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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その62~消耗戦⑰~

「じゃあ、奴らを押し返しつつ味方を同時に鼓舞する方法が必要だな?」

「そんな方法があるの?」

「あるさ。丁度単純作業ばかりで飽きてきていたところだ。カトライア、一枚噛むか?」


 話を振られたカトライアは少し悩まし気な表情をしたが、ドードーの言わんとしていることはわかっているのか、すぐに同意した。


「そうね・・・そういうことから一番隊アフロディーテと二番隊アテナから精鋭を出しましょうか。露払いはそちらで?」

「おうよ。俺を始めとした隊長と副隊長でやる」

「では残り物を食い散らかすとしましょう。合同出撃は久しぶりね?」

「そうだな。ちょっとえげつねぇ戦い方をするから、引くなよ?」


 そう言ってドードーは豪快に、カトライアは妖艶に不敵にアルフィリースに向けて笑って見せたのだった。


***


「門を開けぇ!」


 こうと決めたらドードーの動きは速い。怒鳴るような大声で隊長以上に出撃を呼びかけると、配下たちが彼の装備一式を持って走ってくる。その総勢、30名。それだけの人数がいないと持ってこれない重装備というのもどうかと思うが、それらを全て装備して戦えるドードーは完全に怪物だ。

 唖然とするアルフィリースの目の前で獣皮でできた肌着を纏い、その上に鎧を着込むと、ドードーは鎧の大半をあっという間に装着し、武器には合わせて使うとその巨躯すら隠せそうなタワーシールドを二枚選んだ。その様相は、さながら動く城塞だ。

 見れば、多くの隊長も同じような鎧を着こんでいる。武器はそれぞれ様々で、大剣、大槌、戦斧など様々だが、共通するのはそれら全てが人間を簡単に一刀両断できそうなほどに巨大なことだ。

 その中で、先頭に近い息子がドードーの装備を見て疑問を投げかけた。


「親父、他の装備は使わないのか?」

「いらねぇよ。ちょっと木偶の坊を撫でるだけだ。本気の装備がいるかよ」

「木偶の坊を撫でるにしては、ちょいと派手な面子じゃないのかい」

「こういうのは景気づけが大事なんだよ。それにお前たちも暴れ足りないだろうが。それとも、部下に譲るか?」

「ははっ、冗談じゃねぇや。もったいなさ過ぎるだろ、親父」


 凶暴に笑う隊長の顔は、面体で隠れてしまう。ドードーも口元だけが出る兜を被ると、笑いながら門から出て行こうとする。アルフィリースは彼らの戦い方を見届けようと、砦の上に向かった。既に目視できる距離に、合従軍の影は迫っている。

 ドードーが谷に吹き荒ぶ暴風に負けない大声で吠えた。それだけで雪崩が起きそうなほどの声量だ。


「俺たちはぁ! 全て等しく家族のためぇ! 戦う者なりぃ!」

「「「ウーラー‼」」」

「立ち塞がる敵はぁ! 一体残らず粉砕しろぉ!」

「「「ウーハー‼」」」

「17人の妻とぉ! 65人の子どものためにぃ! 全員突撃ぃ!」


 その言葉と共にドードーが猛然と走り出し、その後に数十名の隊長が続いたが、「妻は19人だろ、親父!」「子どもは68人だ!」「アタイのとこの母親忘れてねぇか!?」などの不穏な言動がそこかしこから上がっていた。

 その表情は凶暴ながらもどこかしら楽しそうで、全員がドードーに対する絶対的な信頼感と、そして団長として好かれていることが一目でわかった。

 そのドードーは脚力も大したもので、真っ先の敵の先陣に到達した。


「ハッハハハァ! ぶっ飛ばしてや・・・?」


 ドードーはまさに文字通り飛びかかろうとして、見事に石につまづいた。そのまま一部坂になった階段を転げ落ちるようにして、そのまま敵の先頭に突っ込むと、合従軍の先陣がそのまま粉砕された。

 ドードーは巨大な雪玉のようになりながら、なおも坂を下っていく。


「親父、無茶苦茶だ!」

「だが親父らしいな」

「破城槌と同じようなものだ、前線は総崩れさ」

「討ち漏らしまみれじゃねぇか!」

「しょうがねぇ、俺らでケツ拭いてやるか」

「突っ込めぇ! 親父に後れを取るなぁ!」


 坂と階段は広いところで横幅20名ほど、狭いと5名程度まで狭くなる。淵には申し訳程度に転落防止用の柵があるが、ほぼ吹き荒ぶ断崖絶壁。そこに行軍してくる合従軍の人形兵は目視で数千程度はいるだろうが、対するミュラーの鉄鋼兵はわずか数十名。だがその数十名が異様なほどに強かった。

 分厚い全身鎧に身を包んだ戦士たちは、武器を打ち合うのではなく、そのまま体当たりをかました。そして振り払うようして、次々と人形兵を外に押し出し、崖下に突き落としていく。

彼らの分厚い鎧には普通の槍や剣、まして弓など通りはせず、まして彼らと打ち合えるような武力のある兵士は一体もいなかった。


「うはははは! 無人の野を行くがごとくだな!」

「油断するなよ、兄者たち。それでも数は充分な暴力だ」


 一際小さなゼホが、一際大きな大槌を振るって敵兵をまとめて十人以上、崖下に払い落とした。その様子を砦の上から見て、アルフィリースは唸る。


「凄い突破力だわ」

「ミュラーの鉄鋼兵は長く戦場で稼ぐために、相手を叩き潰すことは滅多にしません。むしろ集団での専守防衛を得意とし、戦争を引き分けに持ち込ませることが上手い。紛争地帯が統一されない理由の一つと言われています」


 カトライアが少し弱まった風でたなびく前髪を、直しながらアルフィリースに説明する。アルフィリースはそれを聞いて唸った。


「紛争地帯は通ったことがあるけど、余計なところに寄らなかったから出会わなかったのかしら」

「常に戦地に彼らはいますからね。ドードーが止まってからが見ものですが、この勢いなら、砦5つ分ほどなら押し返せそうね」

「数十人でそこまでやるの?」

「開けた場所に行かない限り、逆落とす彼らを止めるのは至難の技でしょう。さて、そろそろ我らも出ましょうか」


 カトライアがかん、と槍で地面を鳴らすと、彼女たちは一斉に天馬に騎乗して出撃のために前進を始めた。その統率された動きと一糸乱れぬ様子、そして容姿も相まって、まるで精霊の行進のようだ。


「壮麗ね」

「私たちの戦い方を見れば、考えが変わるかも。私たちが戦場で何て呼ばれるかご存じ?」

「? 知らないわ」

「戦場のハイエナ――死肉漁りと呼ばれるのよ」


 カトライアは言葉に似合わぬ美しい笑みをこぼし、その横でヴェルフラがふっと苦笑していた。



続く

次回投稿は、7/28(木)9:00です。

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