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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その53~消耗戦⑧~

 フェンナの矢がトランケルの右手首を射貫いた。思わずトランケルは大剣を取り落としほっとしたのもつかの間。トランケルは自ら右腕を食いちぎると、その下には仕込み剣があった。


「野郎、人間じゃないことを隠しもしないかよ!」


 ロゼッタが投げつけた大剣を大跳躍でかわし、頭上から襲いかかるトランケル。のろのろと動こうとするアルフィリースを押さえつけ、その右腕の仕込み剣がアルフィリースの心臓を貫いたと思われた瞬間、手ごたえが違うことに初めて気付いた。

 そう、アルフィリースはゆっくり動いてはいたのだ。だがその行動があまりにゆっくりだったことにまで、なんら考えが及んでいなかった。それが精巧に造られ、操作された氷像などとは、もちろん微塵も考えていない。

 仕込み剣を突き立てた瞬間、氷像は弾けたように氷の槍となってトランケルを貫いた。串刺しにされながらも、なおもそこから逃れようともがくトランケルに向けて、氷像の影からぬるりと姿を現したラーナがさらに闇の魔術でトランケルを抑え込みながら、残酷な宣告をした。


「フォスティナ、とどめを」

「成敗!」


 雪原でも全く速度の衰えぬ女勇者のフォスティナの一撃が、トランケルの首を刎ねた。宙に舞った首に向けてフェンナが矢を放ち、確実にとどめを刺す。

 地面に落ちたトランケルの首は口惜しそうに怒りの表情を滲ませた後、不敵に笑って塵へと還っていった。いずれ融け行く運命の雪原にさえ残りそうな、嫌な笑いを残して。

 今度こそ敵が死んだことを確認すると、イェーガーの仲間もローマンズランドの兵士たちも、安堵のため息を漏らした。


「なんて執念。あの爆発でも生き残ってこれだけ損害を与えるなんて」

「これがあと何体いるのでしょうか?」

「100体とかいるのなら、やめてほしいわね」

「3体、かしらね」


 本物のアルフィリースが姿を現し、説明した。会議場でもシェーンセレノの護衛は、もっともよく見た顔と腕の立つ者、重用しているものを総合して、おそらくはこの強さの個体は3体と想定した。これはアルマスからの情報も合わせて判断しているので、まず間違いないだろうと。

 アルフィリースが説明する間にも砦の倒壊に巻き込まれた兵士の救助作業や、先ほどトランケルに殺された者の死体の回収などをローマンズランドの兵士が行っているのを見て、アルフィリースの表情は暗く沈んでいた。


「ここからは、厳しい戦いになるわ」

「そもそも厳しい戦いでは?」

「いいえ、そうではなくて。時間稼ぎの繰り返しの中で、必ず死者がかさむ。対する相手は人形の軍隊。これでどれほど相手を倒しても、さして死体が増えていない理由がわかってきた。相手にまっとうな人間の兵士は、もう既にほとんどいない可能性すらある。これでは戦死者も無駄死によ。軍人の名誉も何もあったものではないわ」

「あまり説明したくはない事態ですね。そうなると、敵の兵力はいかほどでしょうか? 終わりが見えればやる気も出ようというものですが」

「それは不明なのよ。10万くらいなら守り切る自信があったわ。でも、最近の攻め寄せ方とこの消耗の仕方。もし数十万規模となると・・・」


 アルフィリースはその先を具体的に口にはしない。推測に過ぎないことだし、サイレンスの人形兵士がどれほどいようかなど数えようもないのだ。

 そして3体とは言い切ったが、もしこの強さの人形が各地からまだ集結するのなら、アルフィリース自身が考え出した過剰ともいえる防衛策すら打ち破られる可能性がある。そうなれば、この閉鎖された北の大地からの脱出は限りなく困難になるだろう。

 何を残して、何を切り捨てるべきか決断する時がくるかもしれない。これが戦争か、とアルフィリースは今更ながら実感しつつあった。


***


 一方で、シェーンセレノの天幕は荒れていた。シェーンセレノはグラスや書簡を手当たり次第に投げつけ引き裂くと、大きく息を乱して肩で息をしていた。この光景をアルフィリースが見ていたら、多少溜飲は下がったかもしれない。

 シェーンセレノは先陣が二の門の倒壊のせいで全滅したことを目の当たりにすると、まずは瓦礫の撤去と安全の確保を命じて、自身は一度天幕に引きこもった。

 この冷気である。いつまでも外にいることが不可能なのは諸侯とてわかってはいるから違和感はなかったが、護衛の2体だけはシェーンセレノの変調を感じ取っていた。


「どうした、シェーンセレノ」

「どうしたもこうしたもないわ! 人間如きが私の策を逆手に取ったのよ! おまけにトランケルもやられた! 一刻も経たず死にやがって、あの出来損ないが!」


 口汚く同種の個体をなじられた2体の護衛だが、その表情が変わることはない。彼らは仲間の死を悼む機能など持ち合わせていないし、その必要も感じないからだ。

 だから役割を果たせなかったと聞いて、たしかに役立たずではあったと同意する。違うのは、それすらも客観的事実として受け止め、次の打開策を分析しようとしていることか。


「たしかに出来損ないだな。で、次はどうする?」

「ルィーヒ、貴様が行け。二万の軍団を預けるわ。奴らの後方の階段を登って三の門を落として来い! それができるまで帰ってくるな!」


 シェーンセレノは長髪で眉目秀麗の剣士、ルィーヒに命令した。ルィーヒはしばし目を閉じた後にその命令に頷いたが、その任務の達成に関しては冷静に検討していた。



続く

次回投稿は、7/10(日)10:00です。通常ペースに戻ります。

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