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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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大戦の始まり、その58~西部戦線㉓~

 それを見たスウェンドルは、鼻で笑って彼らの前に降り立った。厳めしくも不安そうな表情が、スウェンドルとアルフィリースの前に並んだ。


「ふん、ご苦労なことだ。重臣一同で出迎えか」

「王よ、勝手な行動は慎んでいただけませんか。傭兵とはいえ、この局面で王宮に招いたということは国賓に近い扱いですぞ。それを勝手な行動で――」

「何か勘違いをしているようだが、いつからお前たちは俺に意見できるようになった。それほどの権限を与えた覚えはないのだが、それとも反旗でも翻したくなったか」

「御戯れを・・・」


 ぴり、と空気が固まったのがわかるが、さしもの大胆なアルフィリースもこの場で何を言えるわけでもない。

 そうするうちに後続が上空に出現する。それを見たスウェンドルがアルフィリースを促して、足早に王宮に入った。それを無言で見送る臣下たちの様々な視線。諦観、畏敬、軽蔑、嫌悪。多くを語らずとも、王宮に流れる空気をアルフィリースは感じ取ったが、スウェンドルももう何も語ることはない。


「王がここまで出迎えたのでは体面が悪かろうよ。先に玉座の間に向かう」

「え、私も行くの?」

「それも問題があるだろう、控えの前に案内しておいてやる。ミラ、いるか」

「はっ、ここに」


 女竜騎士がスウェンドルの声に従って姿を現した。スウェンドルが顎で命令すると、ミラと呼ばれた女騎士はそのままアルフィリースについてきた。その面構えに見覚えがあるなとアルフィリースは感じつつも、目つきの鋭さにやや気圧されたのか、特に話しかけるではなくそのまま前を向いた。

 やや気まずいなか、アルフィリースとミラは無言のまま、大股で闊歩するスウェンドルの背後からついていった。王宮の中にはそれなりに凝らした調度品があったが、全体的に重々しく、また装飾も少なかった。理由は、壁が黒を基調とした鉱石でできているからだろう。また装飾品も質実剛健な造りで、必要以上の派手さを持たなかった。いや、いっそ質素だとまでいえる造りだったろうか。

 寒冷地ではあるが木材などは少なく、また花も滅多に飾られていない。暖色として赤が取り入れられたカーテンなどはあったが、逆に寒々しく、重苦しい印象しかアルフィリースしか受けなかった。


「東の諸国やアルネリアに比べれば、殺風景だろう?」

「そうですね」


 あっさりと肯定したアルフィリースに、スウェンドルは前を向いたまま軽く笑ったが、ミラの視線が痛々しく後ろから刺さった。


「正直だな」

「すみません」

「いや、それがよいのだ。花も木材も、この不毛の高地では贅沢品だ。木炭などの炭すら輸送も一苦労となると、暖炉ですら真冬の夜以外は使うことがない。私室にはもう少し花で飾りつけてあるが、宮殿内にまで飾り付ける余裕はない。だから、第三層に迎賓館を作って他国の者をもてなすのだ。その方が互いに効率的だからな」

「なるほど」

「さて、俺は玉座に向かう。お前はしばし控えの間で待て。あちらは王族の私室が並ぶ回廊で、アンネクローゼやウィラニアの私室もある。今宵は王宮内に泊まる可能性もあるから、あとで時間があれば案内してもらうがよいだろう」


 スウェンドルの言葉の意味を理解したアルフィリースは、私室の方をじっと見据えた。隠形で再び隠れているイルマタルも意図を察したか、そうっとそちらに向かったような気がする。

 そしてミラがアルフィリースを控えの間に案内した。


「しばらくお待ちを。後続が合流し、王の準備ができ次第ご案内いたします」

「わかったわ。でも本当に寒いのね、暖炉に火をくべていい?」

「申し訳ありませんが、燃料の関係で王でも昼は暖炉を使えません。さむければこちらの防寒具をどうぞ」


 巨熊おおくまのものらしき毛皮を渡され羽織ると、人心地つくアルフィリース。そして兵士が数名とミラと呼ばれた女騎士しかいないことを確認すると、そっとミラに耳打ちするアルフィリース。


「ところで私の知り合いに似ているのだけど、お姉さんとかいたりしない?」

「・・・出奔した姉ならおります。縁は切れておりますが」

「ルイって名前かしら?」

「そのような名前だったかもしれませんが、それが何かこの度の用向きにご関係がありますか、使者殿」


 会話の糸口を叩き切るような鋭さがなんとも姉妹だなと、アルフィリースですら言葉に詰まった。ひょっとしてルイはとっつきやすい性格だったのか、他の家族の顔が見てみたいなとアルフィリースはくだらないことを考えていた。



続く

次回投稿は、3/4(金)20:00です。

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