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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その52~消耗戦⑦~

 呆然とするローマンズランドの兵士に向けて、一番早く叫んだのはロゼッタだった。


「なにぼーっとしてやがる! 敵襲だぁー!」

「はっ!?」


 兵士が剣を抜き盾を構える前に、さらに3つの首が宙を舞った。そして構えた兵士たちの腕が、頭が、足がいくつも削げた。密集に飛び込んできたトランケルは当たると幸いばかりに兵士をなぎ倒し、弱まった吹雪の中に兵士に絶叫と悲鳴、そして赤い花が咲いてゆく。


「野郎っ!」

「落ち着け」


 飛び出しかけたロゼッタを、シーカーのオーリがとどめる。その背後では、フェンナとシシューシカが片手を上げてシーカーとエルフの隊列を整えていた。

 怒りに上気して顔を真っ赤にするロゼッタに冷や水を浴びせるように、冷静なオーリがロゼッタに囁いた。


「乱戦になれば思うつぼだ。奴が突っ込んだのは連射弩級の一つを扱う小隊だ。30も首が飛べば、盾になる人間は残らない」

「あの小隊は見殺しか!?」

「そうだ、奴らは運が悪い。奴らの救援に行けば、さらに人が死ぬ。幸い敵は奴一人だ。盾になる味方がいなくなれば、ただの的だ。これだけの数のシーカーとエルフの一斉射から逃げられると思うか?」


 オーリの言う通り、もう小隊はほとんど全滅している。兵士たちは勇敢に立ち向かおうとした者から順に死んだ。逆に蜘蛛の子を散らすように逃げた何名かのうち、誰を殺すかでトランケルは視線が泳いだせいで、足が一瞬止まった。

 その隙を、エルフもシーカーも見逃さない。


「撃てえっ!」

「射なさい!」


 100名近い弓の達人が一斉に矢を射かけた。連射弩級よりも威力があり、正確無比な矢がトランケルに襲いかかる。槍衾やりぶすまならぬ矢衾とでも言うべき攻撃に、さすがのトランケルも大盾で身を守った。

 イェーガー作の強弓をもってして射抜けない盾を前に、弓矢の達人たちは誰が言いだすわけでもなく、すぐさま対抗策を展開する。速射で釘付けにする射手と、魔術で補強したさらに強い矢を射かける射手に別れ、その場にトランケルを釘付けにした。

 それでもなおトランケルの盾は射抜けず、大盾に身を隠しながらじりじりと前進してくる。そこにフェンナが特注の矢をオーリに渡した。


「使いなさい、オーリ」

「・・・私は人間の知恵はあまり好きではありません。シーカーにあるまじき、姑息な一手です」

「あなたの好みは聞いていない。命令です、オーリ。あなたがやるのです」


 フェンナが自らやってもよかったが、自分に何かあった際や二手に分かれる時はオーリが手勢を率いることもある。その際に連携が崩れるようでは困るのだ。オーリは実にシーカーらしく人間が嫌いだったからこそ、この機会になんとかしたいとも考えていた。

 オーリは瞬間無言で考えるような顔をしたが、フェンナの手からひったくるように矢を受け取ると、それに金の魔術で補強を施して一直線にトランケルに向けて放った。

 鏃をわざと緩め、当たった瞬間に威力がさらに増す仕掛け矢。ゆえに軌道がぶれやすく、この吹雪の中ではまっすぐに射ることすら難しいはずなのに、オーリの矢は躊躇いを振り切るかのように見事に一直線に放たれた。

 そしてトランケルの盾を貫通した瞬間、小規模の爆発をしてトランケルの盾を持っていた左腕を吹き飛ばしたのだ。

 オーリは思う。矢とは所詮相手の命を奪う武器だが、その技を磨くことで相手を苦しませることなく殺すこともできる。年配のシーカーが鳥を撃った時、木にとまった姿勢のままことりと落ちた鳥を見て、まるで眠っているようにしか見えなかった。その技術に感動したことを、いまだ覚えている。だから、オーリはイェーガーが開発したものを否定しているわけではなく、いまだ技の足らぬ自身を恥ずかしいと思っているのだ。


「いまだ、未熟」

「仕留めろ!」


 シシューシカの声よりも早く矢を放つ射手がいる。だが一瞬乱れたその足並みをトランケルは見逃さない。衝撃に仰け反る体を無理矢理抑え込み、矢に貫かれるのも構わず急所だけ隠すようにして前進した。

 そして吹き飛んだはずの左腕を射手たちの方に向けた。フェンナ、オーリがいち早く反応し、フェンナはシシューシカを引き倒した。


「総員、防御!」


 フェンナとオーリ、それに反応の速い者は弓矢を放り出して防御魔術を展開したが、矢を射かける直前だった者たちは、トランケルの左腕の傷口から飛び出した弾によって一斉になぎ倒された。

 ウッコ討伐時の遺跡での戦闘経験と知識があるからこそ反応できたが、左腕からは低い振動音と共に、矢よりも速い何かが高速で放たれていた。

 倒れた仲間の傷口から植物のようなものが生えたのを見て、フェンナが叫ぶ。


「これは、寄生植物?」

「植物の種を打ち出しているのか!?」


 体に入ると致命傷になりうる攻撃に慌ててエルフとシーカーが防御魔術を展開するのを見て、トランケルはその隙に身を翻した。逃げるのではない、アルフィリースの方に向かったのだ。

 青ざめたフェンナが駆け出してトランケルを矢で狙う。



続く

次回投稿は、7/8(金)11:00です。

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