表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2375/2685

開戦、その49~消耗戦④~

予定通りに投稿できない時に増える「いいね」が「頑張れ」に見えてきた……!

「かの女傭兵は、どのようなつもりですかな?」

「知らぬ。ここまでの打ち合わせはしていないし、連絡も本当に取れていない。だが考えていることはわかるかもしれぬ」

「考えとは?」

「彼女は意表を突くのが上手い。トレヴィー殿は実感があるのでは?」

「あぁ、なるほど」


 トレヴィーは、戦で負けた時のことを思い出した。あれほど腹が立ったことはそうないが、同時に最も効果的なことをされたと今では感心するくらいだ。


「人を怒らせるのは、とても上手いかもしれませんな」

「そうだ。つまり、これはシェーンセレノを煽っているのだろう。ならば、その手助けをするのが我々の取るべき策だろうな」

「煽る・・・これは面白い」


 マサンドラスは面白そうに返事をしたが、同時に不思議そうにもしている。


「ですが、あの冷静なシェーンセレノがそれに乗りますかな?」

「実はあのご婦人は、そう冷静でもないかもしれん」

「そうですか? 笑顔以外で表情が変わるところなど、見たこともないような」

「鉄面皮を装うほど、その下には激情が隠れているものよ。ならば、それを引きずりだしてからが本番だろうな。アルフィリースが上手くやるかもしれぬが、指をくわえて見ているだけというのも面白くない」

「ああ、それはわかります。顔色の変わらぬ相手ほど、怒らせてみたくなりますものね」


 トレヴィーの率直な意見に、ドライアンとマサンドラスが互いに顔を見合わせた。トレヴィーの眉をひそめて、困ったような表情になる。


「なんですか? また変なことを言いましたか、私」

「お主な・・・その気持ちもわかるかもしれぬが、いかにも子どものようだぞ」

「ええ? 結構な歳になりましたよ、私!」

「いや、だからこそよいのかもしれぬ。シェーンセレノに読み切らせないためには、トレヴィーの殿のような型破りな発想や精神性が重要かもしれませんな。ではいっそ、子どものように駄々をこねて見ますか?」

「駄々をこねる?」


 マサンドラスの発言の意図がわからず、ドライアンが首を捻る。マサンドラスはさも楽しそうに、指を上げた。


「総攻撃ともなれば、我々も参加しろと言われるでしょう。ですが、こんな戦には正直参加したくありません。ここ最近の攻勢を見ていて、彼らのほとんどがまっとうな人間でないのは明白。おそらくは、我々の軍にも紛れている可能性があります。なので――」

「なので?」

「ここは一つ、鼻をほじりながら放屁でもして、地べたに転がりながら天幕に引きこもり、武器を放り投げて軍務を放棄することといたしましょう。通常ではありえないような行動をとる。さすれば、人形はついてこれますまい。我らの軍にいるおかしな者どもも炙り出せて、一石二鳥。いかがか?」

「「・・・」」


 突拍子もない発言に、トレヴィーとドライアンが今度は顔を見合わせた。そして盛大に笑うと、彼らは意を決したようにシェーンセレノの下へと向かっていった。


***


「いかがいたしますか、シェーンセレノ様」

「・・・今考えているわ」


 シェーンセレノは兵士から報告を受けて、二の門の眼前にまでやってきた。傍には強力な護衛を付けているが、総攻撃をされれば流石にその身は危ういだろう。

 そんな危険を冒したのは、二の門が死んだように静まり返っただけではなく、堅牢な三重の門を何の前触れもなく開け放ったと報告を受けたからだ。この寒さと、際限のない人形兵による攻勢で相手を徐々に疲弊させ、戦意を奪う。それがシェーンセレノの策だった。

 攻勢は順調。こちらも既に2万以上を失ったが、まだこちらには20万以上の人形兵がいる。大陸全土からかき集めれば、さらに集まるだろう。この寒さで敵の防御兵器が劣化しているのは明らかで、その防御に徐々に綻びが出ているのはわかっていた。シェーンセレノの計算では門にとりかかるのがあと7日。そこから3日もあれば門は壊せると踏んでいた。それ以前に、地下坑道が完成するので相手の背後に出ることができる可能性も考えていた。

 人間ならともかく、ドライアン率いる部隊を完全に制御することはできない。構造が同じ人間の人形ならいくらでも精巧に作れるが、獣人の模造品はまだそこまで精巧に製作ができない。また、放っておいてもこちらに心酔する愚か者はさておき、賢い者や統制された軍は付け入るのが難しく、そういった者はマサンドラスとかいう将軍が、ひそかに抱き込んで一つの勢力としてしまった。侮れない老将が隠れていたものだと、シェーンセレノも感心するほどだ。

 多少の予定変更はありつつも、ここまではおおよそ順調なのだ。それが突然、予想以上に順調になってしまった。陥落前になって降伏以外で門を開け放つなど、どんな戦術書にも載っていない。相手が坑道に気付いたとしても、まだまだ打つ手は残っているはずだ。それがこの間合いで何の前触れもなく、二の門を放棄する様な真似をするなど信じられなかった。だからシェーンセレノは直に自分の目で確認をしにきた。

 報告は事実。だが何度考えても、シェーンセレノにアルフィリースの意図はわからない。それはそうだ。自分とて最上級の品質で構成されているとはいえ、所詮は人形なのだから。新しいことを学習することはできても、想定外のことには弱いと言うことは知っている。


「・・・これが、悔しいという感情かしらね」

「は?」

「何でもないわ。それより、どうするかということだけど。罠と分かっていても、行くしかないのでしょうね」


 シェーンセレノは苦い表情で開け放たれた門を睨んだ。横幅は人間5人分ほど。一度に大挙して入ることは困難で、罠があることも間違いないが、果たしてどのような罠があるのか。人形兵は消耗品とはいえ、ただでくれてやるのも癪に障る。



続く

次回投稿は、7/2(土)11:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ