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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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大戦の始まり、その59~西部戦線㉔~

 そうするうちに、案内された傭兵たちが控室に入ってきた。もう少し情報を引き出したかったのだが、余計なことを言わないようにミラは態度を硬化させて取り付く島もなかった。アルフィリースは残念そうに、そしてミラは表情一つ変えずただその場に佇んでいる。その空気を察したか、リサが開口一番アルフィリースを慮るような表情でとんでもないことを言い出した。


「アルフィ、スウェンドル王には変なことをされませんでしたか?」

「ええ、特には」

「相手は好色の頂点とも呼ばれる暴虐無人の王。傍若無人なデカ女とは気が合うかもしれませんが、付け入る隙を与えないよう。いえ、好きならいいのですよ? 玉の輿の際はよろしく」

「色々と失礼だよ? そんな事実はないからっ!」


 リサの隠喩は、「スウェンドル王との密談は上手くいきましたか? 王は協力者なのですか?」なのだが、それがわかる者はこの場にはアルフィリースしかいないだろう。だが煽ったような言い回しの効果があったのか、ミラの表情が険しくなり、何か言いたそうに口を開きかけた。

 一言でも話してしまえばこっちのもの。怒らせれば思わぬ情報が得られるかもしれないし、隙あらばあらゆる情報を引き出してやろうとリサがほくそ笑んだとところ、もう一人この部屋を訪れる者がいた。


「失礼いたしますぞ」

「ヴォッフ殿」


 態度を硬化させたはずのミラの表情が、歪むほどの嫌悪感が垣間見えた。部屋に入ってきた男はヴォッフと呼ばれた。他の騎士とミラが形ばかりとはいえ敬礼をするあたり地位は高そうだが、風采の上がらない、脂ぎった小男だった。


「これは頼もしき傭兵団の方々、実に壮観な顔ぶれですな! 私は国務大臣のヴォッフと申す者。王が準備できるまでの間、歓待させていただきます」


 男は満面の笑みで、アルフィリースに手を差し伸べた。その手に菓子でもつまんでいたのか食べかすがついているのに周囲の者が気付いたが、アルフィリースは躊躇なくその手をとった。


「イェーガーのアルフィリースです。女の身の上ですが、傭兵団の団長などを務めています」

「お噂はかねがね。撤退戦でも実に見事な指揮を執られたとか。ローマンズランドの将軍たちにも、あなたの爪の垢を煎じて飲ませたいところですな」


 その言葉に、ミラと騎士たちの歯ぎしりの音が聞こえた気がした。騎士たちに言わせれば、王宮から出ない内政官が何を偉そうにといったところか。それ以上の確執をアルフィリースは感じ取りながらも、敢えて何も気づかないふりをしてへらへらとしていた。

 そして一通り傭兵たちは愛想笑いをしつつ、ヴォッフに応対した。自己紹介と挨拶を終えたヴォッフは今更ながらこの傭兵たちの過半数が女性であることに気付くと、好色な笑みを浮かべて彼らの間を歩き回る。


「いや、それにしても王も人が悪い」

「ある何がですか?」

「籠城戦で女ばかりを雇うあたり、まだ楽しみ足らないと見える。十分美姫は揃えているでしょうに・・・私もご相伴にあやかりたいものです」


 そう言いながらアルフィリースの尻に手を回すヴォッフ。経験のない直接的な行為に身が竦んで思わず固まるアルフィリース。

 ラーナとクローゼスの顔色がさっとなくなり、俄に殺気立って魔術を放つ前にカトライアが笑顔でヴォッフの手を取った。


「まぁ、国務大臣殿。そのようなご期待があるなら、どうして私にお声がけいただけないのです? このようなお子様よりは、数十倍、数百倍は楽しませて差し上げますわ」

「これは高名なアフロディーテの隊長どのにお声がけいただけるとは・・・当然貴女がたには声をかけるとして、それ以外がいかに楽しめるかが肝でしょう? 館で待つ幻想的な娼婦だけでなく、町中で唐突に出会う町娘のような女性も愛でたいのですよ、私は」


 舌なめずりするヴォッフを見て、カトライアですら表情が強張りそうになるのを必死に押さえるのが限界だった。帯剣していれば、もう剣を抜いている者がいただろう。そして抜剣していれば、その場で不敬罪として処断されてもおかしくない剣呑な空気。

 リサでさえ仕込み杖を抜くかどうか悩む場面で、ラーナが最後の一線を越える前に、ミラがヴォッフの首筋に剣を当てていた。


「そこまでだ、ローマンズランドの恥さらしめ。貴様の出番はない、疾くこの場所から去れ!」

「おや、いち親衛隊ごときがこのような暴挙に出ても良いのですか?」

「親衛隊だからこそだ! 我々は殿中の治安維持においては、王以外の全ての命令を無視することもできる。貴様の首を刎ねたその後、死刑になることを恐れる我々だとでも思うか!?」

「なるほど、それは怖い。では、弟君の治療ができなくなることも恐れないと。あなたの誇りのために、病弱な弟君も道づれにする――そういった理解でよろしいか?」


 口角を吊り上げて笑うヴォッフに対し、ミラの剣を持つ手が一瞬揺らぐ。その隙を見逃さず、ヴォッフは見かけからは判断できないほどの素早さでミラの剣から逃れた。

 そして今度こそラーナが魔術を放とうとしたちょうどその時、ばたばたと女中たちがお茶の支度をして入ってきた。



続く

次回投稿は、3/6(日)20:00です。

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