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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2305/2685

大戦の始まり、その48~西部戦線⑬~

「密談かい、黒髪の」

「ええ、密談よ」


 にっこりほほ笑んで密談を認めるアルフィリースに、がっはっはと豪快に笑って返すドードー。顔の上半分は兜で隠れて目しか見えないが、あってもなくても同じように感じられるから不思議だ。まるで兜が体の一部のように見える。


「やっぱりお前さん面白いぜ。俺の女にゃいねぇ種類の人間だ」

「それはどうも。お姫様とやらの奥様には似てないかしら?」

「似てねぇな。あれはただお姫様に生まれたってだけで、高潔な魂は持っているが、為政者じゃねぇよ。だから亡国の姫ってのが、似合ってるのさ。ま、そこがいいんだが」


 噂は本当だったのかとリサとアルフィリースが顔を見合わせたが、同時にこともなげに話すドードーの懐の大きさにも感心するアルフィリース。


「ドードーは王様になりたかったの?」

「昔はな。だって、夢があるじゃねぇか。元鉱山奴隷の俺が王様だぜ? 大戦期ならともかく、泰平期になった今じゃ滅多にねぇことだ。だが今となっちゃどうでもいいことだなぁ」

「どうして?」

「俺にとっちゃ国よりも家族が全てだ。逆に言えば、家族いるところが俺にとっちゃ国だ。そして家族を守るって意味なら、現在の国のような形を取る必要はねぇと気付いたのさ。それによ」

「それに?」

「国なんて、面倒くせぇだけだろ?」

「同感」


 アルフィリースとドードーが、がっちりと握手した。それを見て、似た者同士だと嘆息するリサ。そしてドードーが凶暴に笑った。


「やっぱりお前さんを妻にするのは、止めた方がよさそうだな」

「どうして?」

「何かを成そうとする者は同時に並び立てねぇ。俺の妻たちは良い女揃いで、お前さんもそうであることに違いはないが、お前さんは隣に並び立つ者として俺の力を必要としないだろうな。あんたの隣に並び立つことができるとしたら――」

「したら?」

「そりゃあ騎士だ。お前さんのやろうとすることを正確に理解し、無言でお前さんの支えになる。そんな奴が傍に必要だろう」

「傭兵の傍に騎士? 難しい注文ね」

「そうかな? 難しくはないと思うぜ。お前さんの理解者はもう、十分多くいるだろう?」

「どうかなぁ」


 アルフィリースは苦笑したが、リサもドードーの意見には素直に賛成できなかった。本当の意味でアルフィリースの為さんとすることを理解している者が、どれほどイェーガーの中にいるというのか。

 ニアはそうだろうが、彼女にはカザスと別の人生がある。そしてフェンナはシーカーの王族としての生き様がある。ロゼッタはアルフィリースを信用しているだろうが、やはり芯から傭兵なのだ。イェーガーに所属する理由がなくなれば出ていくだろう。それはルナティカやジェシアも同じだろうし、エルシアやゲイルなども未知数だ。

 ラーナやエクラ、レイヤーはアルフィリースを崇拝している節があり、対等ではない。クローゼス、ミュスカデは魔女でありアルフィリースに共感して平服してしまうだろう。ダロンやエメラルドにも感情はあるだろうが、種族が違うせいかいまいち自分の感情を上手く伝えられていない可能性があるし、アルフィリースのことも理解しているのかどうか、わかりにくい。

 そうなると、エアリアルくらいなのだろうか。イルマタルはまだ幼く、ラキアやマイアも真竜なのだ。アルフィリースのことを理解しても、寄り添うことは難しいかもしれない。


「(思ったよりも、孤独なのでしょうか)」


 そんな風にアルフィリースの傍に寄り添いながら、それでも彼女を中心に人の輪ができていくのを見ると、本当に孤独なのと、どちらが残酷だろうとリサは思う。

 だがそんな思索に耽る暇もなく、今度はフリーデリンデの天馬騎士団がアルフィリースの下に挨拶にやってきた。

 その先頭にいる女性に、思わずアルフィリースは目を見張った。カトライアは絶世の美女だが、それとはまた違う気高さと柔らかさを備えていたからだ。薄い青色の長い髪をたなびかせるその様子は、彼女がロックハイヤー大雪原そのものを思わせるようないでたちだった。

 カトライアがその女性を紹介する。


「アルフィリース、挨拶をさせていただけますか? 何人かは面識があると思いますが、今回改めて共に戦う仲間たちです。冬のロックハイヤーを攻める愚か者はいないと思いますが、一応何名かの主力を残し、これが我々の総戦力になりますわ。そしてこちらが、総隊長のミストナ様です」

「よろしくお願いしますわ、アルフィリース殿」

「こちらこそ。手紙の上では何度もやり取りさせていただきました」


 ターシャを始めとした、定期的なフリーデリンデの天馬騎士団の派遣部隊を扱うイェーガーである。当然総隊長であるミストナの許可が必要であるため、書面の上では何度もやり取りをしていた。

 丁寧できちんとした文体からも、彼女は充分な知性と教養を持ち合わせ、何より慈愛に溢れた性格だと想定していたが、その通りの優しい笑顔だった。ターシャ曰く、その彼女の天馬騎士としての戦闘能力は随一らしく、いまだに彼女から天馬騎士として一本取れる天馬騎士は出現していないらしい。

 ミストナと握手をしながら、アルフィリースは質問した。



続く

次回投稿は、2/12(土)21:00です。

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