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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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大戦の始まり、その37~南部戦線⑧~

「レイファン様!」

「良くない報告ですね?」

「はい、敵の第三波と随行兵がきます!」

「やはり・・・ですが、これが本命とも限りませんね」


 レイファンは少し考えてから、決意をした瞳を彼らに向けた。


「敵陣内深くの動きも探れますか?」

「難しいですが、やれないことはないと思います」

「多少の損害も厭いません。強引にでも探ってください」


 レイファンの強い決意を込めた瞳を見て、ブルーウィンの斥候は一礼をして去った。同時にロンの方に馬を向けた。


「ロン殿」

「王女、さすがに少し下がられた方がよかろうと思います」

「はい、敵の第三波が来ますからさすがに下がらせていただきます。随行兵も一緒のようです。敵の本隊が出撃してくるかと」

「なんと?」


 レイファンの情報にロンが驚き、そしてさらに次の提案にさらに驚くことになる。


「そちらは私どもの部隊で押さえさせていただきます。ロン殿は本陣を後退させる準備をしてください」

「え? まだ敵の第二波は混戦でも、互角に戦っておりますが・・・」

「第一、第二波の間隔と、第三波までの間隔が狭まっています。ここまでで五分。もしこれで第四、五波が準備されていれば、我々は危機に陥ります。さらに私が危惧するのは、もし相手に背後を突くような手段があれば、全滅必至になるということです。軍を指揮する立場の者として、今が伸るか反るかの勝負時だとはまだ思いません。

 それに、これがもしエクスペリオンによる魔王の作成だとすれば、強制的に魔王となった人間は数日で崩れて死ぬ可能性もあるのです。もしそうなら、数日逃げれば我々の勝ちとなります。あたら将兵を失うなんて、馬鹿馬鹿しくもあります」

「その確証は?」

「今敵の本陣を多少強引に探らせています。今は強引に前に出るよりも、どちらにも対処できるような用兵がようございましょう」

「しかし、撤退するなら殿は決死隊となります。魔王に追いかけられながら逃げるとなると――」

「それも考えがあります。私を信じて、お任せいただけますか?」


 レイファンの言葉にロンはしばし唸ったが、戦術や内政ではともかく、戦略ではロンはそこまで自信を持っていない。ドライアンの方が戦略眼はあることは明白だから自分は宰相の地位に満足しているし、先見の明も他の獣人に比べればマシ、という程度で、ゼルドスやアムールほどの自信はない。

 ロンはグルーザルド主力を預かる立場として他国に人間の策に全て任せるつもりもなかったが、確かに危険性はあらゆる可能性を考慮しておくべきだとも考える。前のめりになって泥沼にはまる、などということが一番やってはいけないことだった。

 ただ、今までのグルーザルドの無双する戦い方とはあまりに違うので、即座に決断ができなくもあった。


「・・・承知しました。後詰は出撃させず、陣払いを開始します。ですが、敵の第一波は少なくとも全滅。そして第二波にも打撃を与えておかないと、撤退すらままなりません。そこまでの戦いはご容赦いただきたい」

「もちろんです。我々の足止めも、ある程度準備に時間が必要でしょうから」


 そう言ってレイファンが軍を動かし、クルムス軍が敵本陣の正面にある森の隘路で迎撃を。グルーザルドはヴァーゴとロッハの部隊だけで魔王と戦うことになった。

 ロンの計算では後陣まで兵士を突入させて一気に撃滅するつもりだったので、戦いは厳しいものとなっていく。本陣に控える兵士は、目と鼻の先で仲間が傷つき倒れていくのを見ているだけとなった。

 そのうち、森の隘路で戦いの声が上がり始めた。敵の第三波とクルムス軍がぶつかったようだ。隘路なら敵の機動力を殺すことはできるが、魔王の突撃を防ぐことができるかどうかは決死の覚悟が必要になる。ロンはじりじりと焦るような気持になっていた。


「レイファン殿は下がられたか?」

「はい、既に陣払いしてございます」

「レイファン殿に護衛の兵を500つけなさい。クルムス軍への護衛も、1000出撃させなさい」

「はっ」

「さて、レイファン殿下の奥の手はどんなものでしょうか。我々は知らぬ方がよいと思い何も聞きませんでしたが、果たしてじれったいものですね」


 ロンは自分でなければこの焦燥感には耐えられないと思いつつも、ドライアンがこちら側の軍を託した意味を考えながら、ただ耐えていた。

 そしてレイファンの斥候が帰ってくる頃、戦いは次の展開を見せた。


「レイファン殿下、申し上げます!」

「探れましたか?」

「はい。やはり敵の陣深く、不自然に天幕が多くございました。その天幕は普通のものよりも大きく、中からは――」

「魔王が次々に出現した。そうですね?」

「は、はい」

「その中に、この条件を満たしそうな個体はいましたか?」


 レイファンが紙に書き留めた条件を斥候に見せると、彼はぎょっとして食い入るようにその紙を見つめた。そして乾き切った口を潤すように唾をのみ込みながら、ようやく言葉を絞りだした。


「こ、この条件に該当しそうな個体はいました」

「確認します。他は大丈夫ですね?」

「は、はい。ほとんど全ての天幕から出て来る個体を確認しましたので、おそらくは。続報があれば、次の斥候から届くと思います」

「そうですか・・・ならば、勝てる」


 レイファンが確信をもったように得意気に笑った。それはいつもの小王女が見せるような優雅な微笑みではなく、挑戦的な、見る者が見たら同じ感想を抱くであろうアルフィリースのような企み深い笑みだった。



続く

次回投稿は、1/21(金)23:00です。

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[一言] レイファン恐ろしい娘! まだ14、5くらいの年の頃のはずなのに
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