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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その58~消耗戦⑬~

「来るなら来なさい・・・!」


 丸薬の効果でリサの体感時間が十数倍にも引き延ばされる。周囲の喧騒はただのごうごうとした耳鳴りのような声に代わり、飛び去る矢すら掴めそうなほど集中力が高まる。

 以前使った時よりも体に丸薬の効果が馴染んでいると感じたが、その中でも鼓動が普通のリズムで聞こえるということは、どのくらいまずいことかは想像に易かった。


「待ちの方がきつそうですね・・・え?」


 止まって見えるほどゆっくりと動く人垣の間を、走って抜けてくるルィーヒの姿が現れた。周囲の人間は彼が通り抜けてからようやく反応する始末で、守りもなにもあったものではない。

 今の体感時間でこれなら、相手の速度に普通の人間は誰もついて行けまい。危機を感じたリサが仕込み杖を抜いて受けてたとうとして、その肩を握るアルフィリースの手に力が入ったことを感じた。


「(アルフィも反応してる?)」


 仕込み杖で反撃仕掛けたリサの手が止まり、仕込み杖を抜くことなくそのままルィーヒの攻撃を受けることした。それでも自分が受けきれるかどうかが不安だったが、ルィーヒの攻撃は思ったよりも軽く、その体に闇色の蛇が絡みついて動きを制限しているのが見えた。

 ルィーヒの突進よりも、リサのセンサー能力を共有しつつ、ラーナが張った魔術の罠を補助するアルフィリースたちの連携が上回ったのだ。


「フォスティナァア!」

「応ッ!」


 闇の蛇を外そうともがくルィーヒに向けて、フォスティナの剣が閃く。そしてフォスティナの剣が一閃されると、ルィーヒの左腕が宙に舞った。その隙間でできた空間を利用して、ルィーヒが蛇から脱出する。

 一度崩れながら距離をとったルィーヒに向けて、フォスティナが油断なく構え直した。リサがその様子を見て、歓喜の声を上げる。


「やった!」

「まだだっ!」


 否定するのはフォスティナ。その表情にはまったく油断も安心もない。


「左腕を犠牲にして逃げられた! まだ諦めてないぞ!」

「トラン、ケル・・・私に、力を」


 助力を求める言葉がこの場面で出るとは、ルィーヒにいかなる命令が下したものか。そんな機能はもとより、感傷などないはずの戦闘用人形であるはずのルィーヒは、自分で自分の言葉に一番戸惑っていた。

 だがルィーヒは自ら無意識に口走った言葉で、逆にひらめきを得たのか。魔術を駆使して自らにしかできないことを試し始めていた。


「腕が・・・再生する?」

「それどころか、増えるだと?」


 ルィーヒの飛んだ左腕が再生し、そしてさらに背中に長くて太い腕が生えた。金の魔術を応用するなら、人形であれば理論上は不可能ではない。事実、そのような形態を持つ人形がいることも事実。

 だがルィーヒにそんな発想はなかったし、修理役の人形ならまだしも、戦闘用の自分にこんな機能が備わっているとはルィーヒ自身が知る由もない。そして、それがまるでトランケルのような腕であることも、無意識だった。それがまるでトランケルが力を貸してくれているように感じられることをこそ感傷と呼ぶことを、ルィーヒは知らない。


「ルゥオオオオ!」

「アルフィリース、もたせて30呼吸だ。次の手を考えろ!」


 フォスティナが変身したルィーヒの能力を推定し、持ちこたえられる時間を提示した。もともと身重のフォスティナは、持久戦は不可能なのだ。だからここぞという時だけ、とどめの一撃を引き受けるつもりだった。予想外なのは、相手の力量と執念だ。

 人形のくせに、まるで死を覚悟した人間のような執念を感じる。このまま戦いが長引いてもあの相手の消耗具合ではいずれ勝つだろうが、押し寄せて来る相手の軍勢と、そしてシシューシカの怪我も気になる。致命傷ではなさそうだが、重傷には違いあるまい。

 剣技が異常に鋭く、敏捷性に優れ、執念深く魔術も複数系統使う。こんな人間の魔術剣士以上の能力を持ち、なおかつ怒れる相手をどうやって倒せと――


「待って。人間みたい、か――」

「何か思いつきましたか、性悪デカ女!」

「ええ、性悪くやらせていただくわ。ラーナ、『アレ』できる?」

「アレ・・・? やってみなくてはわかりませんが」


 アルフィリースの言葉の意味は理解したが、まさかそんなことをやるのかとラーナでさえ半信半疑だ。だがやってみるだけの価値はある。



続く

次回投稿は、7/20(水)10:00です。

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