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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2303/2685

大戦の始まり、その46~西部戦線⑪~

 一見開けた場所をぐるりと半円状に取り囲むように城壁が囲み、半円状に矢を射かけ易いように作られていた。門という名の、罠。これなら崖をよじ登ってから、門に取りついた方が攻めやすいだろう。

 ただ、門そのものの高さが崖の倍はある。そして崖の上にも何らかの仕掛けが施してあるはずだし、岩肌も長らく風に吹き晒されたせいか、つるつるだ。甲冑を装備して、まともに歩けるものだろうか。ここ一つとっても、難攻不落。門を開く様子を見て、大きな取り巻き式の鎖を二か所同時に扱わねばならず、さらに内側には鋼の格子が二重に下りていて、それらも同じく取り巻き式の鎖を二か所同時に巻き上げてようやく開いた正門の頑強さに、思わず一同は嘆息を漏らしていた。

 アンネクローゼがやや得意気になるのも、わかろうというものだ。


「ここからが市街だ。住居と商業施設、地上軍の拠点となる」

「住人の数は?」

「80万ほどだな。ほとんど全てが、軍関係者の家族になるが」

「逆に言えば、若い人たちはほとんどが軍人?」

「それに近い」


 アンネクローゼの言葉通り、中で彼らを出迎えた市民たちはほとんどが老人、女、子どもだった。その数は少なく、雅さには欠ける街並みを見てアルフィリースは納得した。

 ローマンズランドは商業都市ではない。おそらくは奥まったところに耕作地などもあるだろうが、国自体が巨大な軍事基地と同様だ。そのため、露店などは一つも見当たらない。生活必需品だけを売る店があれば、それで成立するのだろう。あるいは、国そのものが配給している可能性すらある。

 武力で他国を従わせ、貢物で成立させた巨大な軍事国家。それこそがローマンズランドの本質であり、彼らは民衆に至るまで支配者のつもりでいる。現に彼らは気難しい表情をして、アルフィリースたちに疑念の視線を投げつけているではないか。

 それでもアンネクローゼのことは誰しもが知っているのか、彼女がさっと手を挙げると住人たちは恭しく頭を垂れた。ただ、その表情が読めなくなったのはアルフィリースにとっては逆に不気味だった。


「・・・この広場は、敵を引きこんで撃滅するためのものかしら?」

「そのために、門の周囲は背の高い集合住宅で固めている。いざとなれば、盾ややぐらになるからな」

「道も細いですね。それに入り組んでいます」

「都市計画がずさんなせいもあるが、結果的にちょっとした迷宮となった。二の門までは直線では進めぬようにしてある」

「水はどうしているのです?」

「雪解け水があるから苦労はしない」

「この街全て、城壁でぐるりと囲っているの?」

「そうだ」


 80万人もの人がいるなら、ミーシアをまるごと門で囲むようなものだ。それほどの巨大城壁に、一切の綻びはないというのか。アルフィリースはそんな疑念を抱きながらも、アンネクローゼの先導で街中を進む。道はなだらかに上昇しているが、時に急勾配となり、馬が進むのに苦労するほどだった。階段が突然出現したり、ただ移動するにも大変そうだ。

 道幅は狭く、馬が三頭も並んで歩けばそれだけですれ違うことは困難だ。


「市街地でも十分に戦えそうね。それに完全占拠は困難だわ」

「だろうな。我々でも把握しきれていない裏路地、住宅は数多くある。万一門が落とされても、ここで十分に戦うことが可能だろう。相手の完全制圧にも時間がかかるだろう。常に地の利は我々にある」

「二の門はまだですか?」

「馬の歩く速度で一刻はかかる。ゆっくり進むぞ」

「そんなに!」


 途中休憩をはさみながら、ようやく二の門に到着する一行。門は高台に設置されており、今度は簡素な造りだったが、そもそも門まで200段はある階段を昇らされた。わざとこういう造りにしてあるのだろうが、これでは門に取りつくこともまともに出来はしない。

 そこからアンネクローゼに促されて背後を振り返ると、既に下層の町は遥か下に霞みつつあった。それほどの距離を登ってきていることに、愕然とするイェーガーの面々。

 そして二の門自体は一の門に比べれば小さくはあるが、一の門の倍近い高さを誇っていた。今度は比較的簡単に開いた門をくぐると、さらに先の見えないほどの長さの階段が出現した。アルフィリースですら、思わずげんなりする構造。


「うへぇ、これを登るの?」

「そうだ、馬で登ると一苦労だろう? 地上部隊が発達しない理由がわかったか?」

「だから地上部隊はさきほどの市街地に中に、訓練場などの拠点があるのですね?」

「その通りだ。普通は第三層以上には竜で行き来するからな。逆言えば、竜に乗ることができない者は、貴族たる資格がないともいえる」

「たしかにこれは、ローマンズランド独特の感性ね」


 アルフィリースたちは馬に負担をかけないように、ゆっくりと階段を昇り始めた。途中二度ほどの休止を挟み、無理なく登っていく。

 十分に訓練を施したイェーガーの戦士たちですら、息を切らしていない者はほとんどいない。

 馬に乗っているだけのリサですら、不満を漏らし始めた。


「も、もう何段登りましたかね・・・3000くらいまでは数えていましたが」

「三の門が見えないわ・・・これ、何段あるの?」

「6557段だそうだ」

「うげえっ!」


 女子らしからぬ声を出したアルフィリースに突っ込む余力もないリサ。その中で、アンネクローゼが空を見上げた。


「まぁさすがにそろそろ到着だ。上を見ろ」

「何アレ・・・岩の橋?」

「天かける岩橋だ。建国当初からあると言われている。飛竜に乗れるなら、その上で休むのはちょっとしたお洒落だな」

「ローマンズランド独特・・・」


 リサが息を切らしながら、精一杯感想を述べた。同時に、うっすらとかかっていた霧が晴れ、門が見えた。


「霧が晴れたわ」

「霧と言うよりは、雲だが」

「そこまで高い所に来ているのですか?」

「そうだな。おかげで飛竜の営巣地は見つかりにくい。他国の人間がここまで大勢入るのは、フリーデリンデ以外ではお前たちが初めてだ」

「ミュラーの鉄鋼兵は?」

「あの重装備で、ここまで上がれると思うか? 一部の幹部だけだよ。それ以外は、第二層に駐留させている。さ、もう一息だ」


 アンネクローゼに促されて登った先では、さらに驚く事態が彼らを待っていた。



続く

次回投稿は、2/8(火)22:00です。

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