表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2362/2685

開戦、その36~世界の真実①~

***


 アルフィリースは大股でイェーガーに割り振られた部屋に帰ると、勢いよく戸を開けた。その様子と剣幕に何事かと仲間が声をかける前には、既にアルフィリースは大股で歩きながら上着を脱ぎ、さらに服を脱ごうとしていた。


「ちょ、ちょっとアルフィ!?」

「ついに乱心しましたか。無駄に以前より引き締まっているくせに駄肉が減らないとは、当てつけですか? 挑戦と受け取りますよ?」

「ぬほぅ、眼福・・・じゃなくて、ダロン! 回れ右!」

「もうやっている」


 ラーナに怒鳴られる前にダロンが一番冷静に対処していたが、他の者は慌ててアルフィリースに駆け寄り、アルフィリースは彼女たちを制して冷静に指示を飛ばした。


「少し深く意識に潜るわ。ラーナ、補助を。リサ、警護をして」

「そ、それは構いませんが。それほど急ぎますか?」

「一刻を争うかもしれない。少々強引にやるわ」

「ああ、だから――」


 クローゼスが納得したが、精神感応の魔術の類は、裸に近いほど精度が上がるとされる。東方でも滝行など、薄着で自然と接する方法を取ることもあるらしいが、こちらでも同じようなことをする。

 ラーナは奥の部屋で準備をしようと、小瓶をさっとかき集めた。香を焚き、魔法陣を描いてアルフィリースの瞑想を補助するのだ。リサもアルフィリースの表情を感知してそれ以上の無駄口を叩かず、奥の部屋へと続く扉を開けようとして、はっと思い出した。


「あ、待ってくださいアルフィ。奥には――」


 アルフィリースがほぼ下着になった状態で奥の部屋への扉を開くと、中にはレイヤーとルナティカが待機していたのだ。

 だがアルフィリースは彼らを確認しても、歩みを止めることはなく、自らも魔法陣を描くべく白墨を取り出して準備した。


「一刻を争う報告がなければ、後でもいいかしら? 長旅だったでしょう、半日くらい休憩していきなさいな」

「ならそうする。レイヤー?」


 ルナティカが流石に部屋を出るようにレイヤーに促したが、その際に非常に珍しいものを見た。そこには頭の先まで真っ赤になったレイヤーの姿。長風呂をしてのぼせたかのように、寒さの中上気するレイヤーがそこにいた。

 思わずルナティカも目を丸くする中、レイヤーは3つほど深呼吸してから、ゆっくりと話し始めた。


「・・・すみませんでした。これから瞑想を?」

「そうよ。下着も外すから、さすがに出て行ってほしいかな」

「その前に、これを」


 レイヤーが短刀に変形したレーヴァンティンをアルフィリースに渡した。アルフィリースの下着姿を正面から見ることになったレイヤーは視線を泳がせながらレーヴァンティンを渡したが、アルフィリースの方が驚いてしばしレイヤーをまじまじと見つめた。


「これ・・・渡していいの? なぜ?」

「今の間に、レーヴァンティンが語り掛けてきました。意識に潜るなら、必要ならば呼ぶがいいと」

「もう一度聞くわ、『なぜ』?」

「答えはレーヴァンティンが知っています。僕は、あくまで『武器として振るう』者。レーヴァンティンの真髄は、他にあるのでしょう」

「その時がくれば、わかるってことか」


 アルフィリースはやや不思議な気持ちでレーヴァンティンを受け取ると、剣の方が語り掛けてくるような感覚にとらわれた。それはインパルスと会話をしている時のような、不思議な充足感を彼女に与えた。


「――力を貸してくれるのね」

「はい、おそらくは。それこそが、レーヴァンティンの役目でしょう」

「半日ほど預かるわ」

「存分に」


 レイヤーはそう告げて、一礼して出て行った。もう赤面はしていない。その間にもラーナは手早く準備をし、アルフィリースが描く魔法陣の傍から香水で魔法陣を継ぎ足し、さらに香を焚いて準備をした。


「もし暴れるようなことがあれば、強引に起こして頂戴。力づくで押さえつけても構わないわ」

「その時はルナティカとレイヤーを呼びますよ。恥ずかしい思いをしたくなければ必死でやりなさい」

「うぐ。レイヤーなら間違いは起こさないと思うけど、さすがにちょっとなぁ・・・頑張るか」


 アルフィリースは少しだけ悪戯っぽく笑うと、すぐに真剣な表情に戻って瞑想に入った。周囲では有象無象の精霊が凪ぎ、アルフィリースの瞑想に合わせてその動きを一様に止めているようでもある。

 その様子を見たクローゼスは、アルフィリースは瞑想一つで精霊を従えるのかと、まるで自分より熟練した魔女を見るかのように感じていた。


***


「ポルスカヤ、御子はいるかしら?」

「やはり来たか」


 アルフィリースの意識の奥、格子に阻まれた領域の前にアルフィリースはいた。そこにはポルスカヤが複雑な表情でアルフィリースを出向かえていた。

 アルフィリースがじろりと影を睨むと、影はため息を一つついて彼女には珍しく申し訳なさそうな顔をしてため息をついた。


「そんなに睨むな、アルフィリース」

「なぜ睨まれているかはわかるでしょう? 知っていたわね、あなたも、御子も」

「何を目的にしているかは知っていた。だがそちらだって聞かなかったはずだ」

「聞いてたら、話した?」

「いや、それはないな」


 今度はアルフィリースがため息をついた。


「元々がオーランゼブルの側なのは知っている。それでも、あなたも御子も、オーランゼブルの計画に賛同していたの?」

「私は正直どっちでもいい。そんなことに興味はないし、向こうだって本当に私のことを信用しちゃあいないさ。私に命令して、いざという時のアルフィリースの主導権を奪えるようにしたかっただけだ。オーランゼブルはそもそも、誰も信用しちゃあいないのさ。だから全てをアルフィリースに打ち明けていたところで、ここまで取った行動は変わらぬと思うけど?」

「なら、御子は?」

「私もそれを聞きたかったからここにいる。だが呼びかけても、うんともすんとも言わない。気配すら断ってやがる。なんて奴だ、都合が悪くなったらだんまりを決め込むつもりだ」

「どいて」


 アルフィリースが影を押しのけた時には、その手に燃えるように輝く短剣があった。影はそれが何であるかに気付くと、思わず跳び退いた。



続く

次回投稿は、6/6(月)13:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >そこには頭の先まで真っ赤になったレイヤーの姿。長風呂をしてのぼせたかのように、寒さの中上気するレイヤーがそこにいた。 そりゃあいきなり痴女……もとい、背が高くておっぱい大きくてスタイ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ