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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2302/2685

大戦の始まり、その45~西部戦線⑩~

***


「ここがローマンズランドの首都なのね――」


 アルフィリースはローマンズランド全軍を後退させながら、殿軍を務めつつ、ほとんど被害なく後退させることに成功していた。

 衛星国だけならまだしも、領地内の砦や街にまで打ちこわし、火をかけるアルフィリースの進言に、眉を顰めなかった者はいない。だが殿軍での奮闘ぶり、相手の追撃を躱す手段、機転の利き方。それら全てを、ローマンズランド軍も評価せざるをえなかった。

 相手が戸惑い慎重になったためとはいえ、ザガリアを失ってからのローマンズランド軍に実質的な被害はなく、殿軍であるアルフィリースもローマンズランドの首都に入ることに成功した。そしてその荘厳さに、思わず感嘆の声を上げた。

 ローマンズランドの首都、スカイガーデン。山を切り開いて作られたその街と城、城壁は、実にピレボス連峰の中腹にまで及ぶ。スカイガーデンは三層に分かれており、下層は平民と流民、貧民の暮らす土地。そして第二層は軍事教練などを行う施設と屯田用の棚地と商業施設。そして三層は騎士、貴族階級の住居と飛竜の営巣地となっていた。その上に、ローマンズランド宮殿があるが、山をくりぬいてそのまま城に改造した労苦と発想、そしてその荘厳な意匠がアルフィリースの心を捉えて離さない。


「・・・凄い! ここまでのものを、人間が造ったの?」

「最初は魔王の居城だったと聞いています。入り口はまだしも、最後は急斜面になりますから難攻不落の城塞だったようですね。それをさる青年が、飛竜と心通わせその居城を陥落させたのがローマンズランドの始祖とされています。それが数百年前の出来事だとか」

「もっと言えば、意匠を凝らしながら現在の三層に分けたのは数百年の時をかけてのことだ。当時は本当に切り立った崖を登攀しなければ宮殿に辿り着けなかったらしい。工事の過程で、戦争並みの人数が死んでいったとの記録がある。この居城は、我らの血と汗の証でもあるのだ」


 アンネクローゼが自らアルフィリースを出迎えながら、リサの説明を補足した。アンネクローゼと共に馬を並べて登りながら、第一の門をくぐると、第二層に向けての上り坂となった。道は狭く、壁は高く。おそらくは段々になった平らな土地から一段下げて道を作ったのだろうが、壁の上に弓兵を配置すれば、面白いように狙えるだろう。

 アルフィリースはそんなことを考えながら、門の中の坂を上がっていく。曲がりくねりながら、一挙に速度が出せないようになっている中、アルフィリースは壁外の居住地を見下ろした。


「城壁の外にまで、住居があるのね」

「人口は増え続けているからな。スカイガーデンは本来、第一の門をくぐってからの場所を指すのだが、収容できる限界を超えてしまった。やむなく城門の外にまで居住区が出来る始末だが、見ての通り衛生環境はよくない」

「治安も悪そうですね?」

「弁解はしない。本来彼らには居住する権利を与えていないのだ。追い払っても追い払っても集まってくるのだから、やがて我々も諦めてしまった。だから仕事があるわけでもない。今では日雇い労働や、たまにある魔獣の襲撃時に駆り出されるくらいだ」

「肉の盾ですか?」


 リサの辛辣な言葉に、アンネクローゼは一瞬口ごもったが、小さく肯定した。


「否定はしない。そう明言する者もいるが、彼らもまた人間で、ローマンズランドの国民だ。少なくとも、私はそう思っている」

「ふむ。そのあたりも貴族や王族で意見が分かれそうですね」

「・・・住居の数に比べて、人が少ないように見えるわ」


 アルフィリースが炊煙を数えながら述べた。リサも感じていたことだが、アンネクローゼの表情はますます澱む。


「リサも同感です。どこかに出かけましたか? それとも、大きな稼ぎ口が?」

「・・・軍事機密だ」

「ほぅ、つまり軍事行動に駆り出されたと」

「リサ、その辺にしておきなさい。いずれわかることだわ。ローマンズランドは、私たちの雇い主なのだから」

「別にアンネクローゼを虐めているわけではありません。もちろん雇い主として、敬意は払いますとも。雇い主としてはね」


 リサはわざと棘のある言い方をしたが、アルフィリースとアンネクローゼが友人であることを理解したうえでの発言だった。友人であるからと、一線をいともたやすく越えられては困る。払うものは払ってもらうし、無理なものは無理だと牽制しておきたかった。

 しばしアンネクローゼが俯いていたが、やがて正門が近づいてきた。正門前は小さな軍が駐留できるほどに開けていたが、そこには仰々しいまでの検問所と鋼鉄製の扉があり、巨人が何人がかりでも力づくで開けることは不可能に思われた。

 壁の上には重装備の兵士が多数警らしており、戦時である以上に警備が厳重だと思われた。


「ここが本当の門ですか」

「ここからが第二層だ。貴族の住居を含んだ、本来のスカイガーデンになる」

「なるほど。これなら大軍が攻め寄せても、そう簡単には落ちないわね。攻城兵器も、そう何台も持ち込めるものじゃないし、攻め込める場所が限られている。攻めやすく、守りやすい城だわ」

「何代にもわたって、工夫を重ねたからな」


 アンネクローゼの説明通り、これだけ強固な城壁はちょっと見ない構造だった。



続く

次回投稿は、2/6(日)22:00です。

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