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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第二章~手を取り合う者達~
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剣士の邂逅、その1~遭遇~

「何をする!」

「ふふふ、一緒に潜入している仲なんだから、仲良くしようと思って」

「冗談はやめろ!」


 その手を振り払おうとしたマスカレイドの乳房を、カラミティはさらに強力にねじり上げた。


「つうっ!」

「ふふふ、私は大まじめよ・・・私はね、私に逆らう者が大嫌いなの」


 後ろからマスカレイドに熱い吐息を吹きかけながら、カラミティの声が冷たさを増していく。


「私に逆らう者を見るとね・・・どうしても従わせたくなっちゃう。こういう物をねじ入れて、ね」


 マスカレイドの頬に、ぬらり、とぬめった軟体生物のような何かが這いずる。それは鎌首をもたげると、マスカレイドの方を向いてがばりと口を開いた。その口の中には無数に歯が生えている。


「死の接吻・・・味わってみる?」

「私に手を出せば、ヒドゥン様が黙っていないぞ?」

「ふふ、あの人ねぇ・・・」


 背後でカラミティが嗤う。


「あんな弱い人に何かができるとは思わないけど・・・? 私を倒すことができる者など、誰もいはしない」

「ふん、それはどうかな?」

「できないのよ。もう私は1500年くらい生きているけど、誰も私を殺せなかった。どんな勇者でも、魔獣でも、魔王でもね」


 カラミティがマスカレイドからゆっくりと離れて行く。


「もっともブラディマリアはかなり厄介な相手だったし、お互いに勢力圏がぶつからないように南の大陸では気をつけてたんだけどね。ドラグレオが出現してからは三すくみになってしまったけど」

「ならば、彼らが相手なら貴様とて・・・」


 マスカレイドが服を正しながら質問する。


「うふふ。確かに厄介であるとは言ったけど、誰も戦えないとは言ってないわ。ただ私達が本気で戦うと、大陸は完全に滅びちゃうでしょうから。私達はね、とても支配欲が強いの。無人の荒野に君臨する気はさらさらないのよ」


 カラミティは楽しそうに語る。


「もっともドラグレオの坊やは何も考えてないのでしょうけど。私は人間が好きなのよ。だって、彼らが悶え苦しみ、泣き叫び、呪いの言葉を吐きながら地べたを這いずりまわる様は、見ていて滑稽でしょう?」

「・・・外道め」


 マスカレイドは思わず本音を口にした。既に死への恐怖は、カラミティへの嫌悪で薄れていた。そんな彼女を見て、カラミティは満足そうに嗤った。


「ふふふ、私にそこまではっきり意見を言う者は珍しい。貴女は面白いから生かしておいてア・ゲ・ル。じゃあおやすみなさい」


 そうして冷たい哄笑と共に闇に姿を消すカラミティ。一人暗闇に残されたマスカレイドは、背中にびっしょりと冷たい汗をかいているのだった。


***


 ここは人里離れた山中。人間の寄りつきもしない様な深い山の中、戦いの喧騒がそこかしこにこだまする。


「こいつで・・・最後ぉ!」

「最後じゃないよ、ミレイユ!」


 巨人の女剣士グレイスが叫ぶ。


「一体でも逃すとまた再生する! 逃がすな!」

「わかってるよ!」


 片目に眼帯をした男が、逃げた魔物を自分の部下を連れて追う。先行する女が鎖鎌を二足歩行の魔物の足にからめ、鎌を背中に付きたてる、奇声を上げてのけぞる魔物に、眼帯の男が大剣を振り下ろした。

 魔物は真っ二つになり、血飛沫を上げて絶命した。魔物の死を確認すると、額の汗をぬぐう眼帯の男。


「これで全部か?」

「やるじゃねぇか、マックス」


 獣人の大男が木の間から姿を現す。両手には、同じ形の鳥のような一つ目の魔物を引き摺っている。


「ゼルドスも終わったのか」

「ああ、今は部下に周辺を捜索させている」


 黒いコートを着る彼らは、ブラックホークのメンバーである。一番隊隊長マックス、四番隊隊長ゼルドス。もちろんヴァルサスが率いているのだが、彼らは魔王討伐の依頼を受け、山深くに分け入り討伐を行っていたのだった。だが今回の魔王は特殊で、群体のような性質を持っていた。一体でも取り逃すと、翌日には元の数が揃うのである。この魔王と戦うのは、ブラックホークは既に三度目だった。


「今度こそやったんだろうな?」

「ああ、もう飽きた。これ以上はやりたくねぇな」

「マックスぅ~私達そろそろお風呂入りたいよ~」


 マックスの部下であるラバーズの面々が不平不満を口にする。その彼女達の頭を撫でながら宥めるマックス。


「よしよし、じゃあ町に戻ったら一緒に風呂に入るか?」

「いやーん。スケベ~」

「はっははははは!」

「・・・勝手にやってろ」


 呆れたゼルドスがマックスに背を向けたその時、頭上から何かが飛来する。腑抜けた空気が一瞬で引き締まるが、それよりも地面に降り立ち逃走を図る魔物の方が速い。


「しまった! まだいたのか!」

「くそっ! 逃がすな!」


 叫ぶよりも早くラバーズの面々が追撃態勢に入る瞬間、逃げ出そうとした魔王の首が飛んだ。魔王は自分の首が飛んだことに気がつかないのか、木にぶつかっても走る足を止めない。いわゆる脊髄反射というやつであろう。


「・・・ルイか?」

「お前達、詰めが甘いんじゃないのか?」

「まったくっす。こちとらこれで10体目ですよ?」


 ルイの後ろからレクサスが姿を現す。抜き放たれたまま刀身は、返り血に濡れていた。彼はその剣を無慈悲に地面に転げた魔王の頭に突き刺した。


「お前達、なんでここに?」

「気になることがあってな。ヴァルサスに相談に・・・」

「誰だ!」


 ルイの言葉を切るように、レクサスが弾けるように突進した。木の陰に誰かの気配を感じたのだ。5km離れての追撃を感知するレクサスだが、こんな10m程度の距離になるまで気配を感知できないとは、普通ではない。その危機感が、レクサスの警戒心をいやおうなく高めさせた。

 そして姿を確認するよりも早く切りかからんとするレクサスだったが、木の陰にいた人物が長い髪をしていることに剣を振り下ろしながら気がついた。


「(人間の女!?)」


 そしてレクサスは無理矢理剣を止めた。剣の切っ先は、女の首を刎ねる寸前で止まっていた。


「あ、危ない・・・」


 レクサスが止めていた息を一斉に吐き、目線を上げる。その彼の目の前には、地面につくほどの黒髪を中ほどで赤いリボンを使い一つに束ねた女性が、無表情で立っているのだった。



続く


次回投稿は6/2(木)7:00です。


もう始まっちゃいましたが、新シリーズスタートです。よろしければ評価・感想などお願いします。



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