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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その48~消耗戦③~

「や、すまない。相手の建築技術は想定以上ではなかった」

「掘り進める方向については、シェーンセレノも逐一確認をしていた。建築や土木に関しても知識があるようだったし、どのみち誤魔化しはきかなかっただろう」

「あとは相手の指揮能力に期待するしかあるまい。ときにドライアン王、相手のイェーガーとは連絡はとれたのかね」


 マサンドラスの鋭い指摘にも、ドライアンはもう驚かない。戦術眼から人心掌握術まで、まだ人間の社会にこれほどの傑物がいたのかと唸るほどの能力の持ち主。

 ドライアンはそれに気づくと、彼にも忌憚ない意見を述べるようになり、またマサンドラスもそれに応えた。


「いや、無理だな。翼を持つ獣人の部隊ならなんとか登攀できなくはない経路を確保したが、それも雪と寒さで駄目になった。ましてこの吹雪では、翼が凍り付いて跳べぬ」

「ここまで寒くなると、やはり天馬なのだな。飛竜も寒すぎると飛べぬというが、天馬は元々がロックハイヤー大雪原原産だ。高度はともかく、寒さではここの気候をはるかに凌ぐ。ここまでの状況を想定して、ローマンズランドはフリーデリンデ天馬騎士団を雇ったのだろうからな」

「そうなのですか。軍の鬱憤のはけ口とばかり」


 トレヴィーが感心してみせると、ドライアンとマサンドラスがため息をついた。2人の嘆息に、トレヴィーが焦る。


「な、なんですか。何かおかしなことを言いましたか?」

「そなたな・・・や、悲惨な戦になるほど最後の暴走を防ぐのは、どうやって不満を解消させるかが重要になるが」

「女の温かさを否定はせん。だがそれのみを求める軍は、最初から規律に問題があるし、崩壊を前提とした運用だ。肯定するような発言は、関心はせぬな」

「私とてそうですよ。フリーデリンデ天馬騎士団とは依頼を共にしたこともありますし、彼女たちは傭兵として尊敬でき、一目置くに値する戦士です。ですが、ローマンズランドがどのようなつもりでいるかは、また別物だ。我々がローマンズランドを追い詰めるほどに、向こうは悲惨な状況になる。そうなれば、何が起こるかは想像に易いというものだ。まして、イェーガーとて女性の多い傭兵団のはずだ。心配ではないのですか?」


 トレヴィーの発言はやや言い訳めいているようにも聞こえたが、事実ではあった。その点をまさにアルフィリースも心配していたが、ある程度の策は用意していると言っていた。

 ただ、本当に悲惨な戦というものを、この大陸の人間はほとんど誰も経験していない。大戦期の記述にあるような、どちらかが全滅して二度と立ち直れないような戦は知らないのだ。それはドライアンとて、マサンドラスとて同じことだ。

 追い詰められた人間の精神性と残虐性がどのようなものであるのか。できれば知らぬうちにこの戦を終わらせたいと思っている。

 

「当然心配ではある。だからこそ、坑道が完成したあとは、速やかに撤退してくれればそれが一番なのだが」

「あの女傑が退きますか?」

「退きどころを間違えるようなことはないと思うが・・・外が少しざわついているような気がするな」


 ドライアンが天幕の外の喧騒に気付くと、大股で外に向かっていった。同時に、伝令が息を白くして走ってくる。


「申し上げます!」

「慌ただしいな、なんだ」

「それが、二の門の城門が・・・全開になっています!」


 伝令の報告に、我が耳を疑うドライアン。それは後からでてきたマサンドラスもトレヴィーも同じだった。


「・・・3つともか?」

「報告では、3つ全てが全開だそうです」

「敵影は? 外に布陣しているとかはないのか」

「吹雪で門の上までは見えませんが、敵の気配はなさそうです」

「シェーンセレノ殿は?」

「半信半疑ながらも、好機と見て総攻撃の準備を進めています」

「なるほど・・・わかった。俺からもそのように促してこよう」


 ドライアンは支度をすべく一度天幕に戻った。同時にトレヴィーとマサンドラスも戻り、不思議そうにドライアンに質問した。



続く

次回投稿は、6/30(木)11:00です。

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