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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その47~消耗戦②~

 リサはそんなアルフィリースの意図を知っているのか、冷静に続けた。


「ただ、その数が尋常ではない可能性があります。この数日、敵の武器は残れどその死体はほとんど増えていない。サイレンスの人形であれば、活動を停止すれば崩れて遠からず残骸となりますが、それもこの吹雪では霧散するだけでしょう。よって、寄せ手の数は残される武器の数から推定することになりますが」

「この5日間で、どのくらい?」

「討ち取った数はおおよそ2万。推定にしか過ぎずとも、十分に脅威な数では?」

「2万か」


 アルフィリースは感情を表に出さないように呟いたが、動揺はリサには知られていただろう。

 アルフィリースにもわからないこと、想定できないことはある。今回の戦の場合、サイレンスの手勢の数だけはまったく想定ができなかった。ターラムでの一件からサイレンスの手勢がまだまだいるだろうことはわかっていたが、その総数がいかほどなのかはまったく想像が及ばない。

 戦前にとある筋から得た情報では、200人程度の小さな村の住人が忽然として消えたことくらいか。その理由をアルフィリースはサイレンスの人形が暮らす村だったのではないかと結論付けたが、確たる証拠は何もない。ただその村は他の村とそれなりに交易こそあったが、街道からも外れており、誰が何のためにいつ頃作った村なのかはさっぱりわからないということだった。

 限られた時間では、そのような条件に合致する村が各国を通じて最低30は点在することがわかったくらいで、そもそも戸籍を作成する習慣がない国や、統計そのものがいい加減だったりすれば、全く役に立たない情報となる可能性があった。

 もし、サイレンスの人形が数万単位以上で存在するのならば。食料よりも先に、武器等の物資が不足する可能性があった。城壁の上から打てる矢や、投石器を使った攻撃にも限界がある。


「消耗戦、か。気分が悪いわね」

「それも予想していたことでは?」

「いいえ、そういう意味ではないの。仮に人形の軍隊が5万以上いたとしましょう。それなら、彼らを盾にしつつ、この城壁まで土嚢を積み上げるなりなんなりすればいいのよ。どうせ死んでもいい兵士なら、私ならそうするわ」

「・・・なるほど、一日あれば陥落する可能性もなきにしもあらずですか」

「でもそうしない。それはなぜか。シェーンセレノがこちらをなぶっているからよ。人形に向けて武器を必死に射かけるこちらを見て、嘲笑っているのだわ。今のところ、彼女の掌の上からしらね」


 だがそう告げるアルフィリースの顔には、微塵も悔しそうな色は見えない。リサは呆れたようにもう一度センサーを吹雪に向けて放ったが、やはりその範囲には散発的に合従軍の部隊が展開しつつあった。


「掌の上で、熱いお茶をぶちまけるくらいのことはしでかすつもりなんでしょう?」

「もちろん。ここにある連射弩級や投石器の耐用日数は、どのみちあと10日ほどよ。半数が使えなくなるか、相手の地下壕があと2日の時点に来たら教えて頂戴」

「地下坑道、掘ってきますかね?」

「まず間違いなく。これだけ堅固な城壁なら、地下から崩すのが鉄則だわ。私でも同じことを考えるし、できるかどうかは別にして挑戦しない理由もないでしょう」

「で、対策は?」

「耳を貸して」


 アルフィリースがリサに耳打ちをすると、リサの口がへの字に曲がった。その考え方に、呆れたのだ。


「・・・また、そんな敵を煽るようなことを」

「腹が立ちすぎて、憤死してくれれば楽なのにね」

「人によっては本当に憤死しそうですね。少なくとも、敵の被害は甚大でしょう」

「サイレンスの本質は、人間への憧れと怒りだと思うのね。なら、煽れば煽るだけ冷静さを欠くでしょう。それが狙いだけど、その後に控える策を破れるものなら破ってみなさいと言いたいわ」

「まぁ、軽く絶望を味わわせることは確実でしょう」


 アルフィリースの策を聞いた仲間もローマンズランドの軍人たちも、最初は唖然としたものだ。そして具体的な行動に移してからは、相手が気の毒だとさえ思っている。

 仮に、これが人形相手でさえ、リサは同情を禁じ得ない。シェーンセレノの策が舞台の登場人物を操ることなら、アルフィリースの策は子どものように舞台をまるごと壊しかねない策なのだから。


***


「トレヴィー殿、掘削は順調か」

「ああ、あと数日もあれば敵の城門の向こうに入るだろう」

「だ、そうだが。マサンドラス殿」

「工期を遅らせるのにも限界があるのは最初に言ったとおりよ。7日ほどは稼いだが、これ以上はシェーンセレノに疑われる。ま、やるしかあるまいな」


 二の門を破るための地下坑道を作成しているドライアン、トレヴィー、マサンドラスはそろそろ坑道が完成するという報告を聞き、やや神妙な表情になっていた。

 途中わざと崩落させたり、掘った土の搬出を遅らせたり、工具を細かく破損させたりで時間を稼いだが、これ以上は誤魔化せないだろう。理想的には行動が敵の城門の基礎にぶち当たって堀直しになることだったが、そう現実は甘くなく、トレヴィーが優秀なせいで、素直に城門の下をくぐることに成功してしまった。



続く

次回投稿は、6/29(水)11:00の予定です。

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