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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2406/2685

開戦、その80~迷宮攻略、レディ戦①~

 ここで使わなければ苦戦は必死。だが、使えばこの後の探索に支障がでる可能性がある。この迷宮の攻略は、ローマンズランド軍属だった自分の責務ではないのか。そしてレクサスのフォローもしなければ。この後にさらに強敵が控えていたら。様々な考えがルイの頭の中を巡る。


「アルフィリースならどうするか・・・」


 こういう時、剣士としては互角でも、人間として発想と視点が違うアルフィリースが羨ましく思える。ルイはあそこまで柔軟な発想はできない。歩んできた人生が違うといえばそれまでだが、近視眼的な物の見方が、今日の状況を招いたのではないのか。

 後悔はない。だが本当に、あの時気に入らない上官を叩きのめすことしか、やれることはなかったのかと今になって考える。アンネクローゼへの責任や、ミラのことも考えれば安直な軍からの出奔が良い結果をもたらしたとは到底思えない。

 視野を広く持とう、と思う。敵の間合いは長く、攻撃は死角から飛んで来る。だから他の魔獣も対処できないし、巻き込まれて次々と数を減らしている。そのおかげか、他の魔獣の攻撃をさほど気にしなくてもよいのだ。

 ルイは一歩引く。それは今までに経験のない行動で、それだけで周囲の様子がよく見えた。一度通路に撤退した運送屋部隊を守るかのように、イアンとメアン、それにラグウェイが敵を追い払っている。ヴァルサスは良く見れば、敵の弱い所を的確について、もっとも効果的に暴れている。


「なんだ、意外と視野が広いんだな」


 ヴァルサスの二つ名は狂獣だが、それが本質だとしても、意図的に狂うことができることもルイは知っている。それ以外の場面では、冷静に戦況を見ながら戦いを展開することがほとんどだ。つまり、今は冷静なわけだ。

 ヴァルサスの戦い方を真似る。後方にあるままの敵の胴体が弱点だとして、この状況では飛び込むことはできない。自分に打てる最善手は――


「ヴァルサス、手伝え!」


 ヴァルサスの戦い方を見て、防衛に余裕があると判断したルイ。ならばヴァルサスを呼んで、一気に決着をつける。そう判断したことがよかったのか、ヴァルサスは呼ばれるなり一瞬で魔王たちを数体斬り伏せて飛んできた。


「良い判断だ。あのぐにゃぐにゃした奴をやるか」

「最悪呪氷剣を使いたいが、可能なら温存したい。それに敵のどの部分が弱点かわからん。使っても、尻尾切りされたら無駄になるからな」

「なるほど。イアンとメアンの見立てでは、奴の特性は蜘蛛、不定形、スネークハンズなどの複合体だそうだ。どんな性質を隠しているかわからん以上、単純に押し通るのがいいだろう」

「それが難しいから困っている」

「そうか。ならば俺がやろう。一本だけ手の攻撃を逸らしてくれ」

「う、うん?」


 ルイの返事を待たずして、ヴァルサスが剣を構えると無造作に足を出した。明らかな殺気でレディを挑発すると、レディが反応して三方から攻撃を繰り出す。

 ルイはそのうちの左手の攻撃に、ぶつかるようにして軌道を逸らす。ヴァルサスはルイを信用しきっているのか、そちらには目もくれず、右手の攻撃を紙一重で逸らすと、向かってきた頭部に向けて思い切り剣を振り下ろした。


「ぬん!」


 レディもその剣を歯で受け止めようとした、ヴァルサスの剣は歯ごとレディの頭部を粉砕し、横に斬り裂いた。悲鳴を上げて下がろうとする首の収縮より速くヴァルサスが飛び込むと、その顔面を十字になるように叩き斬る。


「ぎゃばばば!」

「そ、そんな簡単に」


 ルイではどうやっても傷つかなかったレディの頭部が、あっさりと十字に斬り裂かれた。ヴァルサスの剣は実践で敵の血によって鍛えられた魔剣にも等しい産物だが、それでもああまであっさりと切断できるものかとルイは訝しむ。

 だが頭が落とされようが、レディは動いた。一瞬動きを止めていた両腕が素早く動くと、ヴァルサスを挟んで潰そうとし、そしてものの見事に切断されて失敗した。ヴァルサスの剣速は、レディの攻撃をゆうに上回った。


「攻撃を見せすぎたな。単調だぞ」


 どうやらルイとの戦いを、ヴァルサスはじっくりと観察していたらしい。ただでさえ超人的に強いくせに、食えない男だとルイは呆れた。だから団長のことが苦手なのだ。たまには油断したり、至らないところを見せてほしいと思う。

 ルイは周囲の様子を確認しながら、ヴァルサスに駆け寄った。強敵を退けることができた自分の判断は、間違っていないと確信できた。自分の力だけでなく、他に頼れる仲間がいるのだ。自分の無用な誇りなど、実践において不要だとようやく飲み込めるようになって成長を実感した瞬間だった。

 だがヴァルサスの表情がまだ硬いことに気付くと、ルイは動きを止めた。


「まさか、やってないのか?」

「どう考えてもそうだろう」


 ヴァルサスが剣で指した先には、頭を、腕を新しく生やすレディがいた。その腕は片方が紅蓮に燃え、もう片方は白く稲光っていた。そして新しく現れた頭部は――より歓喜の表情を浮かべ、口元が凶悪に歪んでいたのだった。



続く

次回投稿は、9/2(金)7:00です。

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