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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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開戦、その4~城門前④~

***


「リサ、味方の状況は?」

「左側面の小隊がいくつか孤立しかけていますが、中隊規模での孤立はなくなりました。これだけ混乱している中、立て直した私を誰か褒めてくれませんかね?」

「頭でよければ、いくらでも撫でてあげるわよ!?」

「それよりその駄肉をちょっと分けていただけませんか?」

「それは無理!」


 言いながら、こうやって冗談が言えるうちはまだ余裕があるとアルフィリースもその周囲もわかっていた。

 状況は最悪の一つかもしれない。だが誰しも――アルフィリースやスウェンドル、策士クラウゼルですら予定していない形で始まった戦いの割には、被害は少なく抑えられているはずだ。やれることをできている自信と確信が、アルフィリースにはある。

 民衆の被害は出ている。だが彼らとて、こうなる可能性が全くないとは考えていなかっただろう。戦争が始まった状態で、自国を捨てて敵国に向かったのだ。そのどちらもから武器を向けられたとして、仕方のない事ではないか。それとも、そんなことすら想定できていないのなら、それは生きるということに対して甘いのではないのか。

 民衆は愚かだと、言い切った為政者がいた。同時に、民衆は宝だと声高に叫ぶ為政者もいる。民衆は、為政者を反映する鏡だとアルフィリースは考えている。ローマンズランドの場合は、スウェンドルの心を反映しているのか。自国の危機を前に逃げ出す民衆を見て、スウェンドルは何を考えているのかとアルフィリースはふと考えた。


「(多分、そうなるように仕向けたのでしょうね)」


 スウェンドルの話を総合していると、そんな気がした。民衆が国の礎だというのなら、民衆さえ生き延びていれば再建ができる。スウェンドルはそんな考えを抱いているのかもしれない。

 でも、土地そのものが死んでしまえば? スウェンドルはそこまで考えているのだろうか。


「(ローマンズランドの土地が痩せていくのは、止められないのかもしれない。ならば、次も考えているのかしら。それでもローマンズランドから離れない人もいるだろう。為政者とは、色々なことを考えないといけないのね。願わくば、もっとスウェンドルとは言葉を尽くしてみたかったわ。それとも、ドライアンやミューゼ殿下、レイファンとはこれからも語り合えるのかしら。ライフレスは? かつて、本当に彼はどう考えていたのだろう。まだまだ知りたいことが沢山ある。私は――)」


 戦争に際して、そんなことに心奪われたわけではない。アルフィリースは同時にいくつもの思考を走らせて考えることもできる。だが、アルフィリースの危機感知やリサ率いるセンサー部隊の警戒網すらかいくぐって、『彼女』は接近してきた。

 暴走する情念と狂気とは裏腹に、ただ静かに息を殺して自分の射程圏内に獲物を捉えていたのだ。


「見ーつけた」


 敵意でも殺気でもなく、漏れたのはわずかな邪気。遊び甲斐のある相手を見つけた時の、戯れのような感情にアルフィリースの中のポルスカヤが反応していなければ、アルフィリースは一撃で戦闘不能になっていた。

 咄嗟に庇った両腕の防御を突破し、アルフィリースの鳩尾に深く蹴りが入っていた。


「あ・・・がっ」


 衝撃を流すために後ろに跳んだのに、なお悶絶するアルフィリースを見て、周囲にいた戦士たちが飛び出し武器を振り下ろしたが、既にその姿は残像となって消えていた。


「反応できるんだァ、やるネェ」

「テメェ、ブラックホークのミレイユ!」

「総員、アルフィリースを後方へ! そのふざけた美脚女獣人を全力で仕留めなさい、手段は問いません!」


 ロゼッタがアルフィリースを庇うように立ちながら、リサが一斉攻撃の指示を飛ばす。言葉での指示よりもセンサーでの指示が地面を伝わると、訓練されたイェーガーの精鋭はリサの言葉が終わらぬうちに、一斉にミレイユに襲いかかった。

 だがその攻撃をあざ笑うかのように、ミレイユは消えるようにするするとその間をかいくぐる。


「練度だけなラ、正規軍も真っ青ダナァ。でも雑魚じゃア、アタシはやれなイ」

「あの歩法、暗殺者のそれと近い。私がやる」

「ルナ、気を付けて。彼女は――強い」

「わかってる。私も強い」


 ルナティカがアルフィフリースと入れ替えに、前に出た。遺跡での戦いを経て急激に強くなったとはいえ、それでもなお動きを目で追うのがなんとかという相手。

 ルナティカは他の戦士を手で制して下がらせ、アルフィリースの守護に回した。アルフィリースの痛がり方から、肋骨は折れただろう。下手をすると内臓も傷ついた可能性がある。アルネリアを敵に回したこの状態では、万全の治療体制が敷けないことが恨めしい。これ以上アルフィリースを戦わせるわけにはいかないと、ルナティカはマチェットを構えた。


「私が相手。こい」

「こりゃあまタ、おいしそうなのが出て来たナァ」


 舌なめずりするミレイユの両手がだらりと下がり、長身でスタイルの良い体がぐ、ぐと丸まった。一気に来るか、と思わせたその姿勢から、まるで地面を這いずる蛇のように低姿勢で高速移動を開始するミレイユ。けっして身長の高くないルナティカが、打ち下ろす格好になるほどの低空攻撃に、一瞬反応が遅れる。



続く

更新遅れてすみません。不足分を埋めるために連日投稿いたします。次回は4/4(月)18:00です。

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