードは地面に投げていたたいまつに向けて槍を振るうと、まるで炎を拾い上げるように槍先に火をつけた。どうやらグリブルを切り刻んだせいで槍に油がついたのか、槍先から火が消えず燃え続けている。

 ヒカリグサで視界を確保されていた洞窟内だが、一層明るくなった室内でメルクリードが不敵に笑う。


「魔法は使えんのでな。少々小細工をさせてもらおう」

「そんな炎がなんだと言うのだ!」

「熱い戦いが望みなのだろう? 望み通り熱くしてやる」


 メルクリードが槍を振るう。炎が先端についたことで軌道はグリブルにも見えるようになったが、それこそ炎の鳥が舞うように美しかった。メルクリードの槍が一閃されるたびに地面には炎が灯り、グリブルの流された血が燃えているのか、地面には徐々に炎が撒き散らされ、まるで炎の海で戦っているかのような様相を呈し始めていた。

 そしてメルクリードは槍で地面をわざと傷つけるようにして、炎を広げているかのようだった。その行為の意味を理解していなかったグリブルだが、その槍が骨の鎧を一部溶かしたことに気付くと、グリブルはメルクリードの意図に気付いてはっとした。


「まさか――摩擦で熱しているのか?」

「ご名答。いかに硬かろうが、金属ならば熱に弱かろう」

「ならばその槍とて崩れるのが道理だろうが! その槍、いったい何でできているのだ?」

「槍は俺の体の一部のようなものだ。熱如きで決して崩れることはない。俺の槍を砕きたければ、太陽でも持ってくるのだな」

「戯言を!」


 だがメルクリードの槍は、もはや尋常ではない熱を帯びていた。一合ごとに炎が飛び散り、その炎が岩肌に当たると、ジュッと音を立てて燃えた。岩が一瞬で熱させる温度に、尽きたはずのグリブルの汗が再度噴き出始めた。

 槍と戦斧でつばぜり合いをすると、グリブルの手がみるみるうちに熱くなる。


「そんな、馬鹿な!」

「馬鹿なことだが、事実だ。燃えるがよい、勇敢だが愚直な猛牛よ」


 今度はメルクリードは高速の斬撃で、グリブルをなで斬りにした。都合5度、その体を両断する。回転する炎の槍は炎の渦のようになり、最後はグリブルを炎の中に閉じ込めた。


「この技は大回転――だったか。もう忘れてしまったが、奴は技の名前をつけるのが嫌いだったな。槍は槍という単純な考えが好きだった。グリブル、だったか。俺が敵でなければ、ブラックホークの一人くらいは首を獲ったかもしれんな。俺の相性が、お前にとって最悪だった」


 メルクリードは彼なりに敬意を表しながらその場を去ろうとして、突然背後から強烈な攻撃を受けた。

 炎に包まれ姿を崩しかけたグリブルが再度立ち上がり、今まで以上の膂力と速度でもって攻撃してくるではないか。



続く

次回投稿は、9/10(土)6:00です。

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