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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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大戦の始まり、その67~西部戦線㉜~

「面白そうな話だけど、それはさておき。私の立ち位置は今告げたとおりよ。黒の魔術士――この場合はカラミティね。彼女を倒すためにここに来たわ。そして魔王とローマンズランドの暴挙を止める。それが私の目的よ」

「俺らと対立してでもか?」

「必要があればそうなるかも。でも、できれば避けたいわね」

「必要があれば、立ちはだかる者は全部叩き潰すって顔してるぜ」

「そこまで乱暴ではないわ。押し通る、くらいかしら」


 ドードーとの問答中、アルフィリースはじっと視線を逸らさなかった。しばしの間を置いて、ドードーは豪快に笑いだした。


「久しぶりに見たな、豪快な奴をよ! それが女とは、畏れ入る! 女にしとくにはもったいねぇな!」

「別に男でも女でもいいでしょう?」

「もちろんそうだが、女だと色々と面倒なことを言う奴が多いって話だよ。男だったら間違いなく英雄扱いだろうが、女だったら余計なことを言う奴も多いってだけさ。男よりも困難な道を歩むことになるのが想像できるからこそ、応援したくもあるし、残念だなぁと思うわけよ」


 ドードーはひとしきり膝を打ちながら笑った後、ミストナの方をくるりと振り返った。


「さて、俺はこの女が気に入った。お前はどうだ、ミストナ?」

「言うまでもありませんし、最初から選択肢などなかったでしょう」

「かもな。一つ頼みたいことがある、これは俺と、ミストナ。双方の意志だと思ってくれて結構だ」


 改めてドードーが畏まったので、アルフィリースも何事かとめを瞬かせた。


「この戦、負けるのは初めからわかっていることだ。クラウゼルの野郎も予想を立てた通り、籠城戦を最大限やれたとして、春先まで。それまで物資がもたないだろう。そして、クラウゼルの奴は高確率で、侵略軍の方に回るはずだ」

「どうしてそう言い切れるの?」

「彼の目標が、天下統一だからよ」


 ミストナが言い放った。その横で、ヴェルフラが細くする。


「発言を失礼する――賢人会というのは、思ったよりも広い集まりでな。末席に名を連ねるものだけなら、かなりの人数がいるんだ。その中には、我々と関係がある者もいる。その彼らからの情報だが、賢人会とはかつて存在した賢人族に迫るために知性を磨くことを目的としながら、クラウゼルは本当に自分が賢人族の血を引くと信じて疑わないサイコ野郎だとの情報があった」

「また過激な言葉ですね」


 リサが苦笑するほどの単語に、ヴェルフラはそれでも笑わない。


「大戦を自ら誘導して、平和な土地に攻め入る奴をサイコ野郎といわずして、何と呼ぶ?」

「ははぁ。たしかにサイコ野郎ですね、それは。イカレ野郎とでも言いますか」

「それでもいいな。そのイカレたクラウゼルが、大人しくこんなところで先の見えた籠城戦をするものかよ。我々は囮にされるに決まっている」

「それに、相手のシェーンセレノも賢人会の仲間だ。クラウゼルもシェーンセレノも、賢人会の中心人物でな。それが反目して争うのではなく、最初からグルだとしたら非常に厄介なことになる」

「厄介?」

「たとえばこんな相談があったらどうだ? シェーンセレノとクラウゼルでローマンズランドと大陸の中央から東にかけて二分割しましょう、なんて密約があったら」


 その可能性をアルフィリースも考えなかったわけではない。クラウゼルは傭兵で自らの軍隊を持たないが、ローマンズランドを消耗させて奪った土地をシェーンセレノに統治させ、責任はローマンズランドになすりつけ、統括する権利をシェーンセレノに委譲して裏から操る。そんな方法だって取れるだろう。

 だが、アルフィリースが考えているのはもっと危険な可能性だ。それはここでは言わないことにした。これ以上場を混乱させたくはない。


「・・・可能性がないわけじゃないわ」

「だろう? だから、最初から負けた時のことも考えて俺らは乗り込んできた。そこで先ほどの頼み事だ。もし俺らに何かあったら、ミュラーの鉄鋼兵とフリーデリンデ天馬騎士団の残兵を、お前に任せていいだろうか?」


 兜から覗くドードーの瞳には真摯な光があった。酒を飲んでいても、酔いもおふざけもない表情。そしてフリーデリンデ天馬騎士団の隊長たちも最初から聞かされていたのだろう。同じ視線でアルフィリースの答えを待っていた。

 アルフィリースの肚は決まっていた。だが、即答はしなかった。彼らの頼みごとに簡単に頷けるような類のものではない。


「・・・どこまで私がやれるかどうかはわらかないけど、生き延びた際には承知したわ。でもそれは、私も同じ条件よ?」

「お前さんの方がしぶといとは思うがね。万一お前さんに何かあったら、残った連中は任せろよ」

「ドードーに同じく。元々ロックハイヤーは流民の土地よ。行く先なくなった人々を無碍にすることは決してないわ」

「決まりね。なら同盟でも組みましょうか」

「そうだな。おい、グラスはあるか?」


 3つのグラスに酒を注ぐと、アルフィリース、ドードー、ミストナの三人はグラスを持って、それぞれ手を組んだ。


「鉄鋼兵、天馬騎士団、天翔傭兵団の3つの団は、ここに同盟を結ぶ」

「互いに血を流し、傷つき倒れた時は互いの力にならんことをここに約束する」

「この大地におわす、天地精霊に誓って」


 3人はそれぞれ杯を飲み干すと、残りの者が拍手で歓迎した。ミュラーの鉄鋼兵、フリーデリンデ天馬騎士団、天翔傭兵団イェーガーの3つの団の同盟成立だった。

 しばし彼らは歓談したのち、それぞれの部屋に引き上げた。部屋に帰ると、リサが渋い顔でアルフィリースに詰問した。



続く

次回投稿は、3/22(火)19:00です。連日投稿です。

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