開戦、その21~二の門前の死闘③~
「前列、三列方陣! 重装歩兵、前へ!」
「大盾構え! そのまま微速前進!」
前線の将たちの命令で、全身鎧と全身がすっぽりと入る大盾に身を守られた重装歩兵が前進を始めた。二の門前の台地の横一線に並んだ合従軍が、蟻も逃がさんとばかりに迫る。
奇しくも、彼らが装備する鎧は、ローマンズランド産の鉄鉱石で製作されたものだった。同じ素材ならば、魔術処理さえ施してしまえばそう簡単に抜かれることはないはずだと考えたのだが。
彼らが大地の半分程度にまで近づいた時、バァンという大きな反動音が一つ鳴った。その後、風を裂く音と共に、横三列に並んだ重装歩兵の縦一列がいともたやすく串刺しにして抜かれた。
最後列にいた兵士の大盾が宙に舞い、さらに後方から迫る兵士の頭を直撃し、その兵士が何もせずして頭の半分を削られて死んだ時、思わず合従軍の進軍が止まっていた。
そして宙に舞った盾が落ちて、ぐわんぐわんと地面を転がって倒れると、はっとしたようにあちこちから悲鳴が上がり始めた。
「う、うわぁあああ!」
「な、何が起こったんだ!?」
「きょ、巨大な矢が重装歩兵を3人まとめて串刺しにした!」
「落ち着け、貴様ら! 隊列を乱す――なっ?」
先頭で隊列を整えようとした将の頭に矢が直撃した。イェーガーが使用する弓矢の射程距離は、普通の弓の3倍以上。それをシーカーが使い、さらに高低差と風の魔術を利用して射た時、どのくらいの飛距離になるのか、彼らは正確に理解していなかった。
仮にシーカーで一番の弓達者のオーリが射た場合、実にこの台地のほぼ全域が射程距離に入ることを、彼らはまだ知らない。
そんなことを彼らが考える時間はなく、そして隊列を立て直す暇すら、いや、乱す時間すら与えず、反動音が間断なく城門から響いてきた。同時に、巨大な矢が立て続けに重装歩兵たちに着弾し、重装歩兵たちの隊列は紙切れのように簡単に食い破られた。
「な、なんだこの矢は! 弩弓にしても、威力がありすぎるぞ!」
「・・・改造してやがる」
城攻め屋の指揮官となったトレヴィーが、苦々しそうにつぶやいた。かつて負けた時、自分たちの兵器を試作品として回収していったイェーガーの団長アルフィリースの顔を思い出す。彼女が一番興味を向けていたのは、攻城兵器ではなく、設置型の仕掛け弓と投石機ではなかったか。特に彼女が見ていたのは、飛距離を出すための巻き上げ部分と、しなりを出すための木材の部分だった。あの部分が改造されているとなれば、比べ物にならない威力の弩弓が完成していてもおかしくはない。
ここまで響く反動音は、よほど強力な弦の素材を手に入れたのだと理解できる。撃ってきた矢は、ほとんど槍のような大きさだった。こんなものが一直線に飛んできたのでは、並みの盾では防ぐことなどできはしない。だが、トレヴィーだからこそ弱点も思いつく。
「落ち着け! そこまで連続使用はできないはずだし、威力の分仕掛けも多く、耐久力は限られるはずだ! 一斉掃射のあと、隙ができる! その時に全速前進を――」
トレヴィーの言葉が終わらぬうちに、より正確になった第二射が飛んできた。半壊状態にあった重装歩兵たちは、今度こそ薙ぎ払われ壊滅した。もう無事な者どころか人間の形をとどめている者を探す方が難しいほど、無残な光景が広がった。その光景の向こうには、門を開けて出陣し、隊列を整えるローマンズランド地上軍が見えるではないか。
トレヴィーが唖然として命令を出しあぐねている間に、シェーンセレノがその言葉を引き継ぐように命令した。
「言葉通りです! 奴らの矢はどこかで途切れる。それまで前進を止めるな! 止まれば、奴らの思い通りぞ!」
「盾は不要だ、軽装に切り替えて全速前進! 味方の死体を踏み越えて、進め!」
先ほどの無残な光景を見た後で、どうしてこれだけ士気の高さを保てるのか。台地に続く坂道から我先にと、次々と兵士が登ってくる。彼らは無駄な武具をその場で脱ぎ捨て、狂ったように前進を開始した。
「これは――魔術でもかかっているのか?」
「この軍の奴ら、正気じゃねぇぞ」
城攻め屋の傭兵たちがぞっとしながら、戸惑う兵士たちも巻き込まれるようにして前進を開始した。もう隊列も何もあったものではないが、ここで踏みとどまろうとすれば後続に踏みつぶされるだろう。そうなるよりはと、巻き込まれた兵士たちも狂ったような歓声を上げて突撃を開始した。
ここに参加しているブラックホークの傭兵たちも、そしてグルーザルドの一部部隊も例外ではない。
「くそっ、冗談じゃない! これじゃ下がれないじゃないか!」
「こんな無謀な戦いで生き残れって? 変態神父はいないんだぞ、くそったれめ!」
「ミレイユ、どこを見てる?」
さしものブラックホークの傭兵たちも焦りを隠せない中、ミレイユだけが逆に静かだった。
「アマリナ、生き残れる場所はどこにあると思う?」
「・・・わからん。だが、大きな門程懐に接近してしまえば、隙が多いのも事実だと思う」
「同感。巨獣の懐って、意外と戦いやすいしね。さて、方針は決まったね?」
「・・・おいおい、マジか」
グレイスが呆れ顔になりながらミレイユの視線の先を確認した。
「死中に活ありってね」
「死しか見えねーぞ。到達したとして、そこからどうする?」
「なるようにしか、ならないかな?」
「あぁ~団長の方に行けばよかった」
「旦那さんの前じゃ死ねないでしょ?」
「冗談だろ、それより無様なところ見られたくねぇんだよ!」
グレイス半ばキレ気味に大剣を振り回し、強引に周囲の兵士をどかした。
「しゃあねぇ、行くか! どけよお前ら、アタシが通るぞぉ!」
「いいね、グレイスのスイッチが入った。これで少し生き延びられる確率があがったかな? あと、そろそろ動いた方がいいよ? 後方もこれから安全じゃなくなる」
「ここも?」
「上、見てみ?」
ミレイユが指さした方を見て、アマリナも表情を変えて前進した。なるほど、ここにいてはとても生き残れる気がしない。
続く
次回投稿は、5/8(日)15:00です。