開戦、その57~消耗戦⑫~
「かかったぞ!」
「やったか!?」
イェーガーとローマンズランドの傭兵たちが目論見通りに罠にかかった敵の姿を確認すべく近寄ろうとして、監視役のセンサーが叫び声を上げた。
「馬鹿っ! 予定以外の行動をするな、近寄るのは早い!」
センサーの忠告よりも、落ちた天井の中から飛んで来る剣筋の方が速い。近寄った兵士はセンサーの方を振り返った姿勢のまま、硬直したような恰好でバラバラになった。
それを見た何名かの兵士や傭兵は義憤にかられて武器を手に突撃したが、イェーガーに所属して時間が経っている者は、戦うという選択肢など最初からないかのように全力で後退した。
そして突撃した者は、落ちた天井を押しのけるようにして出てきたルィーヒと一合も斬り合うことなく細切れにされ、逃げた者は撤退用の罠を作動させることで、通路を潰して逃げおおせた。
その練度の差に、舌打ちするではなく内心で感嘆するルィーヒ。
「随分と練度に差がある・・・そして練度の高い兵士を狩るのは楽ではあるまい。これが良く鍛えられた精兵というものか」
人形兵は忠実に命令を聞くため、指揮官が優秀であれば死をも恐れぬ優秀な兵士となるが、応用はきかず、また複雑な命令を実行できるほど質の高い兵士となると、実はさほど多くない。
おそらくこの氷の迷宮は何重もの罠で構成されていて、かなり細かい仕掛けと対処が多数ある。それらを作動させ、相手を罠にかけつつ自分たちの安全を確保するためには、人形では命令が追いつくまい。最低限、自分たちに近い精度の人形でなければ。
ルィーヒはここで自らの敗北を悟った。どうあれ、自分はここで死ぬだろうと。トランケルの死に際はどうであったのか、死ぬ間際に何かを思ったのか。そんな余計な思考が、突如として去来した。
「人形は何も残せぬ・・・いかほど人の営みを真似ようとも、その生命が次につながるわけではない。だがしかし、せめて爪痕は刻んでくれようぞ」
ルィーヒは二剣を一度鞘に収めると、自らを動かす核に向けて意識を集中し始めた。そのことにいち早く気付いたのは、11番目の砦にアルフィリースと共に詰めているリサだった。
「アルフィ、相手が腹をくくりましたよ」
「どういうこと?」
「強引に突破してきます。シシューシカ、フェンナ。一斉射の後、緊急で魔術を準備!」
リサはアルフィリースの命令を待たずして、エルフとシーカーに指示した。同時に、氷の砦が中から爆発するようにして崩壊する。
崩壊する砦に巻き上げられる雪煙が、剣風に寄って切り分けられる。中から出現したルィーヒは、既に腕が千切れかけていた。自らの体に無数の切り傷を負ってなお、しっかりとした足取りで前に進む剣士を見て、ほとんどの者は武器を構えながら背筋が凍る思いをした。
きちんと10番目の砦を突破すれば、出口は3つ。それらを全て狙い打てるように、11番目の砦はわざと接近して造ってあるとはいえ、敵との距離は50歩以上。それが意味のないものだと悟れるくらいには、ルィーヒの殺気は圧倒的。
「フェンナ殿!」
「!」
シシューシカとフェンナが同時に矢を放ち、それにつられるようにして一斉に矢が放たれる。まるで壁のように迫る矢をあらかた叩き落とすルィーヒだが、さすがに無傷と言うわけにはいかない。
それに気付いたシーカーとエルフが二射、三射と放ったが、ルィーヒはハリネズミのようになりながらも前進を止めようとしなかった。
「効いてないのか?」
「足を狙え! 動きを止めろ!」
「馬鹿、違います!」
エルフの弓隊の一部がルィーヒの動きを止めようと、足元へ狙いを変更し、リサが怒鳴った。急所だけを守っているからこそ、他の矢が当たるし、相手も矢を打ち払いながら前進しているのだ。
それを打ち払う必要がないとわかれば。案の定ルィーヒの動きが代わり、腿が突如として盛り上がったかと思うと彼は前に跳んだ。
「!」
《土壁!》
フェンナが咄嗟に魔術を展開する。ただの土壁ではなく、相手に向けて杭を向けるような、攻防一体の魔術。それすらも一撃で砕き襲い掛かるルィーヒの剣が、シシューシカの顔面を斬り裂いた。
「アアッ!?」
「シシューシカ!」
顔面を押さえてうずくまるシシューシカに追撃をするのは目もくれず、シシューシカを助けようと隊列を崩したエルフの弓隊を盾にするように動くと、地面の雪を打ち払い雪煙を巻き上げ、一度ルィーヒの殺気が消えた。
居場所を瞬間ほとんどの者が見失うと同時に、アルフィリースがリサの肩に手を置き、ラーナは地面に伏せて魔術を展開し、リサは丸薬を懐から取り出して噛み砕く。
続く
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