表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2342/2685

開戦、その16~魔都⑤~

***


「合従軍の奴ら、どうなってるんだ?」

「もう三日三晩不眠不休で押し寄せてきてやがる」

「そんなに本格的な冬が怖いのなら、引き返せよ」


 前線から一度休息のために入れ替わった兵士たちが、口々に不満を漏らしながら鎧を外し、暖をとりながら小休止を始めた。入れ替わりに具足を装備した騎士たちが、無言で出撃していく。こちらは誰も一言も軽口を叩くことなく、無言で隊列を整えて出撃していった。彼らの背が少し小さく見えることから、規律正しく整然としているのではなく、ただ疲労しているといった方が正確だろう。

 三日前の明け方より突如始まった合従軍の大攻勢は、夜になっても留まるところを知らなかった。少々の罠ならば損害を厭わず食い破り、途中の家屋には目もくれず、邪魔と断じれば火をかけ打ちこわしてでも、ひたすらの二の門目指して押し寄せてきた。

 民家の中に置いた伏兵も、この物量の前には意味を成さず。むしろ彼らは孤立して存在を気取られると、容赦なく皆殺しにされた。そして屋内にたまに設置していた発破の仕掛けに巻き込まれても、死体と瓦礫を片付けると何事もなかったように進軍を再開した。

 要所要所でシーカーたちが遠距離射撃を試み、魔術士部隊が魔術を仕掛け、逆落としのように奇襲をかけても、彼らをいったん足止めする程度の効果しかなく、侵食されるように第一層は攻略されていった。足元から虫が這いあがるように占拠されていく様子に、焦りと恐怖を感じない将兵は皆無だろう。それは首脳部とて同じである。

 半分までは押し込まれたこの現状を眼下に見ながら、ブラウガルド殿下と将軍たち、アルフィリースやクラウゼルが、今後の対応を協議していた。このような状況でも、ブラウガルドには不安の色は微塵もない。本当に一切ないわけではなく、見せていないのだろうが、見事な自制心だと言わざるをえなかった。


「一番嫌なことをやられたな。犠牲を厭わず物量差で押し切られるのが、一番きつい。結果的に、敵も犠牲が少なくなるだろうしな。合従軍など烏合の衆と思っていたが、犠牲を厭わぬ作戦を敢行するあたり、見事な指揮官がいるのだろうな」

「全身鎧の兵士を殺す罠となると、数と種類が限られます。設置も大掛かりになりますし、隘路や家屋に仕掛けても読まれてしまうでしょう。いずれこうなるのはわかっていたことです。特段、敵が有能というわけでもありますまい」


 ブラウガルドの言葉に、クラウゼルが答える。そこには微かな敵愾心があるように感じられたが、アルフィリースは指摘することなく続ける。


「その罠も、ほとんど残っていません。やはり城門を乗り越えられる前に、十分な時間がありませんでした。朝になれば、一挙に二の門まで到達されてしまうでしょう」

「どうする? あと二刻もすれば、夜が明けるぞ? 飛竜は夜目がきかぬ。そしてブレスによる薙ぎ払いも、高度を下げてしまえば奴らの弓矢も届く」

「籠城戦では、自慢の竜騎士も張子の虎ですね。おっと、失礼」


 アルフィリースがわざと挑発的な物言いをしたので、リサはひやひやしながら聞いていた。ただでさえ、将軍たちは不満がたまっているのだ。かといって、良案を出せぬ彼らがここで露骨にアルフィリースを虚仮下ろすほど愚かでもなく、また彼らもアルフィリースの重要性を理解していた。ローマンズランドにとってみれば姑息ともいえるイェーガーの工作がなければ、とうに二の門に到達されていたことは間違いないのだから。

 アルフィリースはブラウガルド殿下と諸将の方に向き直ると、何の感慨も浮かべず宣言した。


「住人の避難と引き揚げは終わりましたか?」

「ああ、おかげさまで済んだ。戦闘に関わらぬ街区の者が20万人ほど。戦闘に関わる街区の避難民のうち、10万人を逃がし、20万人が我らと運命を共にするとのことだ」

「思ったよりも多いわね・・・それもまた仕方ないことか。では今から最後の仕掛けを使います。調教した魔獣を解き放って時間を稼ぐので、その間に全部隊を撤退させてください。残ったら巻き添えを食いますよ?」


 アルフィリースの指示のもと、将軍たちが動き始めた。二の門から第三層に上がるだけでも、かなりの時間を要する。体力のない老人や子どもは既に残るか逃がすかをしており、軍が展開できぬほど小さなスカイガーデンの抜け穴から彼らを逃がすのに、膨大な時間がかかったのだ。

 なんとか、彼らのほとんどは退避することができたはずだ。アルフィリースはそう確信して、最後の策を発動させた。ブラウガルドは、それらを直接見ながらも納得できないような表情をしていた。


「アルフィリースよ、理屈はわかる。だが、それにしては量が不十分ではないか?」

「いいえ、殿下。この時季、このイェーガーだからこそ成功します。これで数日はさらに稼げましょう。今からやるべきは、二の門の後方を抜かれないようにさらに強化することが必要です」

「ほぼ切り立った、脆くて滑る断崖だぞ? そんなところを攻撃してくる者がいるか?」

「二の門は今から難攻不落の城門と化します。その際一番怖いのは、思いもよらぬところから破られること。古来より、難攻不落の要塞は一点だけ、わざと弱い部分を作っておくものですが、この二の門はそれより以前の時代に作成された要塞。あまりに難攻不落過ぎるのです。よって、破られる時には私たちの想いもよらぬ手段で破られるでしょう」

「思いもよらぬ手段とは、なんだ?」

「さぁ・・・天を衝く巨人にでも殴らせるか、山ごと崩すか。今私が思いついたからには、それよりも突拍子もない手段だとしか言いようがありません」

「それよりも突拍子もない手段か。見たくもあるが、見た時には国が崩壊する序曲の音となるだろうな」


 ブラウガルドが苦々しく述べた感想に、さしものアルフィリースもクラウゼルも答えない。そして彼らは仕掛けのところまでやってきた。そこにはクローゼスと、イェーガーの魔術士部隊が待機していた。



続く

次回投稿は、4/27(水)16:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ