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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その46~消耗戦①~

「あなたはどう考えているの、ウィスパー」

「どう、とは?」

「全ての生物は、闘争をしている状態が自然だと思っているでしょう? だからこそ、争いが過剰にならないように制御することが調和のとれた戦争、そういう解釈でいたのだけど。今の状況は、アルマスとしては制御がとれた状況なのかしら?」

「武器供与に至っては、制御は取れている・・・というか、過剰供給だな」

「過剰供給?」

「ああ」


 ウィスパーの言葉に、ミューゼが怪訝な顔をした。


「予測された必要量に対し、その3倍近くを売り払った。もちろん常に準備はしているが、今回はいやに金払いの良い諸侯が多く、予備の武器や衣類まで全てお買い上げだったそうだ。おかげで各地の武器生産工房だけでなく、紡績業まで大忙しだ」

「・・・小売りは部下に一任しているのよね? それぞれ妙だとは思わなかったの?」

「合従軍は裕福だからな。アルネリアも資金提供しているし、ミューゼも慎重な性格だから多めに買い付けて来ることは不思議には思っていない。現地の判断も同じだった」

「余った資材はどこに備蓄されているの?」

「北部商業連合だな」

「最初からそこに備蓄されていた?」

「そのはずだ。戦争を始めてからターラムを経由していないのは、殿下だって知っているだろう?」

「なら、食料の買い付け量は?」

「・・・想定どおりだったな」


 ミューゼの質問の意図を悟ったのか、ウィスパーの受け答えが段々と不安の色を帯びた。武器と食料の買い付けの不均衡アンバランス。ローマンズランドを飢えさせるなら、食料こそ多めに買い付けるべきではないか。

 ミューゼはウィスパーの姿を素早く隠すと、部屋の外にいる部下に連絡をとった。


「急ぎの用があるのだけど?」

「はっ! いかがいたしましたか?」

「ターラムに出入りする人数を調べてくれる? 宿泊管理をしているギルドに伝えれば、どのくらいの出入りがあるかはおおよそ想定がつくわ。ターラムに入りきらずに外で野営をしているような連中もおおまかに管理しているはずよ」

「他には?」

「小街道の人数確認はアルネリアが行っているはず。彼らにも連絡をして、どのくらい人の通行があるか確認して」

「ただちに!」


 ミューゼの命令を受けて兵士は走っていったが、時は夕刻。調査の結果が出るのは速くとも明日朝だろう。

 それまでこの靄つく気持ちを抱えていると、今夜は深く眠れそうにないと思う2人。


「・・・人形、かしらね」

「ああ。図らずも協力した形になるのか。不覚だな」

「予想が当たっていれば、不毛な消耗戦が待っているわ」

「削るのは物理的にではなく、精神的にか。恐ろしいことを考える」

「想像以上の怪物が相手ね。オーランゼブルは知っていて仲間に取り込んだのかしら?」

「どうだろうな、奴の心は私にはわからんよ。元々、他人の心の機微には疎い」

「その割には気が利くわよね?」

「経験の差だ」


 ウィスパーが場を和ませようと冗談を言ったのだと気付くとミューゼはくすりと笑ったが、残念ながらそれでも気が晴れる状況ではなかった。

 

***


「・・・妙ね」


 二の門を防衛するアルフィリースは、ここ数日の合従軍の動きがおかしいことに気付いていた。

 敵の攻撃は散発的になったことは予想通り。だが、その頻度が徐々に増えている。襲い掛かっては来るが、覇気が感じられない攻勢。絶対に攻め落としてやるぞという意欲は感じないのに、圧と勢いだけは充分に伝わってくる。

 一時期には日に2回もあればよかった合従軍の攻勢は、およそ二刻おきに繰り返されるようになりつつあった。これだけ繰り返せば敵の損耗だって馬鹿にはならないだろうに、どうなっているのか。

 アルフィリースは、吹雪いて見えなくなった合従軍の陣地の方を眺めていた。


「リサ、合従軍の様子は?」

「吹雪が止まない限り、感知は不可能ですね。私の『エリア』は披露したかと思いますが、雪の形を模したのが仇となりました。この吹雪ではかき消されて届きません」

「ドライアンとも連絡が取れないわ」

「ドライアンは側面からの侵攻路――実は我々との連絡道を確保したかったようで、その試みは実は成功しつつあったのですが、この吹雪で凍てついた側面は獣人の飛行部隊をもってしても危険極まりないようです。凍てついた急斜面、そして猛吹雪で飛竜や天馬ですら飛行がままならないものを、獣人が突っ切ってくるのは至難かと」

「この状況、どう見るかしら?」

「私に意見を求めずとも、まず間違いなくサイレンスの人形でしょう。そのくらいはデカ女も考えているはずです」


 リサは言いにくいことをさらりと口にして述べた。リサの良い所は、良い可能性も悪い可能性も、どちらも平等に口にできるところだろう。そこに躊躇はなく、冷静に可能性を検討できる。アルフィリースも頭の中では考えがまとまっているが、リサを前にしていざ言葉にすると、より具体的に整頓できるので助かっている。



続く

次回投稿は、6/26(日)11:00です。

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