開戦、その33~二の門前の死闘⑮~
「そりゃあそうだろ? 狭くて危険とはいえ、仮にも軍が通行できるんだ。しかも第三層に通じている。合従軍にばれてみろ、二の門以降の防衛策は無効になる。いや、グルーザルドにはもうばれているかもな。奴ら、空を飛べる部隊がいたからよ。下からじゃあ回り込めないだろうが、ひょっとしたら入れる道を探しているかもしれん。そんな道は潰すに限る」
「じゃあ、完全にローマンズランドは孤立無援ってことじゃねぇか」
「そうだぜ? 春までに決着をつけないと、干上がるのはローマンズランドの方だ。さて、どうなるかな。ま、懸念はそれだけじゃないが」
ガイストがきょろきょろとしたのを見て、リサが不満そうにむっとした。
「私の結界が信じられませんか?」
「いや、お嬢ちゃんは優秀さ。弓兵シェキナが死んだ段階で、お嬢ちゃんより鋭いセンサーは俺らの仲間にゃいない。エネーマもかなり探知は得意だが、純系のセンサーほどじゃない。だけどな、それでも『軍団』は不気味なんだよ」
「軍団――彼らは何者なの? 仲間ではないの?」
アルフィリースも気になっていたのだ。実はゼムスとの雑談でも少し出た存在なのだが、ゼムス自身からも注意するように促されるほどだった。
当然、ガイストも警戒しているようだ。
「俺はゼムスとずっと行動を共にしているわけじゃないが、奴に関してだけはゼムスも警戒していた。いや、シェバやエネーマですらそうだ。奴らの仲間のほとんどは軍団に話しかけることすらせず、軍団の方もおそらくは俺たちを仲間と思っていない。わかっているのは、奴らを同時に2人以上見たことがないこと。そして見た目は人間だが、人間かどうかすらわかっていないということだけだ」
「人間じゃない?」
「ただの勘だが、俺はそう思っている。だってよ、あいつは傭兵ギルドに登録すらしていないんだ。ゼムスに聞いてもいつの間にか仲間にいたが、いつからいるのか、誰も知らないんだとさ。ある日辺境から帰ってきたら、いつの間にか当然のように仲間にいたそうだ。そんな馬鹿な話ってあるか?
そんな奴らが何を求めているのか、何を考えているのかもわからない。部屋は奴らで一部屋使っているが、中で何をしてるのかも誰も知らない。ゼムスとクラウゼルが去ったのに、なぜかこちらに残った。それが不気味でなくて、なんだってんだ?」
「それは――」
「リサの知りうる限り、7名はいます」
リサが唐突に口を挟んだ。どうやらリサもその正体は気になっているようだ。
「部屋は完全に遮断されていて、どうやらセンサーの心得もあるようです。一度中を探ろうとしたら、警告のように殺気が飛んできました。そして外を歩いている時は、明らかに軍団と思しき人物が歩いているのを感知しています。その数は、私の知る限り7名。身長、体重、重心のかけ方まで全てまるで異なる人物でした」
「確認するが、同一人物ってことはありえないんだな?」
「人には歩き方一つとっても癖が必ずあります。それらを7人分、完璧に使い分けることはできません」
「ふぅむ、どうなってるんだかな。なぁ、あんな得体のしれない奴らにローマンズランド王宮内の警護を任せていいと思うか?」
「それを決めるのはスウェンドル王であり、重臣だわ。私たちじゃない」
「それはそうだが」
ガイストの言いたいことはわかる。だがそれ以上誰も何も言うことはできず、その場は解散となった。
***
「と、いうことがあったんだけど」
「・・・その相談をいきなり私にもってくるあなたも相当よね」
呆れたような声を出すオルロワージュの前で、アルフィリースはやや遠慮がちにきりだした。オルロワージュも最初こそ王の愛妾としてのていを取り繕いながら応対していたが、アルフィリースの要件を聞くとあんぐりと口を開けながら、指を鳴らして侍女たちを下がらせた。
「これで、ここには私たちだけだわ」
「さっきの侍女って、全部あなたの分体じゃないの?」
「言ったでしょ。相性があるから、全ての人間を乗っ取るなんて不可能よ。そんなことができるのなら、最初から全員操っているし、今頃大陸を私が席巻しているわ」
「それもそうか」
「そこで驚かないのが、あなたの尋常ではないところよね。話が早くて助かるし好ましいけど、どちらかというとこちら寄りの人間よねぇ」
「?」
小首をかしげるアルフィリースに向けて溜め息をつくと、オルロワージュことカラミティは先ほどの質問に返答した。
「度胸あるあなたに免じて、正直に答えるわ。『軍団』なる者は私たち黒の魔術士の関係者ではないわ。もちろん、サイレンスの関係者でもないはず」
「その情報は確か?」
「もちろん、サイレンスが秘匿している可能性はある。だけど、私も現在進行形で軍団なる者の正体は探ったわ。そりゃあそうでしょう、あのゼムスが連れてきた仲間ですもの。さして興味がなくとも、実力者となればどの程度のものか気になるでしょう」
「で、その結果は?」
「不明よ」
オルロワージュが茶を飲むと思いのほか熱かったのか、思わず舌を出した。その仕草はお世辞にも優美とはいえず、これが本来のカラミティの仕草なのだろうかとアルフィリースは感じていた。
続く
次回投稿は、5/31(火)14:00です。