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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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大戦の始まり、その36~南部戦線⑦~

「敵襲だ! 陣形を組め、押し返すぞ! 各部隊長、攻撃用意!」

「はっ! 攻撃用意、隊伍を組め! 10人1組にて、最低3隊から当たれ! 倒すまで下がるな、殲滅だ‼」

「「「応っ!」」」


 さすがグルーザルドの軍隊は練度が違う。魔王の群れが相手だとしても、その戦闘意欲と練度、闘志は落ちるものではない。だが次々に森から出て来る魔王を相手に、ほぼ総員が青ざめていたのは純然たる事実だった。

 ヴァーゴもまた兵士を鼓舞するために、自ら先頭に立った。


「攻撃は必ず通用する、奴らも生き物だ。特徴を見極め、取り囲んで殺す!」

「そうは言っても、奴らの再生能力は尋常ではないのでしょう?」

「再生が追いつかないほどの速度で相手の皮膚を、肉を削り取れ! 数は俺たちの方が圧倒的に上だ。絶対に倒せる、倒さなくてはいけない! グルーザルドの誇りを、あんな化け物共に蹂躙させてなるものかよ‼」


 ヴァーゴの鼓舞に兵士たちが応え、歓声が先頭で準備する部隊に行き渡ったのを見届けると、ヴァーゴが先頭で突撃したことをきっかけに戦端が開かれた。

 ロンはそれを見て、ロッハを呼び止める。


「敵の第一波はヴァーゴに任せたまえ」

「第二波があると?」

「レイファン殿はそう読んでおいでだ。私が敵の指揮官でもそうする。戦力の小出しは下策だが、強力な波状攻撃なら敵の戦意を削ぐだろう。その次も続く可能性がある。決して死ぬな。死ぬくらいなら撤退を選択するように。特に100人長以上は、絶対に生き残らせろ」

「それは、命に優先順位をつけろということですか?」

「そうだ。我々にその判断が求められる場面だ。そして非情な決断が、結果として全員を救う、かもしれない」

「そこは言い切ってくれ、宰相」


 ロッハの批判的な視線に、目を細めて口元を隠すロン。


「政治を始めると、言い方が狡くなっていかんな。だが汚名は私がかぶろうではないか、それで許せよ。ただし、私がいなくなったときは、次は君だ。それは承知してもらうぞ」

「・・・承知した。そうならないように戦うとしよう」


 ロッハはロンの決意を汲み取りながらも、油断なく戦況を見渡していた。

 ヴァーゴ率いる先鋒は、優位に戦いを展開できている。さすがの連携をみせながら魔王をそれぞれ孤立させ、間断なく一撃離脱を繰り返し、確実にその数を減らしていた。


「こいつの弱点はどこだ!?」

「目を潰したら、目が増えやがったぞ。クソ!」

「落ちつけ、片端から潰せばいいんだ!」

「怪我人が増えてきた、第17小隊は一度後退する! 負傷者の手当てを!」

「左翼に2小隊、急げ!」


 ロンが戦況を見ながら矢継ぎ早に指示を飛ばす。そしてヴァーゴが3体目の魔王を沈めた頃、斥候から次の報告があった。


「敵の第二陣が出陣しました! その数、100!」

「また魔王の増援か?」

「わかりません、また同じような人間ですが――」

「確実に魔王だろうな。森の中で変形するのか」

「いっそ、変形する前に仕留めたらどうだ?」

「敵陣に肉薄してか? 陣の中から直接魔王が出現するだけだろう」


 斥候の報告を受けたロンとロッハが協議するが、良い結論が出るわけではない。そうして第一波の魔王が数を半分以下に減らす頃、第二波が森から姿を現した。だがその姿を見たロッハとロンは、予想と違う展開に歯ぎしりする。


「・・・魔王の形状が違う!」

「先ほどまでは人型が中心だったのに、今度は虫型、だと?」


 先ほどまでは二足、あるいは四足歩行の人や獣を模した魔王が中心だった。だが今度は、6脚以上の虫型の魔王が猛然と走って出てきたのだ。

 先ほどまでの魔王が、頑丈だが移動速度は遅かった。だが今度の魔王たちは移動速度が速く、あっという間にヴァーゴが率いる先鋒部隊に肉薄した。


「いかん! 出るぞ!」

「頼むぞ、ロッハ!」


 ロッハ率いる部隊が弾けるように出陣していったが、先鋒を交えて今度は混戦模様となっていた。ロッハ率いる速度重視の部隊だったからなんとか混戦に持ち込んだが、もし逆だったら一気に蹂躙されていてもおかしくなかった。

 その様子をロンの隣で見ていたレイファンは、相手の意図をなんとなく察していた。直接軍を率いる経験は、兄ムスターを討った時も含めて実に4度目。その経験も合わせて、魔王を相手にする時とそれ以外で違うことを、レイファンは経験則として知っていた。

 魔王を相手にすると、普段と違う展開を想定する必要がある。アルフィリースにも確認したが、同じような感想を抱いていた。つまり、最悪の最悪を想定するということ。この場合、やられてもっとも嫌なことは何か。レイファンは知恵を巡らせる。


「私が敵なら――どう考えるか。考えろ考えろ・・・考えなさい、レイファン」

「くそっ、第一波から半刻程度で次の魔王とはな! 一波だけだとは思っていなかったが、もう次か!」

「そう、敵の出陣が早い。準備していたみたいに・・・いえ、もう準備は済んでいるとしたら。ならば、次に取るべき手は」


 レイファンが考え付いた時、同時に敵の陣の頭上、山の上に偵察に出していたブルーウィンの斥候から連絡があった。



続く

次回投稿は、1/19(水)23:00です。

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